合理的設計と進化分子工学による酵素機能の改変


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個々のタンパク質は、それぞれ独自の極めて正確で効率的な機能を発現する。特に酵素は、無機触媒と比較して特異性が高く、高効率な触媒作用を示す。よって、酵素の産業利用は、低エネルギー化、低コスト化の切り札として期待されている。しかし、我々が欲する触媒能を持った酵素が必ずしも自然に存在するとは限らない。そこで、酵素活性を自由に創出するための技術開発が望まれている(酵素のテーラーメイド)。
しかし、タンパク質や酵素を自由に設計することは現在の技術ではまだ難しい。現在までのタンパク質設計における最高の成功者は「進化」であるので、「進化」を学び、「進化」に倣うことが、新しいタンパク質や酵素を創り出す一番の近道である。そこで、進化の原理を模倣することによってタンパク質の物性や機能を改変する進化工学の手法を用いて、タンパク質の安定性や触媒効率を向上させ、あるいは、機能を改変することにより、医療や創薬・医薬品合成、または産業的に有用な新しい活性をもった生体触媒の開発を試みている。
 (β/α)8バレルは、現在までに立体構造が決定されたタンパク質の約10%に見られる、天然タンパク質の構造としては最も高頻度に現れる基本構造(フォールド)である。(β/α)8バレル構造を持つタンパク質は、わずかな例外を除いてほとんどが触媒活性を持つ酵素である。 しかも、(β/α)8バレル酵素の活性部位は、例外なく、中央のβバレルのC末端側に存在している。一方で、(β/α)8バレル酵素が示す触媒活性に共通性は無く、様々な反応を触媒している。つまり、進化は(β/α)8バレルフォールドを好み、たくさんの(β/α)8バレル酵素を創りだしてきた。このことは、何か新しい触媒活性が必要になったときに、そのような活性を発現する酵素を創る土台として(β/α)8バレルフォールドは最適であったとも言い換えられる。このような現実に起こってきた進化に倣い、(β/α)8バレル酵素の触媒機能を自由に変換するための研究をおこなっている。
 また、他の材料として、本研究室での研究の歴史が最も長い酸化的脱炭酸酵素(3-イソプロピルリンゴ酸脱水素酵素、イソクエン酸脱水素酵素等)も扱っている。


「進化工学」とは
 タンパク質は長い年月をかけて、安定性や触媒効率、そして機能そのものを変化させながら進化してきた。 ダーウィンの自然淘汰説によれば、進化の駆動力となったのはランダム変異などによる遺伝子の多様化と環境へ 適応するためのセレクション(適応できなかったものが淘汰され、適応したものだけが生き残る)である。 この進化の原理を模倣することによって、タンパク質の物性や機能を改変することができる。このような手法 (進化分子工学と呼ぶ)を用いて、タンパク質の安定性や触媒効率を向上させ、あるいは、酵素の反応特異性や基質特異性の改変により、医療や創薬・医薬品合成、または産業的に有用な新しい活性をもった生体触媒の開発を行う。





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