タンパク質構造内における進化的・構造的単位の探索


 タンパク質は、あるとき突然現存の形のものが現れたのではなく、初期にはもっと小さなペプチド断片がいくつもが会合して機能していたと思われる。つまり、進化の過程を経るに従って、遺伝子重複と遺伝子融合等により、一つの遺伝子がだんだん大きくなったのだろう。タンパク質の多くにドメインの繰り返しや構造の対称性が見いだされることもこの考えと一致する。そこで、自然界に存在するタンパク質の立体構造のなかで最も多く見られる(β/α)8バレル(あるいはTIMバレルとも呼ぶ)構造について、その進化的・構造的単位を探索し、さらにフォールディングメカニズムの解明も行った。  (β/α)8バレルは、現在までに立体構造が決定されたタンパク質の約10%に見られる、触媒能を持つ天然タンパク質の構造としては最も高頻度に現れる基本構造(フォールド)である。しかし、(β/α)8バレルフォールドを持つ酵素がどのようにして誕生したかは定かではない。そもそも、(β/α)8バレルフォールドは進化の過程で一度だけ誕生し、現在存在する(β/α)8バレル酵素はすべてその祖先型(β/α)8バレルから進化してきたものなのであろうか?それとも、(β/α)8バレル酵素の祖先は多数いて、しかも誕生初期は(β/α)8バレルとは異なった構造を持っていたものが、進化の過程で(β/α)8バレルという一つのフォールドに収斂してきたのだろうか?このような根本的な問題ですら未解決である(β/α)8バレル酵素の分子進化は、とても重要な研究トピックであり、様々な手法を用いて、その起源から現在の形になるまでの進化のシナリオを実験的に再現することを試みた。

 また、タンパク質が正しく機能するためには、ポリペプチド鎖が正しい立体構造へとフォールディングする必要がある。このフォールディング過程に異常があることから生じる重大な疾患が近年になって明らかになってきた。(beta;/α)8バレルは一般的な代謝系の酵素から、癌などの病気に関わるタンパク質にまで幅広く見られる。さらに、(beta;/α)8バレルタンパク質間のアミノ酸配列には、必ずしも相同性があるわけではなく、多くのまったく異なったアミノ酸配列が、一つの立体構造へと折り畳まれる典型的な例である。よって、(beta;/α)8バレルはタンパク質のフォールディング研究の良いターゲットでもある。そこで、タンパク質工学的手法、分光学測定を利用した物理化学的手法、および分子動力学計算によるコンピュータシュミレーションを駆使して、 (β/α)8バレルフォールドの折りたたみ機構や安定性獲得機構など立体構造構築原理の解明をおこなった。





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