Protein Simplification Engineering




 この研究では、タンパク質の機能の中でも比較的複雑な部類に入る触媒活性を持った酵素を、限られた種類のアミノ酸のみでコードさせる方法を開発した。つまり、タンパク質全体に含まれるアミノ酸の種類を13種類に限定し、全体の88%の部位が9種類のアミノ酸だけで占められた酵素を作製し、さらに、ある程度の触媒活性を維持していることを示した。
 機能を持ったタンパク質を限られた種類のアミノ酸から作製した例は、この研究を始めるまでは、わずかにsrcSH3ドメインについてのみ報告されていた。SH3ドメインは、アミノ酸残基数が60以下の小さなタンパク質で、機能もポリペプチドとの結合に限られている。一方、今回の研究で用いた大腸菌由来オロト酸ホスホリボシルトランスフェラーゼは、アミノ酸213残基のサブユニットからなるホモダイマー酵素である。本酵素の遺伝子が欠失した大腸菌株はウラシル要求性を示すことが確認されている。そこで、本酵素の全アミノ酸配列をN末端から22領域に分割し、各領域について順々に、コンビナトリアル配列の作製、ウラシル要求性の相補によるスクリーニング、選択された遺伝子の配列解析、そして、解析結果から酵素活性を消失させることのなりアミノ酸置換を予想し、それらのアミノ酸置換の導入を行った。この操作を22回繰り返すことによって、活性が検出できる範囲内で可能な限り多くの部位を9種類のアミノ酸(アラニン、アスパラギン酸、グリシン、ロイシン、プロリン、アルギニン、トレオニン、バリン、チロシン)のいずれかに置き換えることを試みた。その結果、213アミノ酸部位のうち182部位が9種類のアミノ酸で占められ、逆に、7種類のアミノ酸(システイン、ヒスチジン、イソロイシン、メチオニン、アスパラギン、グルタミン、トリプトファン)をまったく含まない改変体の作製に成功した。
 このような結果から、比較的大きなタンパク質でさえも、そのアミノ酸配列とアミノ酸組成を大幅に単純化することが可能であり、しかも、ある程度の酵素活性を維持できることが実験的に証明された。さらに、限られたアミノ酸だけからでも機能を持ったタンパク質を構成できることを証明したことから、進化の初期段階でタンパク質に取り込まれていたアミノ酸のレパートリーは、必ずしも20種類すべてが揃っていたわけではないという仮説が強く支持された。

関連文献
Akanuma, S., Kigawa, T. and Yokoyama, S. (2002) Combinatorial mutagenesis to restrict amino acid usage in an enzyme to a reduced set. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99,13549-13553
赤沼哲史、黒田裕 (2001) アミノ酸配列に含まれる情報量の実験的検証:蛋白質立体構造構築原理と分子進化の観点からの考察. 生物物理 41 (5)、224-229
 





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