原子力とエネルギー問題について


Q)日本も原子力をやめて再生可能エネルギーをもっと導入して脱炭素を進めるべきでは?
A)脱炭素は進めなくてはなりませんが、それぞれの国や地域の実情に合わせて脱炭素を進める必要があります。日本の場合は火力と原子力の両方をやめてしまうと、発電量を調整できる電源がほとんどなくなってしまいます。再生可能エネルギーは天候等に左右されるため、電力需要に合わせて発電量を調整することが困難です。欧州では、仏国を中心とした原子力発電により得られた電力を隣国にも送電し、複数の国が連携して時々刻々と変化する電力需要に対応しています。米国では93基の商用原子炉が稼働中(2021年9月現在)ですし、いざというときはシェールガス等のエネルギー資源も確保されています。中国では稼働中48基に加え、45基の原子炉が建設・計画中(2021年1月現在)です。日本は資源に乏しく、隣国と電力需給を調整する仕組みやインフラもないので脱炭素を進める過程で火力と原子力の両方をやめてしまうと、極端にエネルギーセキュリティが脆弱になる恐れがあります。2019年以降の新型コロナウィルス感染症拡大で日本の感染症対策の課題が浮き彫りになりました。これらの課題は平和なときは私達の目から見え難いですが、いざ問題が起きてから対処しても間に合いません。燃料の輸入に頼る火力や天候などに左右される再生可能エネルギーの他に、原子力のようなエネルギーの安定供給に優れた電源が必要です。

Q)原子力は発電コストが高すぎるのでは?
A)この答えはYESでありNOでもあります。近年は安全対策などにより原子力発電コストが上昇しましたが、それでも安い電源の一つです。但し、問題は建設コストが高いことです。例えば、皆さんのスマホの利用代金を考えてみましょう。簡単のために5年に1回の頻度で5万円相当の機種を買い替えながら60年間スマホを使い続けるとします。この場合、60年間のトータルの機種代は60万円です。この機種代も月々の利用料に含めて、毎月の利用料が8,000円だと仮定します。その場合、60年間トータルのスマホ利用料は576万円(うち機種代60万円)となります。これが「スマホのコスト」です。では、もし「最初に60万円支払ってください。残りは60年分を分割で毎月7,166円支払ってください」と言われたらどうでしょう?60年間トータルで支払う料金は同じですが、スマホの購入をためらうのではないでしょうか?ちなみにこの例ではスマホの機種代がトータルのコストに占める割合は約10%です。原子力の場合はこの割合が約30%と高いことが問題です。先のスマホの例に例えるなら、「機種代173万円、月々の利用料5,600円」というイメージです。これだけの機種代をポンと支払える人は多くないでしょう。近年の安全対策などにより、原子炉の建設コストは約2倍になったと言われています(今までは機種代が約80万円だったというイメージです)。改めて「原子力は高すぎるか?」に対する答えですが、YES(建設費が高すぎる)でもあり、NO(60年間のトータルのコストは安い)でもあります。