量子コンピューター、その現状


量子コンピューターの研究は、まだまだ、初歩的段階にあります。

量子コンピューターへの期待は、「現在のネット上で使われているRSA暗号を短い計算時間で解読できること」にあります。

一方で、それ以外の重要な応用領域はほとんどみつかっていないのが現状です。

そこで、「RSA暗号を解読できることにどれほどの価値があるのか?」という疑問が生じます。

暗号が情報化社会において極めて重要であることは確かですが、それだけでは研究投資の価値はないという考えや、一方、

新しい技術の応用は最初の段階では予想できないという歴史的体験から、量子コンピューターの将来に楽観的な意見など様々です。

 

加えて、技術的な困難さが議論を複雑にしています。

量子コンピューターでは、純粋な量子状態を使う必要がありますが、

純粋な量子状態は、極めて低い温度でないと維持できないという特徴があります。

絶対零度(-273度)に近い温度でしか使えないとすると、大きな研究所に一台しかないような装置となり、

到底、パソコンのように家庭に入る製品にはなりえないだろうという予想が成り立ちます。

したがって、マーケットは限定的であり、科学の発展にとって必要な研究ではあるが、

産業の起爆剤にはなり得ないという推論が成立します。

(将来、各家庭に量子コンピューターが入るという楽観論を述べる研究者もいます)

 

現在行われている研究はおおまかに以下のように分類できます。

 

1.理論的研究(アルゴリズムを含む)。

理論的研究は、実物を必要としないので、これまでの大半の研究はこれに属します。実物を必要とせず(経費がかからず)、

基本的なアーキテクチャや理論体系を提案できれば大きな価値があるので、多くの研究者が参入しました。

ただし、実証によってのみ「使えるか使えないか」が決まるので、生き残る研究は少ないと予想されます。

 

2.実際の物理現象を応用した実証的研究。

まず、1ビットなり数ビットなりの動作の実証を行うために、

コヒーレンス時間の長い系(NMRなど)を用いた実証的研究が行われています。

現状技術で扱いやすい系を用いているので数ビット動作は可能ですが、将来の発展性は限られる場合が多いようです。

 

3.2の研究よりももっと発展性のある物理現象を探す探索的研究

これは、さらに将来をねらった探索的研究で、当研究室は、これをテーマとしています。

 

 量子コンピューターの研究は、(現実の)壁との狭間にあるといえます。

一見、実証的研究のように見えても、中身は提案だけで実態のないものも少なくありません。

何が生き残る研究であり、何が虚構なのかを見分ける目が必要になります。


 

Tackeuchi Laboratory

 

Department of Applied physics, Waseda University

3-4-1 Okubo, Shinjuku-ku, Tokyo 169-8555, Japan