「ピアレビュー制度の公正さについて」  

日本物理学会誌 会員の声欄 20041月       早稲田大学 理工学部 竹内 淳

  (原稿: 掲載時には紙数の制約等により本稿より若干変更されています)

            
 21世紀COEプログラムに代表されるように大学を取り巻く環境が競争的色彩を帯びるようになった。特に、総合科学技術会議の競争的研究資金制度の改革案が20034月に出されたが、その中では、研究資金の獲得額を国立大学の人事評価に反映させるべきと明記されており、今後この傾向はますます強まると予測される。また、21世紀COEプログラムの申請書類に受賞の記載が求められていたように研究資金だけでなく学会賞から企業の賞にいたる各種の賞も個人の研究業績の評価対象になる可能性が高い。これらが個人の評価に関わり、また国全体の研究資金の配分に関わるとすると、何より審査の公正さが前提として求められる。しかし、ピアレビュー制度に基づく国内の多くの審査の公正さは諸外国に比べて高いとは言えない。

 筆者は2001年に経済産業省の競争的研究資金制度の改革案の作成に携わったが、その中で日本の審査制度の不備を指摘した。本学会の会員で各種の審査に関わる方でもそれらの問題点に気づいていない方が多いと思われるので、以下にそれを挙げてみたい。

 国内の競争的研究資金の配分機関としては、日本学術振興会や科学技術振興機構などがある。米国には、それに相当するものとしてNational Science Foundation (NSF)National Institutes of Health (NIH)などがあるが、米国の審査規定にあって日本の制度にないものが二つある。

・一つは、「利害関係者の排除」であり、

・もう一つは、「審査員の多様性の確保」である。

利害関係者を審査員から外すのは、審査の公正を期する上で当然の処置と考えられるが、残念ながら国内ではこの最低限の基準が満たされていない場合が多い。NSFが、ピアレビューの際の利害関係者としてあげているのは、

・ 応募者と同じ研究機関(大学)に所属するもの

・ 応募者と過去4年間の論文などの共著者

・ 応募者の博士課程やポスドク時の指導教員

の三つである。NIHにもほとんど類似の規定があり、共著者を過去4年間に限らないことと、応募者と厳しく意見の対立するものを除くという2点以外はほとんど同じである。これらの基準に違和感を覚える方は少ないと思われる。利害関係者の排除は、国内ではようやく21世紀COEプログラムの審査制度で一部試行され、また、総合科学技術会議の競争的資金に関する改革案にも反映されたが、まだまだ緒に就いたばかりである。

 もう一つ米国にあって、国内の制度にないのは、「多様な観点からの審査」という概念である。一定の学識を持つ者という前提はつくが、米国の制度では審査員のバランスが明記され、所属機関、年齢、性別などが多様であることが求められている。所属機関については、大学だけでなく企業も含めることが推奨され、小さな研究機関(大学)も含めること、さらに所在地の米国内での地理的バランスまでもが求められている。

 本来審査員は、各自の知的バックグラウンドに依拠しながら、一方で、各所属機関の利益代表にならずに無私を前提とした多様な視点から審査することが求められる。しかし、万一この理想的な状況から外れ、仮に審査委員会が利益代表者間の争いの場に落ちたとしても、バランスある多様な審査員構成をとれば、一部のグループによる私物化を排除でき最低限の公正さを保つことができる。

 現在日本では、国を挙げて男女共同参画に取り組んでいるが、2002年にユネスコで採択された「物理学における女性:国際決議」の第7項の研究助成機関に向けての決議には、「審査と決定において女性を加えるべきである」と記されている。性別に限らず審査員の構成に多様性を持たせることは欧米の審査制度の常識であり、男女共同参画に関する国内の議論においてもこの点が抜け落ちているのが気にかかる。

 さて、国内の各種の研究費の配分制度や、学会から企業に至る各賞の審査制度は、利害関係者を排除した多様な審査員によって構成されているだろうか。

・残念ながら科研費の理工系の2次審査員の大多数が、主要国立大に所属する60歳前後の男性であることは多様性を欠いている代表例の一つである。

・また、科学技術振興機構などの各種の制度でも、プログラムディレクターが審査員を自分の出身大学関係者で固め、出身大学の卒業生の研究課題を高い確率で採択する例が認められる。

・他学会の賞では、審査員(ときには審査委員長)と受賞者の関係が師弟関係にあったり、さらには同一人物であるという例まで見出されるし、企業の各賞(学会が後援する例も多い)においても、審査員の出身大学や所属大学が少数の大学に限られている場合が少なくない。

 審査員のレベルがいかに高く、関係者が公正な審査を期したとしても、審査員の構成が前述の二点の要件を満たしていなければ、諸外国の審査制度に比べて客観的公正さで劣り、賞の客観的価値も高いとは言えない。本学会員の方々も審査や応募に関わる場合が多いと考えられるが、国内の審査制度のレベルアップのために、以上の二つの観点から審査員の構成に目を向けられてはいかがだろう。

 

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