成田 宏秋

早稲田大学理工学術院

基幹理工学部数学科

教授

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●早稲田整数論セミナー

 

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RIMS研究集会「モジュラー形式と保型表現」(2015年2月開催)

 

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●保型形式の整数論・講演会(2015年1月開催)

 

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●第19回整数論サマースクールについて(2011年9月開催)

 

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専門分野:整数論,保型形式論
研究テーマ:保型形式の具体的構成とその数論的性質の研究

高度に発展した現代数学において, 整数論は数学の多様な分野と交差点を持ち, その最先端を追いかけるためには莫大な知識と深い洞察力が求められます. このような高度な発展段階にある整数論ですが, その出発点となっている問題は 極素朴なものです. 例えば, 次の二つが挙げられるでしょう. 一つは整数そのものについて知ることです. 具体的には, 様々な面白い整数 (素数, 完全数, 友愛数...)を見つけることやその分布の様子 (それがどの程度存在するかなど)について調べることなどがあります. そしてもう一つは代数方程式の解を, 整数ないしは「それに近い数の集合 (有理数体, 代数体, p進数, それらの整数環など)」に限定したところで探すことです. 一変数の方程式から始まり, それを多変数にしたり, 連立方程式にしたりすると 様々な方程式の整数解問題が考えられます.

このような問題はその見た目の素朴さにも関わらず, 実際には極めて難解であること が多く, そのような難題に立ち向かうため整数論は様々な数学を道具として受け入れて きました. 例えば上の一つ目の問題について, 興味ある整数の分布の様子を定量的に捉 えるためには, リーマンのゼータ関数やディリクレのL関数というある種の無限級数の 解析的性質を知ることが有効で, 整数論は解析学を研究手法の一つとして取り入れまし た(ディリクレによる解析的手法の導入). そして様々な整数論の対象について 「L関数」という無限級数を定義し, それについて理解を深めることの重要 性が認識されるようになりました. 二つ目の問題は, 代数多様体(つまり代数方程式の零点集合として記述できる「図形」) の整数点を拾う問題と見ることができ, 整数論は代数幾何学を道具として取り入れています. 実際, 整数論には「数論的代数幾何学」と呼ばれる分野が存在します.

私が研究している「保型形式」は, 整数論の解析的手法を与えるもので特にL関数を 研究する上でその威力を発揮します. 保型形式とは複素上半平面や その一般化であるリーマン対称空間(またはそれに対応する半単純リー群)の上の 実解析的関数で「保型性」という豊富な対称性を持つものとして定義されます. この保型性という対称性が保型形式に豊かな整数論的性質を与えます.

保型形式(あるいは保型表現)の分類は、整数論の基本定理である類体論を高度に一般化したLanglands哲学の下での「非可換類体論」の枠組みで理解され、このような視点を通して保型形式論はフェルマーの最終定理、Serre予想、Sato-Tate予想などの整数論の難問解決に貢献してきたと言えましょう. しかし、最近は「弱保型形式」という緩増加条件(高々多項式増大度である)を外した既存の理論とは違う保型形式が注目され、これまでにない新しい興味深い研究成果がものすごい勢いで進展している模様です. 保型形式の整数論は、古典的Hecke理論から始まり、Langlandsプログラムの下での研究が時代を牽引してきた印象がありますが、最近は上で述べたような新しい流れが生じており新しい発展段階に入ったように思えます. しかし、古典的なHecke理論にしろLanglands哲学にしろ、それぞれ持ち合わせている重要性を忘れてはならないと考えております。保型形式論が時代に応じてどんなにダイナミックに変わっても、それに左右されない本質を見極める洞察力が求められているのであると考えております.


研究の成果

これまでの保型形式論は複素対称領域(リーマン対称空間で複素領域として実現できる もの)上の正則保型形式を主に扱っております. 実際これは複素関数論 が使えて代数幾何学との相性もよく, 恵まれた状況設定で研究できます. 正則保型形式は保型形式の中でも基本的な対象でありながら, まだ多いに研究の余地が あると言えますが, 保型形式全体の中では極一部分を占めるにすぎません.

私の問題意識は保型形式論の研究領域を非正則保型形式に拡げることです. このような問題意識の下, 正則保型形式の研究から入った後、まず四元数双曲空間という複素対称領域になり得ない 対称空間(あるいは対応する単純リー群である実階数1の四元数ユニタリー群)の上の 実解析的保型形式の研究を行いました. 最初に「四元数離散系列表現を生成する」という表現論的特徴付けを持つ保型形式に主に着目し, その具体的構成や数論的性質についての研究を進めてきました. この保型形式は、非正則でありながら正則保型形式に振舞が近いという点で特徴的です. 最終的には次数2の四元数ユニタリー群の場合で、一般の離散系列表現の場合に研究対象を広げ、2次のシンプレクティック群上の保型形式とのJacquet-Langlands-Shimizu対応やL関数の中心値とフーリエ係数に関する「Waldspurgerの公式」の類似を与えるなどの成果を挙げました。最近はランク1の直交群上の(非正則)実解析的保型形式で、「Ramanujan予想の反例」を与えるものを具体的に作ってみせるという研究で成果を挙げております。

主な研究道具は、実半単純リー群やp進代数群の表現論です. これは非可換類体論としての保型形式論では類体論の「局所類体論」に相当するところです. この表現論的視点は, 類体論を「局所類体論を束ねた大域理論」と見るように、保型形式に内在する 数論的性質を調べる困難を「各素数(または素点)ごと分割して調べそれを束ねる」という研究スタイル に繋がります。私は保型形式を関数のレベルで具体的に作ってみたい人間ですが、実半単純リー群の表現論は「無限素点の類体論」に相当するという視点というのみならず、非正則保型形式に研究領域を広げ、且つ非正則実解析的な保型形式を具体的に構成するための道筋を透明にしてくれるものと考えております。 またこのような具体的に構成するという視点は、保型形式の整数論に限定しない多様な分野との関連の可能性をも透明にしてくれると期待しております。

論文リスト


メッセージ

数学を本格的に勉強したいと思う方へ, 気をつけて欲しいことは, 自分がどの分野に 興味があるかをしっかり見定めることと, 数学を幅広く勉強することです. まずは, いろんな数学に触れてみてください. その中で自分と共鳴するものを 見つけたら, 講義で習ったことだけでなく自分で関連する文献を探したり 積極的に質問をするなどして, 自分なりに理解を深めてみてください. そうしたことを繰り返す中で, 自分の希望する専門分野を定めていくとよいでしょう.

そして専攻する分野を決めたときに気をつけなければならないことは, 「狭い専門家」 にならないようにすることです. つまり, 例えば「代数に進むから, 幾何や解析は 勉強しなくてよい」と考えるのは大間違いです. これは数学のどのような分野を専攻 する人にも言えることです. 実際, 私の専攻する保型形式の整数論は, 代数学のみ ならず, 複素関数論などの解析学や, 幾何学の理解も求められることがあります. 自分の希望する専門分野を一つの軸として勉強しつつ, 数学について幅広くアンテナ を張って学習を進めてみてください.

講義