2007年2月2日
早稲田大学総長 白井克彦殿
早稲田大学理事会 御中
意見書
去る1月19日、堀口研究推進担当常任理事は学術院長・独立研究科長に宛て、「学術研究倫理憲章等の送付について」という文書(以下、「添書」という)、ならびにその添付資料として①学術研究倫理憲章(案)、②学術研究倫理に係わるガイドライン(案)、③研究活動に係わる不正防止に関する規程(案)という三種類の文書を送付しました。
「添書」のなかで「今後は教務主任会(1月26日開催)および学術院長会(2月2日開催)で改めてご協議いただく予定」とされていることから察しますと、総長・理事会は事態が急を要する状況になっていると判断されているようですので、私たちも、以下に掲げる最重要の事柄だけでも取り急ぎ指摘しておかねばならないと考えます。
第一に指摘すべきは、「添書」の以下の記述部分です。
「先の学術院長会(1月12日開催)において、本提案が経営執行会議で了承され次第、文案をホームページに掲載する旨を申し上げましたが、すでに学術院長会の配布資料をもとに教授会等で内容をご検討されている状況にも鑑み、この段階でさらに改訂版を一般教職員に周知することは混乱を招きかねないとの判断から、このたび各学術院長および独立研究科長宛にお送りさせていただく次第です。」 |
「よらしむべし、知らしむべからず」は専制体制の常套的統治手法ですが、この記述部分には、総長・理事会の専制的な運営方針、ならびに熟慮の末に提案するという思慮の欠如が如実に示されています。自主と独立を重んじる大学の将来にとって極めて重要な事柄を自らの権力の源泉であるはずの構成員に知らせることなく検討することは、自らの権力の正統性を否定し、「万機公論に決すべし」という民主主義のルールを逸脱するものであるとともに、自らの統治能力に対する自信の無さを露呈したものであると言わざるを得ません。
「周知すること」によって招かれるのは「混乱」ではなく、大学が正しい結論に至るための「公論」です。「公論」が沸き起こることを恐れ、隠微な形で自らに都合の良い結論を導こうという総長・理事会の姿勢こそが「混乱」を惹き起こすものであると、総長・理事会は認識すべきです。
総長・理事会は、箇所の意見を汲み取る余裕も持たず、強行採決の方向性を探るといった、大学構成員をないがしろにする大学運営を直ちに止め、全学説明会を何度でも催すなど正々堂々と議論した上で採決するという姿勢を取らなければなりません。
第二に、「研究活動に係わる不正防止に関する規程(案)(以下、「研究活動不正防止規程(案)」という)が「早稲田大学における内部通報等の対応等に関する規程(案)(以下、「内部通報等規程(案)」という)を前提としたまま提案されている点が批判されなければなりません。
「内部通報等規程(案)」に対しては、昨年理事会から提案されて以来、法学学術院、文学学術院、商学学術院、教育・総合科学学術院などではこうした規程の趣旨そのものに反対する決議がなされております。また、決議には至らずとも、たとえば、政治経済学術院、法務研究科、理工学術院、国際教養学術院などでは反対意見が噴出するという事態であるという事実を総長・理事会は認識しておられるのでしょうか。こうした事態にもかかわらず、総長・理事会は1月12日の学術院長会で「継続審議扱いとする」と宣言したと聞いております。これは、総長・理事会には箇所の声が正しく伝わっていない、ある意味では、専制政治特有の現象が起きていることを示しているのではないかとおそれる次第です。
私たちは、昨年起こったM教授の公的研究費不正受給事件処理に対する反省に立ち、研究費の不正行為に関しては「公明正大な調査委員会の設置」と「適正な調査手続きの制定」が必要であると考えておりますし、機会あるごとにその旨の発言をしてきたつもりです。その点からすれば、「研究活動不正防止規程(案)」には首肯できるところも多々見受けられるのですが、修正によっては正しきれないほど問題の多い「内部通報等規程(案)」と連動している点は断じて認めることができません。
私たちとしましては、こうした基本的に賛成しがたい「内部通報等規程(案)」を一度取り下げ、精神論的なガイドラインと「研究活動不正防止規程(案)」等を全学で検討し、大勢の賛同を得るという王道を取ることを理事会に提案するものであります。
以上、取り急ぎ大きな問題点のみを指摘しました。総長・理事会におかれましては、早稲田大学を大きな混乱に陥れないためにも、早稲田大学の構成員を信頼し、学内に「公論」が沸き起こることを恐れず正々堂々と議論し、構成員の意見を集約されるよう、切に要望いたします。こうした正道を採用されるなら、われわれとしても全面的に協力することにやぶさかではないことを申し添えます。
足立恒雄(理工学術院)
石川正興(法務研究科)
稲葉敏夫(教育・総合科学学術院)
浦川道太郎(法務研究科)
逢坂哲彌(理工学術院)
大久保進(文学学術院)
佐々木宏夫(商学学術院)
棚村政行(法務研究科)
濱義昌(理工学術院)
樋口清秀(国際教養学術院)
眞柄秀子(政治経済学術院)
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