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大久保 進教授(文学学術院)の「訓戒処分にたいする不服申立書」および「上申書」の公開にあたって

「早稲田の再生を目指す会」代表
大学院法務研究科教授
石川 正興 


【Ⅰ】はじめに
去る7月11日、大久保進文学学術院教授は土田健次郎文学学術院長(当時)から訓戒処分を受けました。教授はこれを不服とし、10月5日に「不服申立書」ならびに「上申書」を提出し、「査問委員会による事実の調査と審査」を求めていました。
これに対し、田島(現)文学学術院長は10月17日の教授会で、訓戒処分は正当であり、したがって査問委員会を設置する必要を認めない旨の回答をしたとのことです。

大久保教授の訓戒処分に関しましては、二つのことを問題にしなければなりません。第一は、小口常任理事が委員長を務める「公的研究費不正疑惑」問題に関する調査委員会(以下、『小口調査委員会』という。)の調査・報告に関することであり、第二は、「教員の表彰および懲戒に関する規程(以下、『規程』という。)」における「訓戒」規定の不当性に関することです。

【Ⅱ】公的研究費不正疑惑問題との関連
1)不服申立書によれば、訓戒処分はその対象行為を明確に特定しないままに行われたとされていますが、それは、6月30日の総長選挙投票日に大久保教授が「ある文書」を文学部教員に配布したことに関係しているようです。
教授が配布した文書は、上申書によれば、以下のとおりです。

文部科学省科学技術・学術政策局調整企画室が早稲田大学に対し平成18年6月26日付で送付した文書で、「早稲田大学への依頼事項」というタイトルが付けられています。8項目に及ぶ依頼事項のうち第1から第7までの項目については、大学によってそれなりに速やかな対応がなされ、学内外に示されましたが、第8項については伏せられていました。文面は以下の通りです。

8.既に再三調査を求めている「○○研究室に関する疑惑」の解明に早急に本格着手すること。


2)上記文書に示されている「○○研究室に関する疑惑」に関しては、6月30日に調査委員会(委員長:小口彦太常任理事)が設置され、早くも7月8日の商議員会の席上で、総長から「疑惑は限りなくシロである」と弁明されていました。

 しかし、こうした弁明にもかかわらず、その後7月19日に早稲田大学に対する科学技術振興調整費の凍結解除が発表された際には、当該疑惑が向けられた教授に対する交付分は凍結解除がなされないままになっているようです。この点については、本ホームページの【ニュース】欄の7月20日の箇所および【資料・コラム】欄をご覧いただきたいと思います。

3) 調査委員会設置からすでに3ヶ月以上も経過しています。しかし、小口委員会からは未だ報告書が出されておりませんし、総長・理事会はこの遅延について説明しておりません。

 こうした不誠実な対応は、平成18年6月26日付文部科学省文書の中の第8項を秘匿したことや、7月20日に凍結解除を学内に発表した際に「疑惑が向けられた教授に対する交付分が凍結解除されていない」という事実を隠蔽したこととともに、強く批判されなければなりません。

4) 問題の「疑惑」は国民の税金から拠出される補助金の不正使用という、公益に係わるもので、近年では、この種の「公益」の通報者の保護が強く要請されています。

総長・理事会そして文学学術院長は、この要請に逆行し、「公益通報者」と目される大久保教授を「訓戒処分」で威嚇し、よって公益に係わる「疑惑」の隠蔽を企図したと疑われても致し方ないように思われます。

その疑いを雪ぐには、早急に査問委員会を設置し、大久保教授のどの行為が「教員の表彰および懲戒に関する規程」第5条第1号の「「教員として不都合な行為があって、大学に損害を与え、あるいは大学の名誉または信用を傷つけたとき」に該当するかを明らかにする必要があると考えます。加えて、小口調査委員会に対しては、「疑惑」の適正かつ迅速な調査と、その報告書の速やかな公表を強く求めます。

【Ⅲ】「訓戒」規定の不当性
1)規程第7条第1項によれば、懲戒処分でない「訓戒」の場合には、規程第8条の「査問委員会による事実の調査および審査」を経ることなく箇所長および大学の裁量で行えると規定していますが、この規定は、箇所長および大学が「適正な事実調査と審査」を行わずに訓戒を行えることを許容するものではないはずです。

 少なくとも、訓戒を受けた本人が訓戒を不服として「適正な事実調査と審査」を求めた場合には、第三者機関による「適正な事実調査と審査」を認めなければなりません。

 「訓戒を行った機関」が不服申立に対する審査をも同時に行うことを認めれば、私たち教員は、大学理事会や箇所長の恣意的な裁量によって容易に訓戒されてしまう事態を迎えることになります。

2)規程には、訓戒に対する不服申立制度が明確に定められておりません。確かに、これは法の不備です。しかし、不備であるからといって、「訓戒を行った機関」が不服申立に対する審査も同時に行うことを許すべきではありません。

法の不備を埋めるのは「理性に従った判断」であって、一部の人たちの「横暴な力」であってはなりません。自由と民主主義を標榜する社会における理性は、不服申立の審査を第三者機関が行うことを命じます。そして、不服申立の審査を行うのに最も適した第三者機関を規程の中で求めるとすれば、教授会の中に設置される「査問委員会」をおいてほかにありません。

【Ⅳ】以上に述べましたように、文学学術院長が行った「大久保教授に対する訓戒処分」ならびに「査問委員会設置に対する却下決定」は、ひとり大久保教授だけの問題ではありません。

大久保進教授が提出した「訓戒処分にたいする不服申立書」および「上申書」を掲載しますので、是非ご一読いただきたいと思います。

大久保教授の不服申立書と上申書へ

(PDF版はこちらをクリックしてください)

(2006年10月25日)