2007年3月16日
早稲田大学総長 白井克彦殿
早稲田大学理事会 御中
早稲田大学の再生を目指す会
代表 石川正興
「学術研究倫理憲章」等に関する提言
私たちのみならず、多くの学術院教授会は、昨年提案された「内部通報対応規程」が本学を密告社会化・管理社会化し、自由闊達な本学の校風を破壊するものであると考え、その制定に反対してまいりました。
こうした状況下、3月2日の臨時学術院長会で総長・理事会が「内部通報対応規程」を切り離し、「学術研究倫理憲章」・「学術研究倫理に係るガイドライン」・「研究活動に係る不正防止に関する規程」の所謂「三点セット」を審議する方針をお採りになったことを私たちは積極的に評価します。さらに「内部通報対応規程」案の撤回されることによって、総長・理事会の度量を示されるよう要請するとともに、「三点セット」に関しまして、以下の提言を申し述べます。
なお、3月22日(木)までに、本提言に対して理事会が文書で回答されることを求めます。
まず、私たちは、「学術研究倫理憲章」・「学術研究倫理に係るガイドライン」に関し教員組合が提案している「叩き台」が良く練られた事実上の対案であることを認識した上で、それを参考にしながら、以下の提言を申し述べることにいたします。
1.「学術研究倫理憲章」について
「憲章」は、その性質上、組織の全員が自らの一致した覚悟を外部に向かって宣言するものなければなりません。しかるに「学術研究倫理憲章(案)」は6項目中第5項目の主語だけが「本学の教職員等」となっております。これは宣言者間の断絶を示すもので、憲章としての意義を大いに損なっています。主語を統一することによって、構成員である教職員と、構成員から大学運営を委ねられた総長・理事会とが、いわば一心同体の宣言者として覚悟を表明する文体に改めるべきです。
また、「学術研究倫理憲章(案)」は、内容面でも冗長であり、表現は根本規範としての品格を欠いているという印象が否めません。内容を整理し、簡潔明瞭で品格あるものに改める必要があると考えます。
2.「学術研究倫理に係るガイドライン」について
「ガイドライン」では、「研究者等の責務」が先に掲げられ、「大学の責務」が末尾に付け足し的に添えられていますが、これは、研究倫理問題に対する総長・理事会の本末転倒した姿勢を如実に示すものです。
高額の研究補助金によるプロジェクトを円滑、適正に遂行するためには、研究環境を整備することが不可欠です。総長・理事会は、研究者の責務を追及する前に、研究環境整備等に関する自らの責務を優先的に規定することによって、研究倫理に対する積極的な姿勢を内外に示す必要があると考えます。
3.「研究活動に係る不正防止に関する規程」について
(1)「倫理委員会」の構成(第7条関係)
教員すべてがいずれかの箇所に所属しており、倫理委員会がそうした教員の研究に関する権利・義務に係わるものである以上、倫理委員会にはすべての箇所の代表が選出されていなければなりません。
また、倫理委員会が総長・理事会から一定の距離を置いて中立性を保持するためにも、本来ならば本部選出委員は必要ないはずだと考えます。仮に百歩譲って本部選出委員が必要だとしても、その数は箇所選出委員の数を上回ってはならないと考えます。
(2)調査における適正手続の保障(第11条、第15条関係)
A)所属研究者の不正行為に関し箇所が倫理委員会に報告するには、その前提として、箇所においても予備調査を行い「不正疑惑が相当程度あること」の確証を得ていなければ不当な人権侵害になるので、調査報告前における箇所の予備調査手続に関する規定を設ける必要があります。
B)倫理委員会の委員長が調査委員会の委員長を兼ねることは、原審と控訴審の裁判長が同一であるという、適正手続に反する事態となるので、改める必要があります。さらに、原審と控訴審の非同一性を保ち、また調査委員会の専門性をより強化するために、調査委員会の全委員は倫理委員会の委員以外から選ぶことが望ましいと考えます。
C)調査対象者の防御権を保障するため、以下のようにする必要があります。
@不正疑惑に関して調査を開始する旨を、書面によって告知すること
A当該書面に「調査委員会の聴聞において弁護士等の同席を申し出ることができる」旨を明記しておくこと
B調査委員会による調査終了後、倫理委員会は調査報告書を速やかに調査対象者に送付すること
さらに、研究費の不正以上に調査に高度の専門性を要し、また学会内での争いなど、さまざまな雑音が生じやすい、研究に関する不正の調査に関しては、調査対象者の防御権を保障するため、上に加えてさらなる配慮が必要と考えます。たとえば、調査対象者が指名する専門家を一名以上調査委員に加えるといった措置が考えられます。
(3)教員に対する懲戒処分における適正手続の保障(第14条関係)
A)箇所による査問委員会の設置前に「総長による処分勧告」を認めることは査問委員会に不当な予断を与えるという適正手続に反する事態になるので、これを廃し、調査報告書の送付だけを行うように改める必要があります。
B)「教員の表彰および懲戒に関する規程」についても、以下の点を改める必要があります。
@査問中の「必要的休職措置」規定を、「裁量的休職措置」にすること
A懲戒に代えて行われる訓戒に対しても、教員からの不服申立てを可能にすること
以上
【追記】回答は、石川正興研究室(8号館11階)宛にお願い致します
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