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コラム2

新規ニューロステロイドである7α-ヒドロキシプレグネノロンの発見と
その生理作用と作用機構

 脳神経系は末梢内分泌腺が合成するステロイドホルモンの標的器官として捉えられてきた。ところが、最近になり脳神経系が独自にコレステロールをもとにステロイドを合成していることが明らかになった。脳神経系がステロイドを合成する事実は、従来の常識を覆すものである。脳神経系が合成するこの新しい概念の脳分子は、末梢内分泌腺がつくる従来の”古典的ステロイド (classical steroid)”と区別して、”ニューロステロイド(neurosteroid)” と名付けられた。脳におけるニューロステロイド生合成は、哺乳類を用いたE. E. Baulieuらのグループの研究と鳥類、両生類、魚類を用いた我々のグループの研究により発見された。その後、我々は脳におけるニューロステロイド生合成経路の大略を次のように明らかにした。脳にはシトクロムP450scc、3b-水酸基脱水素/D5-D4-異性化酵素(3b-HSD)、5a(b)還元酵素、17a-水酸化酵素・開裂酵素(シトクロムP45017a,リアーゼ)、17b-水酸基脱水素酵素(17b-HSD)など多くのステロイド合成酵素が脳に存在しており、脳はコレステロールをもとにプレグネノロンを初めとする様々なニューロステロイドを合成していることが明らかになった。

 

主な文献

K. Tsutsui, M. Matsunaga, H. MiyabaraI and K. Ukena (2006) Neurosteroid biosynthesis in the quail brain (review). J. Exp. Zool. , in press

K. Tsutsui, M. Matsunaga and K. Ukena (2003) Biosynthesis and biological actions of neurosteroids in the avian brain (review). Avian Poultry Biol Reviews 14:63-78.

R. W. Lea and K. Tsutsui (2001) Changes in central steroid receptor expression, steroid synthesis, and dopaminergic activity related to the reproductive cycle of the ring dove (review). Micros. Res. Tech. (MRT) 55:12-26.

K. Tsutsui, K. Ukena, M. Usui, H. Sakamoto and M. Takase (2000) Novel brain function: biosynthesis and actions of neurosteroids in neurons (review). Neurosci. Res. 36:261-273.

 さらに、最近の我々の研究により、新規のニューロステロイドが同定された。この新規ニューロステロイドは、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、薄層クロマトグラフィー(TLC)、ガスクロマトグラフ質量分析(GC-MS)を用いた生化学的解析の結果、プレグネノロンを基質として合成される7a-ヒドロキシプレグネノロンであることが明らかになった。この新規ニューロステロイドは脊椎動物の脳に共通に存在しており、その合成量が性腺や副腎などの末梢内分泌腺と比較して多いことから、重要なニューロステロイドの発見となった。
 多くの野生動物では繁殖期に自発運動量や生殖行動などの本能行動の発現が著しく増加する。この新規ニューロステロイドは行動を支配する脳幹で合成されており、繁殖期に合成が著しく増加する。繁殖期に増加するこの新規ニューロステロイドの生理作用をイモリで解析した結果、繁殖期に増加する7a-ヒドロキシプレグネノロンはイモリの自発運動量を増加させる新規の神経活性ニューロステロイドであることが証明された。脳幹で合成された7a-ヒドロキシプレグネノロンは後隆起核や腹側被蓋野のドーパミンニューロンに作用して、自発運動を支配する線条体と側坐核へドーパミンの放出を促すことで自発運動を高めることがわかった。

 

主な文献

M. Matsunaga, K. Ukena, E.-E. Baulieu and K. Tsutsui (2004) 7a-Hydroxypregnenolone acts as a neuronal activator to stimulate locomotor activity of breeding newts by means of the dopaminergic system. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101:17282-17287.

Y. Inai, K. Ukena, K. Nagai, T. Oishi and K. Tsutsui (2003) Seasonal changes in neurosteroids in the urodele brain and environmental factors inducing their changes. Brain Res. 959:214-225.

M. Takase, K. Ukena, T. Yamazaki, S. Kominami and K. Tsutsui (1999) Pregnenolone, pregnenolone sulfate and cytochrome P450 side-chain cleavage (P450scc) in the amphibian brain and their seasonal changes. Endocrinology 140:1936-1944.