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コラム3

プルキンエ細胞が合成するニューロステロイドによるニューロン発達と シナプス形成の誘導作用

 ニューロステロイドの生理作用を解析するためには、ニューロステロイドを合成する細胞を同定する必要がある。脳神経系ではグリア細胞とニューロンがともにニューロステロイドを合成する。我々は小脳のプルキンエ細胞がニューロステロイドを合成することを見いだして、ニューロンによるニューロステロイド合成を明らかにした。これがニューロンによるニューロステロイド合成の最初の発見である。脳の代表的ニューロステロイド合成細胞であるプルキンエ細胞はさまざまなニューロステロイドを時期特異的に合成しており、ニューロステロイドの生理作用を解析する優れた細胞モデルとなった。その結果、ニューロステロイドは核内レセプターを介したゲノミック作用によりニューロンの発達、シナプス形成、神経回路形成などを促進することが見いだされた。
 小脳皮質が形成される新生期のプルキンエ細胞ではプロゲステロンの合成が著しく増加する。この時期の小脳ではニューロンの発達やシナプスの形成が活発になされ、小脳の機能を担うハードウェアである神経回路が形成される。我々は新生期のプルキンエ細胞が活発に合成するプロゲステロンの作用をニューロンの発達とシナプス形成に着目して形態学的に解析した。その結果、プロゲステロンにはプルキンエ細胞の樹状突起の伸長を導く作用があることが明らかになった。次に、樹状突起の形態を詳しく解析したところ、プロゲステロンは樹状突起の棘形成と棘シナプス形成を誘導することも見いだされた。さらに、プルキンエ細胞の核内にはプロゲステロン受容体 (PR-AとPR-B) が局在しており、プロゲステロンはこれらのPRを介したゲノミック作用により、樹状突起の伸長、樹状突起の棘と棘シナプスの形成を導くことが明らかになった。
 さらに我々の最近の研究により、プルキンエ細胞ではエストラジオールも活発に合成されることが見いだされた。詳しい解析から、エストラジオールにもプルキンエ細胞の樹状突起の伸長と棘シナプスの形成を誘導する作用があることが明らかになった。プルキンエ細胞の核内にはエストロゲン受容体(ERb)が局在しており、エストラジオールはERbを介したゲノミック作用により樹状突起の伸長と棘シナプスの形成を誘導することがわかった。
 以上のプロゲステロンとエストラジオールのゲノミック作用により、新生期には小脳の機能を担うハードウェアである神経回路が形成されると考えられる。

主な文献

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