研究紹介2
 

「脊椎動物の生体調節、本能制御、学習・記憶などの脳制御システムの理解に向けた総合脳科学」を実施している。脳を分子、細胞、神経回路の各レベルで解析し、まず重要な脳内分子を同定。続いて、生体調節、本能制御や学習・記憶に脳分子がどのような脳細胞とかかわり、どのようなネットワークを形成しているか、などを解明し、その理論体系を作り上げることを目標にしている。具体的には、記憶・学習と本能制御に着目した新規脳分子、ニューロステロイドの合成と作用に関する研究 (→ニューロステロイドのページへ)と、生体調節に着目した新規ニューロペプチドの同定と作用に関する研究を展開している。以下に、それらの概略を述べる。


(2) 新規ニューロペプチドの同定と作用に関する研究

   生体調節に関わる新規ニューロペプチドの同定と作用に関する研究により、以下の発見をした。いずれも当該研究分野の常識を覆すものであり、発見された新規ペプチドはホルモンハンドブックに登録される。

脳下垂体ホルモンの放出を制御する新規視床下部ペプチドの発見 

 1970年代にSchallyとGuilleminにより、哺乳類の視床下部から生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH) などの脳下垂体ホルモンの放出を制御する視床下部ホルモン(視床下部ペプチド)が発見された。これを契機に鳥類から魚類に至る他の脊椎動物からも同様の視床下部ホルモンが見いだされ、神経内分泌学は著しく進展した。しかし最近の10年間に新しい視床下部ホルモンの発見は殆どない。我々は、新しい発想を導入し、脳下垂体ホルモンの放出を制御する新規視床下部ホルモンを探索した。その結果、以下に列挙する新規視床下部ペプチド群(LPXRFa ペプチドファミリー)の発見に至った。


●生殖腺刺激ホルモン放出抑制ペプチド gonadotropin-inhibitory hormone(GnIH)

生殖腺刺激ホルモンの放出を制御する視床下部ホルモンとしてSchallyが発見した放出ホルモン(GnRH; BBRC 43:1334-1339, 1971)が知られており、GnRHは脊椎動物・原索動物・軟体動物から同定されている。一方、放出抑制ホルモンの存在は不明であった。2000年に我々は生殖腺刺激ホルモンの放出を抑制する新規視床下部ペプチド をウズラから同定して 生殖腺刺激ホルモン放出抑制ホルモン(GnIH; BBRC275:661-667, 2000)と名付けた。GnIHは正中隆起外層に終末する室傍核ニューロンに局在する12アミノ酸残基からなる新規のペプチドである。GnIH前駆体cDNAのクローニングにより、GnIHとさらに複数のGnIH関連ペプチドがcDNAにコードされていることが判明した。GnIHとGnIH関連ペプチドにはC-末端側がLPXRFa (X=L or Q)という特徴があり、構造からLPXRFa ペプチドとして分類した。
  

●成長ホルモン放出ペプチド growth hormone-releasing peptide (fGRP)

GnIHに続いて両生類の視床下部からGnIHと相同性が高いLPXRFa ペプチドを同定した。このペプチドには成長ホルモンの放出を促進する作用があり、成長ホルモン放出ペプチド(fGRP)と名付けた 。fGRP前駆体cDNAにもfGRPと複数のfGRP関連ペプチドがコードされ、いずれもLPXRFa ペプチドであった。
  

●LPXRFa ペプチドファミリー

鳥類と両生類に加え、哺乳類 と魚類 からも視床下部に局在するLPXRFaペプチドを同定した。これらのLPXRFaペプチドも脳下垂体ホルモンの放出を制御している。脊椎動物に共通して存在するLPXRFaペプチドは脳下垂体ホルモンの放出を制御する新規の視床下部ペプチドである。

(参考文献) Tsutsui et al. (2000) BBRC  275:661-7.;  Satake et al. (2001) Biochem J  354:379-85.;  Koda et al. (2002) Endocrinology  143:411-9.;  Sawada et al. (2002) J Endocrinol  174:395-402.;  Sawada et al. (2002) Eur J Biochem  269: 6000-6008.;  Ukena et al. (2002) FEBS Lett  512:255-8.; Ukena et al. (2003) Cell Tissue Res., 312:73-79., Ubuka et al. (2003) J. Endocrinology in press,  Ukena et al. (2003) Endocrinology in press  他多数

 

産卵誘起ペプチドの発見:見いだされた産卵の神経制御機構

 鳥類の産卵は卵管にある卵が体外に放出される現象であり、卵管の激しい筋収縮により導かれる。鳥類に限らず、哺乳動物以外の脊椎動物は共通して産卵を行う。これまでの内分泌学的研究により、鳥類の産卵はホルモンにより調節されていることが知られている。一方、卵管筋層には多くの神経繊維が存在することから、産卵における神経制御が示唆されていたが、その存在は不明であった。我々は29アミノ酸残基からなる産卵誘起ペプチド(oviposition-inducing peptide)を同定して、このペプチドによる産卵の神経制御機構を見いだした。その機構は、(1)卵管に投射する交感神経節ニューロンが産卵誘起ペプチドを産生する。(2)卵巣の性ステロイドの作用により産卵誘起ペプチド受容体が卵管で誘導される。(3)交感神経節ニューロンから放出された産卵誘起ペプチドは受容体を介して卵管の筋収縮を導く。(4)その結果、卵管内の卵が体外に放出される。この産卵の神経制御機構は他の脊椎動物にも存在する可能性がある。

(参考文献) Li et al. (1996) Endocrinology 137: 1618-1626.;  Tsutsui et al . (1998)  Endocrinology 139:4230-4236.;   Sakamoto et al . (2000)  Endocrinology 141:4402-4412.;   Ubuka et al . (2001)  J. Endocrinology 170:357-368. 他多数

 


(3) 研究の独創性と意義


 以上の成果はいずれもこれまでの常識を覆すものであり、内分泌学、神経内分泌学、脳神経科学、動物行動学などの関連分野に大きなインパクトを与えている。また、最近10年間の先端的・独創的研究により、独自の新しい研究領域を開拓している。

 

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