障害学会第10回大会(2013年度)報告要旨

堀内 浩 (ほりうち ひろし) 札幌学院大学社会情報学部社会情報学科


■報告題目

障害者差別はいかにして合理的に理解できるようになっているのか

■報告キーワード

差別,笑い,ビデオ分析


■報告要旨

1.問題設定
 本論では,障害者差別とされている行為を分析することにより,その行為がどのように差別である/ないと理解できるようになっているのかを明示することを目的とする.さて,先行する差別研究では,多くの状況において障害者が複合的な差別により無力化されているという知見の蓄積がなされている.しかし,差別/区別の境界や,差別自体は何かという研究は蓄積が無いためにその定義は困難となっている.本論では,行為事後的に差別である/ないとされている差別行為を分析していくことにより,ある行為がどうやって実際に差別である/ないとされているのかを分析していく.

2.研究方法
 本論では,『竹中直人の放送禁止テレビ』の映像を相互行為分析の知見から検討していく.なおこのビデオは,その内容から全障連によって抗議を受けたために販売元により回収されたという背景を持っている.

3.研究結果
 本論のデータ内容をごく簡単に説明すれば,ある発話にデタラメな手話通訳を付ける,車椅子や松葉杖の間違った使用法をジョークとして伝える,精神障害の障害特性を演者のタレントがものまねをするなどというものである.この内容は,見る側にとって笑える/笑えないという人それぞれとすべき評価があると言える.とはいえ,健常者側(演者側)からは笑うべきという期待が提示されており,その一方で障害当事者組織側(全障連)からは,障害特性への嘲りや誇張,そして手話や松葉杖などへの偏見が見られるため差別であるとされている.
 行為者(演者側)は,ものまねなど障害特性をジョークとして提示していく際に,自身らを障害者であると見て分かるようにする.その際には,障害者がある状況である行為を行うとこのような映像になり,その映像は笑うべきもの,笑えるものだという期待をも明示することになる.例えば,身体障害者のリソースとして松葉杖や包帯,あるいは身体のどこか一部が障害により動かないといった行為を使用していくことは,身体障害者の行為特徴が健常者とは異なるという知識を見る側に参照させることになる.つまり,健常者が同じ行為を行うのであれば映像にある障害者のようにはならずに,もっと普通に行われるだろうということも理解できるようになっている.したがって,ある障害特性を笑うべきであるという当該データのような健常者の期待の提示は,健常者を基準としながら障害者と強く関連性がある経験を笑うという形式を必然的に取ることになる.
 端的に言えばこのビデオ映像は,一方から健常者が障害を笑っているという記述され,他方からは,障害者が健常者に笑われていると記述させられる,知覚の差異に基づいている.つまり,このビデオがなぜ差別であると記述可能であったのかは,障害者が他者を笑わせる/他者に笑われる側のどちらに立っていると見なされているのか,あるいは,障害者をどのように見なすのか/見ていくべきなのか,といった認識の差異に求めることができる.具体的には,笑われる障害者を差別であるとした全障連に対して,それを差別ではなく笑い,ジョーク,あるいはコメディである,つまり差別ではない,とした互いの知覚の衝突の問題であったと言える.それはまた,現代社会において障害者文化をどのように扱うことが自然であるのかということと,どのように扱われるべきなのかという認識の差異とも同様の構造であると考えられる.

4.結論と考察
 本論では,相互行為分析により差別行為の映像を検討することで,健常者が行う障害者のものまねなどがなぜ障害者にとっては差別的であると記述されるのか,について分析してきた.当該データには,歴史的な背景や行為事後的に選択され得る動機説明がいくつかあると考えられる.それに対して,実践としては障害者のものまね行為を障害者差別であるとするために,障害者と見なされるリソースや行為特徴について,笑うことが一般的であるという健常者らの期待を提示することで,障害特性に一定以上の特殊性を持たせた点へ当事者らが抵抗(抗議)していくことにより可能となっていた.
 このデータのような,障害を笑っても良い,障害を笑うべきという期待や価値の提示は,演者タレントが障害者や障害特性を嘲笑しても良いと見なしていると障害当事者らに記述されても全く自然である.また,演者側は見る側に対して笑いを提供するタレントとして,障害者のものまねをすることによって障害への誤解や偏見を産出させてしまう可能性より,他者を笑わせるための期待をその行為に提示することも自然であると言える.したがって本研究では,こうした自然な記述や行為自体をも包括的に差別であると,行為事後的に特定や指摘が可能となる障害概念や定義,あるいは基準の必要性や意義が示された(なお使用した資料や文献,分析データ詳細,そして分析過程などは当日に報告する予定である).