障害学会第10回大会(2013年度)報告要旨

鎌田 一雄(かまた かずお)  

■報告題目

代替通報のためのメディア変換の利用技術

■報告キーワード

メディア変換技術、代替通報、利用技術

■報告要旨

1.まえがき
 メディア変換は、通報が受け手のモダリティー(感覚器官)に整合するように通報を変換する手法である.例えば、テキスト・音声変換(テキストの音声読み上げ)は、視覚に障害がある人たちが、視覚知覚を前提とする文書を受容する上で重要な支援技術である.ところが、メディア変換によって編集・作成される代替通報の知覚、操作特性はもとの通報とは異なる.このため、通報の発信者が通報の知覚特性などの変化を十分に理解しないまま利用すると、有効な通報伝達とならないことがある.
 メディア変換が有用な支援技術として利用されるためには、技術を使用する者が、その利用技術(メタ技術)を適切に理解する必要があることを、テキスト・音声変換を一つの事例として述べる.また、利用技術の考え方を定着させるための課題も述べる.

2.メディア変換の利用技術
 通報は、物理的な実体としてのメディアと、その上に記述されているデータとの組として考えることができる.メディア変換は、通報のメディアを他のメディアに変換する処理である.しかし、あるメディア上の通報データを他のメディア上へ転写すれば良いと単純に考えることはできない.
 ディスプレイ上に提示されているテキスト通報にテキスト・音声メディア変換(テキストの音声読み上げ)を適用する状況を考えると、つぎのようなことがわかる.
(1)テキスト通報の知覚では、視覚による2次元的な処理が可能である.これに対して、音声通報は聴覚による1次元的な処理のみが可能である.
(2)テキストは後戻り、先読み、スキップなどが容易にできる.しかし、音声通報は時系列(1次元的なデータ流れ)特性による知覚上の制約がある.
(3)視覚的なテキスト通報と、聴覚的な音声通報との理解の容易さは異なる.書きことばのわかりやすさと、読み上げられる音声通報のわかりやすさとは同じではない.
 上記のような特性変化を十分に理解していないと、メディア変換を有効に利用することが難しい状況が生じる.たとえ視覚的に十分に構造化された通報でも、音声読み上げで、この構造は保持できない.メディア変換の利用では、変換によって通報特性がどのように変化し、これが通報の知覚特性をどのように変えるかを理解しておく必要がある.これは、メディア変換技術を実際に利用するための知識、スキルであり、メディア変換技術の利用技術(メタ技術)ということができる.
 メディア変換技術は、多くの場面で利用されており、非常に重要な技術である.しかし、技術を実際に活用しようとする人たちにとって、利用技術が十分に豊かなものになっていないと、核となる技術(ここでは、メディア変換技術)が、社会で十分に有効なものとして活用されないことになる.

3.利用技術の課題
 テキスト・音声変換を対象として、利用技術について考える.多くのコンピュータ処理を基本とする道具(変換処理システム)が利用されており、テキスト形態であれば音声化で視覚に障害がある人たちは、その内容を十分に、同じように理解できる、通報は確実に伝わるという考え方(先入観)が多くの人たちにあるように思われる.この認識が、最終的に受け手に提示される通報(変換通報)が、有効なものとならない大きな要因一つであると考える.
 状況改善のための課題は多い.変換通報と関わりを持つ人たちが、メディア変換の効果(影響)に関する意識を持つための課題は、大きく3つ考えられる.
(1)日常生活で広く利用されている技術を対象に、その機能などについて啓蒙を図ること.あわせて、技術の利用に、どのような影響、効果があるかを広く広報すること.技術の社会的な影響・効果について基礎知識を広めること(技術リテラシー).
(2)代替通報(変換通報)の不具合などは、当事者でないとわからないことが多い.当事者、直接的な関わりを持つ人たちが状況を説明できる機会をつくること.
(3)社会的な制度は、ウエブ・アクセシビリティー規格などのように意義がある.制度の側面から、技術利用に関する意識を高める、知識を広めること[1].

4.まとめ
 支援技術として利用されている通報のメディア変換処理が、実際に有効な手法として活用されるためには、その利用技術が重要でることを述べた.また、利用技術の定着のための課題についても述べた.技術が有効に活用されるためには、当事者などの活動が重要な要因の一つであると考える.


文献
[1]例えば、日本WEBアクセシビリティ協会( http://www.jawaa.or.jp/ )、
総務省(http://www.soumu.go.jp/menu_kyotsuu/policy/webaccessibility/).