障害学会第10回大会(2013年度)報告要旨
菊池 尚人 (きくち なおと) 慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科
■報告題目
フランスにおける障害者向け電子図書サービス ~法制度の変遷とその影響~
■報告キーワード
フランス 電子図書サービス 法制度
■報告要旨
1 調査の対象及び手法
本報告は、平成25年2月末から3月初旬におけるパリでの
GIAA(Groupement des Intellectuels Aveugles ou Amblyopes )
UMPC(Université Pierre-et-Marie-Curie、BrailleNet事務局)
Bibliothèque nationale de France(フランス国立図書館)
等におけるヒアリング、各種文献等調査等に基づくものであり、「フランスの障害者向け電子図書サービス」に関する報告である。パリの用務先では、障害者への支援環境や支援政策についてヒアリングしたり、視覚障害者への図書館、高等教育機関の支援状況を調査したりした。
2 法制度の変遷とその影響
2006年に点字端末専用機、PC+USBキー、DAISYリーダー端末のいずれにも対応した視覚障害者向けマルチメディア図書サービスであるBibliothèque Hélène (ヘレン図書館)がサービスを開始する。あわせて、2001年におけるEUの情報社会指令(Information Society Directive)を国内法化するために、法律としてDADVSI(Droit d'auteur et droits voisins dans la société de l'information:law on authors' rights and related rights in the information society)が制定された。DADVSIはフランスの知的財産法典等を改正する法律であり、DRM回避行為や違法ダウンロードを禁止した法律であるとともに、著作権の権利制限規定を拡大した法律である。これによって、視覚障害者団体は権利者から利用許諾を得ることなく、著作物を音声、点字等のフォーマットで複製したり、視覚障害者に送信したりすることが可能となった。
2008年には、DADVSIに基づき、décret(政令)が制定され、著作権制限規定の対象となる障害の度合い等が定められた。2009年には、Bibliothèque nationale de France(フランス国立図書館)が、DADVSI関連政令の定める電子ファイルの書庫となった。翌2010年に、BrailleNetが他の機関とともに最初の認定団体として公示され、フランス国立図書館の障害者サービスプラットフォームとしてPLATON(Plateforme sécurisée de Transfert des Ouvrages Numériques)がサービスを開始した。これによって、認定団体は出版社等へのファイル提供依頼をフランス国立図書館に申し込むプロセスで足りることとなった。
そして、2012年にはBNFA(Bibliothèque Numérique Francophone Accessible)がサービスを開始する。BNFAは、視覚障害者向けにフランス語で電子図書サービスを提供している主要な機関が連携した国際的なプラットフォームサービスである。技術的にはServeur Hélène(ヘレンサーバー)とBibliothèque Hélène (ヘレン図書館)を支えてきたPlateforme Hélène(プラットフォームヘレン)をベースとしている。このプラットフォームには、
L’Association BrailleNet
GIAA(le Groupement des Intellectuels Aveugles ou Amblyopes)
ABA(l'Association pour le Bien des Aveugles et malvoyants)
の3つの団体が参加しており、フランスとスイスの法律に則り、フランスドメインとスイスドメインでそれぞれサービスを提供している。
3 今後の調査方向
本調査は、「視覚障害当事者の共同自炊型オンライン電子図書館を実現するための条件に関する研究」における報告であり、「フランスの障害者向け電子図書サービス」をテーマとした。しかしながら、BNFA(Bibliothèque Numérique Francophone Accessible)はフランスとスイスにおける電子図書サービスであり、今回の調査で対象としなかったスイスにおける活動等を精査する必要がある。また、「視覚障害当事者の共同自炊型オンライン電子図書館を実現するための条件に関する研究」という公費研究のメインテーマに鑑み、フランスにおける共同自炊型オンライン電子図書館についてもSésame等の関連団体を対象として調査を行う必要があろう。これらを踏まえた上で、アメリカにおけるBookshare https://www.bookshare.org/ や日本におけるサピエ https://www.sapie.or.jp/ と、フランスにおける電子図書サービスを比較検討して、今後の国際的な電子図書サービスの在り方に関する考察へとつなげたい。
4 文献URL *全て2013年5月7日現在
・BrailleNet
http://www.braillenet.org/
・Dominique Burger “Digital Document Delivery for the Blind in France”
http://www.snv.jussieu.fr/inova/publi/ifla1.htm
・Benoit Guillon, Dominique Burger, and Bruno Marmol “A Secure Internet Service for Delivering Documents for the Blind”
http://www.snv.jussieu.fr/inova/publi/icchp/secu.pdf
・Daisy Consortium “Creating the best way to read and publish”
http://www.daisy.org/stories/dominique-burger-part-2
・La Bibliothèque numérique SESAME
http://www.bibliosesame.fr/
・Syndicat national de l’edition “Plateforme Platon - exception handicaps”
http://www.sne.fr/plateforme-platon-exception-handicapes.html
・Bibliothèque nationale de France “Bienvenue sur Platon”
https://exceptionhandicap.bnf.fr/platon-web/
・C. DESBUQUOIS, D. BURGER 2008 "Lessons from the Hélène Digital Library"
http://inova.snv.jussieu.fr/evenements/colloques/colloques/article.php?c=46&l=en&a=81#contenu_article
・Bibliothèque nationale de France "Gallica"
http://gallica.bnf.fr/
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