障害学会第10回大会(2013年度)報告要旨

上村 勇夫 (うえむら いさお)   日本社会事業大学実習教育研究・研修センター

■報告題目

知的障害者の継続的就労を実現する要因に関する探索的研究

■報告キーワード

@知的障害、A継続的就労、B当事者調査

1. 問題と目的

一般就労した知的障害者は労働面だけでなく生活面も含めた様々な問題を抱えることもあり、さらにその問題は企業の中と外といったように部分に切り離して捉えることは不可能である(中川 2003)。それゆえに生活機能障害(環境因子も含む)を踏まえた、労働と生活の統合的支援が重要である。しかし、労働と生活を一体的・継続的に支援するシステムの確立はいまだ不十分であり(松為 2006)、より一層体系的な研究が必要である。
そのような課題を踏まえ上村(2013)はアンケート調査により知的障害者が雇用されている特例子会社の一般従業員1)が、職場内でのサポートをメインにチームを組んで試行錯誤している支援実態を明らかにした。その際@障害特性への対応の困難感、A生活問題への対応の困難感、B考えをそろえる困難感があり、その軽減策として@信頼関係および個別性の重視、A支援機関との協働、B資格の取得など教育の推進、Cチームワークの強化を提示した。
同研究を踏まえよりリアリティに富んだ知見に迫るために、本研究は特例子会社で約20年間継続的に勤務している知的障害のある社員や、ほぼ同様の期間ともに働いてきた一般従業員へのインタビュー調査を通して、知的障害者が継続的に就労をするための要因を探索的に明らかにすることを目的とした。知的障害者の就労継続に関する成功事例を丹念に分析することにより、障害者本人の生活機能や生活構造を踏まえた、労働と生活の統合的支援の構築に資することが期待される。

2. 対象・方法

対象は@知的障害者雇用においてグッドプラクティスを展開しているA社2)において約20年継続的に就労している知的障害者5名。A同社において上記5名とともに働いた一般従業員3名。うち1名は初代社長。2名は指導的役割を担った一般従業員。
方法は半構造化インタビューである。

3. 結果と考察

約20年働き続けられた要因について、まず知的障害のある社員の発言から以下のようなポイントが整理された。
@ 働く中での成長の実感。
A 定年まで働き続けることへの思い。また辞めたいと思った時にも周囲から今の会社の良さを強調され踏みとどまる。
B 企業の内外を問わず常に相談に乗ってもらえる人がいる。ストレスの軽減効果に。
C 自立した生活の維持および実現のため。
D 個人因子。特に他者を悪く評価しない性格傾向のある人は安定している。
同様に一般従業員側から得られた就労継続の要因を以下のように整理した。
(1) 経営環境:企業トップの継続的理解と配慮。
(2) 人的環境の整備
@ 障害特性および家族や生育歴も含めた環境因子に対する理解。
A 一般従業員の人選。継続的支援(きめ細やかな相談等)に向いている人の配置。
B 職場の周囲の人々の理解促進。
(3) 職場環境の整備
@ 障害者が適応しやすい職場(仕事)作りと適正配属。
A 加齢現象を考慮した業務の構築。
(4) 教育環境:「規律・仕事は厳しく、職場は楽しく」
@ 社会生活・職業生活指導:あいさつや返事といった基本的態度の指導。
A 自立した職業人の育成:給料を得て働く場、組織の一員といった職場認識の強化、キャリアアップシステム等による意欲の醸成等。
(5) 職場と家庭と学校・支援先との連携による定着管理
以上の結果から、知的障害のある社員本人の力を十分に生かせる職場環境の重要性、および対人関係や生活問題の悩みについて相談に乗り、励ますような継続的支援の重要性が示唆された。今ほど障害者の就労支援機関が充実していない20年以上前からA社は試行錯誤で上記のようなノウハウを確立し、生活面も含めた多様なソーシャルサポート機能を企業内で担って成果を上げてきた。しかし全ての企業にそこまでの機能を果たすことを期待することは現実的ではない。これからは外部の支援機関との連携も視野に入れ、かつ障害者本人や企業のエンパワメントも重視した、総合的な支援が行われる必要がある。その時に現在就労支援分野で支持されているジョブコーチやナチュラルサポートといった企業内における支援がベースとなって考え方だけでは限界がある。今後は労働と生活を統合的に支えるソーシャルワークを確立していく必要があると考える。




1) 先行研究を踏まえ「対象者である障害者と一緒に働く従業員。対象者と直接接する上司・同僚やその周囲の人も含まれる。」と定義する。
2) A社がグッドプラクティス企業である根拠は当日の報告で示す。

文  献

松為信雄(2006)「就労支援サービス3年目の見直しと課題」『発達障害研究』31(4).
中川 真由美(2003) 「障害者の雇用と就労におけるソーシャルワークのあり方」『 社会福祉研究』87号 .
上村勇夫(2013)「知的障害者とともに働く特例子会社の一般従業員の支援実態と困難感」『社会福祉学』54(1).