天栄村の真ん中で/石井勇気

 僕は天栄村出身で今は東京の大学に通っている。何処の出身かを人に尋ねられたときは「天栄村」と言ってもどうせ分からないだろうと思って「福島県の真ん中のちょっと下」と答えることが多い。実際、東京に来てから会った人で天栄村を知っている人はいなかった。東京に来てから数年が経ち、いつしか自分の中でも、天栄村は「福島県の真ん中のちょっと下」という言葉のイメージで形作られていった。
 天栄村には10時頃到着した。見慣れた道。青空と緑の大地。その両方を映す田んぼ。懐かしい風が、そのとき確かに天栄村にいた私たちと植えられたばかりのイネの苗の間を吹き抜けていった。天栄の田んぼの泥に足を突っ込むと、もう僕は自分の割り当てられた3列に一心不乱にイネの苗を植え始めた。その列を半分近く植え、田んぼの真ん中でふと顔を上げると、そこには僕の故郷があった。僕は田んぼの真ん中で故郷を見つけた。青空と緑の大地。その真ん中に僕がいた。
 僕の故郷は「福島県の真ん中のちょっと下」ではない。どんな言葉でだって表せるはずがなかった。僕があの時田んぼの真ん中で感じたもの。僕が天栄村のド真ん中で過ごしたすべての時間。それが僕の故郷なんだ。