「その声」に耳を傾けて

木工体験編/人物…矢板 桂祐さん 文責…八尋 由希子・湯本 啓太

 天栄村に到着して最初のイベントは木工体験。おにぎりプレートとお箸セットをつくるワークショップだ。おにぎりプレートの模様は米粒がモチーフ。米粒ひとつひとつを彫るうちに、いつのまにか参加者は皆作業に夢中になっていた。
 米粒の模様をきれいに彫るには木目に沿って彫刻刀を入れることが大切で、それは「木の声を聞く」ことだとワークショップの先生・矢板桂祐さんはいう。木目がわからないと参加者に聞かれた先生は、その人が左利きだと気づき、机の端に移動したほうが木目に沿って彫りやすいとアドバイスをした。矢板先生は「木の声」だけでなく、人の声も丁寧に聞いてくださる方だった。
 ワークショップの終盤、紙やすりをかける音がするなか、矢板先生は静かな声でゆっくりと話はじめた。震災後福島県の材木はその多くが廃棄されたこと。福島の材木を使うことができるのか、使っても大丈夫なのだろうかと考えたこと。また、矢板さんのおじいちゃんの家は原発五〇㌔圏内にあり、子どもの時近くの森でよく遊んでいたこともお話くださった。矢板先生が言う「木の声を聞く」は木目をみることだけではなく、森林に育つ木の声を聞くことでもあった。矢板先生は「木の声」を私たちに伝えてくださった。
 矢板先生が木工に興味を持ったのは大学生の時だった。週3日大学に通い、それ以外の日は工房でアルバイトをしていたという。その工房に弟子入りして三年ほど修行をし、現在は「yajirusi furniture矢印家具」として独立。オーダーメイドで家具を作っている。「工房で作業するときは一週間くらい誰とも話さないこともある」といい、木の声を聞くことに徹している。矢板先生の作品のひとつに、椅子の形をした小さな木の指輪置きがある。「料理の時とか指輪をはずすでしょ?」と、やはり「人の声」にも耳を傾ける方だった。
 ワークショップ後の懇親会では「こういう飲み会みたいなのはあまり慣れてなくて…」とはにかんだ様子で、矢板先生にとって初めてのワークショップを「木の声を聞くことはできるけど、人の声を聞くのは大変だった。」と振り返った。

ブルーベリー農家編/人物…上野晃さん京子さんご夫妻 文責…相原 恭平・紅野 良太

 天栄村。都会育ちの私にとって久しぶりの「田舎」である。都会では見られない景色を見ることができた。そこで上野さんご夫妻に出会い話を伺った。
 上野さんご夫妻は二〇〇五年に天栄村に移住しブルーベリー栽培を営んでいる。移住地を天栄村に決めた理由は天栄村の自然に一目惚れしたからだそうだ。様々な選択肢からブルーベリー栽培を選んだ理由は「なんとなくそうなった」かららしい。なんとなくと言われてなおさら興味が湧いたため、詳しく話を伺ってみた。
 ブルーベリーは収穫ができるまで最低四、五年かかり、収穫があがるまでは八から一〇年かかるという。上野さんご夫婦は一八本の苗木の植え付けから始め、今では八〇〇本にもなったそうだ。ブルーベリーは使用していい農薬が決まっていないため、無農薬栽培が主流だという。毛虫は手作業で除去し、嫌でも手がかぶれてしまう。やはり震災の影響も受けたという。保湿のため地元の天然資材の木のチップを使用していたが、安全第一の考えでチップの使用を中止した。チップを使用しても大丈夫だった可能性も大いにあるが、やはり日本の農家として安全面でのリスクは犯せないという。何より、上野さんご夫妻のような農家の強みは、一つ一つ丁寧に、安心安全で、質の高い物を作れる点である。

  話していると、ブルーベリー農家として黙々と働く上野さんご夫妻の様子が目に浮かんでくるようだった。彼らの作ったブルーベリーのジャムを一口いただいた。本当に美味しかった。彼らの作るブルーベリーの消費者は地元の人々が中心になるという。ブルーベリーは摘み取ったその時から質が落ちていくからだ。私の中でどうにかしてこのブルーベリーを多くの人に届けることはできないだろうかという思いが強くなってきた。
摘み取りたて、つまり最高の状態のブルーベリーをふんだんに使ったジャム。芳醇な味わいに学生たちはうなるばかり。

 春夏秋冬と景色を大きく変化させ、「日本の四季」を感じさせてくれる天栄村、黙々と農業に精を出す元気で素敵な方々、もっと多くの人に知ってもらいたいと思わずにはいられない。 

   
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