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3.1 発表の位置づけ

第3章 研究発表の方法

猫の顔 『「卒業研究」で得られた成果は、「卒業研究発表会」で発表することになっているよね。ここでは、発表の位置付けや発表までの準備、発表の方法について勉強しよう。』

熊の顔 『卒業研究は、どのように発表すればよいのかなぁ。発表会までに、どんな準備をして、どんな心構えで発表すればよいか、教えてほしいわ。』


3.1 発表の位置づけ

猫の顔 『まず、発表の位置付けについて考えてみようね。』


「発表」は研究の最後に位置するの仕事の一つであり、研究した内容を論文に仕上げると同時に、その内容を発表したり、研究した内容を国際会議等で発表してから、その後、論文にまとめるなどの手順となります。発表の位置付けを、研究と論文との関係として示すと図3.1となります。

発表の位置付け

図3.1 発表の位置付け

それでは、研究、論文、および発表は、それぞれどのような意味を持つのか考えてみましょう。研究、論文、および発表の持つ意味の要点を説明すると、以下のようになります。

すなわち、発表は研究成果を対面のコミュニケーションによって聴衆に伝えるとともに、有益な議論や質問の場と位置付けられます。この点は、論文では到底実現できない機能であり、発表での議論や質問の内容を、発表した研究や今後の研究に生かすことができる可能性があるのです。

したがって、発表にあたっては、研究の遂行や論文の執筆とはまったく異なる視点での準備や発表内容の吟味、発表時の心構えが要求されます。

また、研究発表の場合は、発表用の「スライド」(発表内容の要点をまとめた箇条書きの文や図表)を作成して、それらを提示しながら発表する手法が一般的です。そこで、この章では、発表の準備、スライドの作成方法、実際の発表でのポイントなどのついて解説していきます。

スライド
 「スライド」という言い方は、発表の際はもちろん、図の作成用ソフトウェアやプレゼンテーション用素材の作成ソフトウェアでも良く使います。
 スライドというのは、もともと、写真フィルムをプロジェクター(映写機)で拡大投影することを前提としたカメラ用フィルム(リバーサルフィルム)を、現像処理してできる投影用のフィルムの名称です。デジタルカメラで撮影し、プロジェクターで投影することがあたり前の今の時代では、このリバーサルフィルムは、ほとんど使われなくなってしまいました。しかし、「スライド」という名称だけが今でも残っています。
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3.2 発表の準備

3.2 発表の準備

熊の顔 『発表の準備のときは、どんな点に注意すればよいのかなぁ?』


(1) 発表の構想

発表の構想を練る準備の段階では、以下のような重要なポイントがあります。

  1. 「論文」の内容をすべて話そうと思わない。
  2. 発表の重点をどこに置いて話すかが重要である。
  3. 使用する図と表により発表の手順を考える。
  4. 他人の研究、自分の研究、研究に関する解説の3つの区別を明確に表示し説明する。
  5. 計算値と実測値の区別を明確に表示し説明する。

立派な研究を行って立派な研究成果を得た人ほど、自分の立派な研究成果のすべてを聞いてもらいたいと思うのは当然のことであり、自分の「論文」の内容のすべてを話したくなることも当然です。しかし、研究発表の発表時間は、(専門分野の重鎮などの研究者の招待講演等を除けば)長くても20分程度であり、短いと10分程度のこともあります。

このため、発表の重点をどこに置いて話すのかを厳しく吟味しておかないと、発表の途中で発表時間が終わってしまったり、多くの内容を網羅したために、発表のすべてが表面的で薄っぺらになり、その結果、聴衆には理解できない発表になってしまいます。上記の1つ目と2つ目の重要なポイントは、言い換えると、発表に対応する論文内容のどこを残してどこを切り捨てるかという「取捨選択」がうまくできるかどうかにかかっています。

また、研究論文と同様、研究発表においても、図と表は理解度を増すための重要なツールです。したがって、「取捨選択」した後の自分の発表内容を考える場合、その研究内容や研究成果を端的に現す図と表を選択し、それらの図と表を順番に説明するような発表の手順を考えると、効率がよいことがあります。

研究発表で、「先行研究」としてこれまでの他の研究者の研究の説明や、自身の研究を理解してもらための解説を行う例は、珍しくありません。このような場合、先行研究と自分の研究、そして研究に関する解説の3つの区別を明確にして発表しなければなりません。

たとえば、スライドの図や表に表示したり、スライドの説明の前置きとして話したりする方法があります。そうでないと、「すべてが自分の研究と誤解される」と考えるのは大間違いで、「すべてが他人の研究や解説で、自分の研究はほとんどない発表である」という低い評価となることを覚悟すべきです。

次に、少し細かい話になりますが、図と表で扱うデータについての重要なポイントです。研究内容によりますが、コンピュータシュミレーションなどで得られた「計算値」と、実験や測定器で実測した「実測値」の両者を扱う場合があります。この場合、計算値と実測値の区別を、スライドでの表示や説明の中で明確にしておかなければなりません。

なぜなら、一般に、実測値は計算値より信頼性が高いと考えられており、この区別が明確でないと聴衆の研究成果に対する評価が変わってしまうからです。もちろん、実測値が得られない研究や、計算値だけを議論の対象としている研究に価値がないというわけではありません。


(2) スライドの枚数と発表練習

次に、スライドを作成することを前提にしたときの、発表の準備の際のポイントです。

第一のポイントは、発表時間から、「スライドの枚数」を考えます。大雑把な数値ですが、1枚のスライドの所要時間は、平均で1.5分程度を目安にするとよいでしょう。したがって、発表時間が10分ならスライド7~8枚、発表時間が15分ならスライド10枚くらいが妥当です。

この枚数より少なすぎると、1枚のスライドで延々と説明が続き、間延びした印象となり聴衆は飽きてきます。逆に、スライドの枚数が多すぎると、次から次へとスライドが入れ替わり、説明も早口になって、聴衆は理解できません。

また、写真などがスライドに含まれる場合、「これは、…の写真です。」という説明だけで、次のスライドに移ってしまう発表があります。せっかく写真を示すのであれば、その写真に関する最低限の説明はすべきだと考えます。したがって、スライドに写真などが含まれていても、スライドの枚数を増やして良いことにはなりません。

スライドが準備できたところで、第二のポイントである「発表練習」を行います。発表練習は、一人でもできますが、少し恥ずかしいかもしれませんが、他人に聞いてもらい率直な意見をもらうと良い発表につながります。

発表練習を聞くばかりではなかなか大変なので、お互いに発表者と聴衆となって、発表しあうと練習の効率があがります。発表者である自分が気がつかないことを、聴衆である相手から指摘され直していくことで、発表の質が向上していきます。もちろん、一人でも何度も練習することも重要です。

また、可能であれば、発表の練習は本番と同じ形式で行うとよいでしょう。発表会場はもちろんのこと、マイクの有無、立ち位置や着席して発表するか否か、指し棒やレーザーポインタなども本番と同じように使って練習します。特に、会場の大きさによって、スクリーンの大きさが異なり、しかも客席までの距離もさまざまですので、スライドの文字が客席の最後列から読めるかどうかの確認もしておく必要があります。

第三のポイントは、決められた発表時間を守るように練習を重ねるということです。発表が終わった後には、多くの場合、質疑応答の時間が設けられています。

発表時間より短時間で発表が終わってしまった場合は、せっかくの発表時間を有効に使えないという問題がありますし、逆に、発表時間を超過した場合は、司会者や次以降の発表者に迷惑となります。このような場合、質疑応答の時間が短くなったり、なくなったりすることになり、有益な質問をされる機会を失います。

まして、質疑応答の時間をなるべく短くするために、発表時間をわざと超過するなどという考えは、発表者としてとても恥ずかしいことです。せっかくの研究成果を発表したのに、誰からも質問がないというのも寂しい限りですので。

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3.3 スライドの作成

3.3 スライドの作成

猫の顔 『それでは、実際にスライドを作成してみようね。』


(1) スライドの内容

まず、スライドの内容について、例をあげて考えます。以下は、発表時間を10分と想定したときの例です。

  1. 表紙(タイトル、所属、氏名)
  2. 外部情勢や研究目的
  3. 研究や実験・調査の方法  … 図または表
  4. 結果(1)  … 図または表
  5. 結果(2)(または考察)  … 図または表
  6. 考察(または結果)
  7. まとめ(今後の予定)

スライド1枚あたり1.5分として、10分の場合、スライド7~8枚ということでしたが、仮に7枚で作成するとします。まず、7枚のうち、1枚目は「表紙」です。表紙には、発表のタイトル、発表者の所属・氏名を、大きな文字で記載します。

次に、研究の価値の高さを理解してもらうために、研究に関連する外部情勢(従来の研究と問題点を含む)や研究目的(研究動機)を説明しなければなりません。これらの内容が、スライドの2枚目となります。

そして、最後の7枚目は、「まとめ」です。「まとめ」では、発表全体の内容を、もう一度、箇条書きにまとめて簡潔に説明します。このように、7枚のうち3枚の内容が決まりましたので、残りの4枚のスライドの内容を決めればよいことになります。

発表内容の主要な部分は、研究で行った実験や調査の結果と考察であることは当然のことです。しかし、これらの正当性を理解してもらうためには、まず、研究や実験・調査の方法を説明して妥当であることを理解してもらう必要があります。したがって、スライドの3枚目で、「研究や実験・調査の方法」を、可能な限り図または表を用いて説明します。

すると、10分の発表では、発表内容の主要な部分を、スライド3枚で説明することになります。この3枚を使って、実験・調査の結果とその考察について、図または表を使って説明します。

この部分では、実験・調査の結果とその考察を、別のスライドを使って説明したほうが良い場合と、実験調査の結果と考察を、1枚のスライドに含めて説明した方が良い場合があります。発表の内容によって、どちらにするかを考えます。たとえば、前者の場合の例は、結果と考察が密接に関係する場合であり、後者の場合の例は、スライドをまたがる複数の結果から考察を行った場合などです。

以上、発表時間が10分の場合を例に説明しましたが、発表時間が10分を超える場合は、上記スライドの3枚目から6枚目の枚数を増やしていくことになります。

ここまでの説明を理解して、スライドを作成した人から、次のような質問がよくあります。

スライドの枚数が2倍以上になったような場合は、明らかに、3.2節で述べた発表内容の「取捨選択」を怠っているので、これを再度やり直す必要があります。ただし、スライドの枚数が1.5倍以内で超過している場合であれば、説明の重複を少なくするなどの工夫をし、練習を重ねることで、発表時間に納めることは可能です。

また、1枚目の「表紙」と最後の「まとめ」は、必須なスライドなので、何があっても省略してはいけません。なぜなら、「表紙」のタイトルは、これから発表する内容を聴衆にあらかじめ知らせる重要な役割を持ち、その後の発表内容の理解度の向上に大きく貢献します。そして、最後の「まとめ」は、重要なアピールポイントをもう一度繰り返すことで、研究成果の価値をきちんと聴衆に理解させ、発表の最後を引き締める重要な役割を持つからです。

発表の前半と後半の時間配分
 スライドを1枚目から作成し冒頭から発表を行うと、前半のスライドの時間配分が長くなってしまう傾向があります。
 前半のスライドの内容は、外部情勢や研究目的、研究や実験・調査の方法などでした。しかし、研究発表での価値が高いのは、明らかに後半のスライドで説明する実験・調査の結果や考察などです。
 発表時間は一定ですので、前半のスライドの時間配分を短くして、価値の高い後半のスライドの時間配分を長くするよう意識して発表しましょう。

(2) 作成のポイント

次に、スライドを作成する上での具体的なポイントについて、説明しましょう。スライドで使用する文字の大きさ(フォントサイズ)は、なるべく大きくしましょう。たとえば、スライドのタイトルは、60ポイント程度のフォントサイズがよいでしょう。

また、箇条書きで記載した文の文字も大きく見易いことが重要です。目安として、1ページに12行以内が望ましいと言われています。図3.2は、上記のフォントサイズの条件を満たしたスライドの例です。

スライドのフォントサイズ

図3.2 フォントサイズの条件を満たしたスライドの例

上で述べたルールは、あくまでも大まかなルールであり、実際には発表会場のプロジェクターとスクリーンで投影してみて、後ろの客席で会場の広さと明るさ、プロジェクターの明るさなどを確認する必要があります。

このほか、重要なキーワードを目立つ色で表示したり、同じ分類や関連する事象を同じ色で表示するなどの手法を使ってスライドを作成する方法があります。これらの手法は、聴衆の理解度を増すだけでなく、発表者本人にも、スライドを見ながらの説明がし易くなるというメリットがあります。

図3.3に、背景色(白地と青地)と文字色(青、白、赤、黄など)、フォントサイズとフォントスタイル(ゴシック体と明朝体)を変えたスライドの比較例を示します。

スライドの比較例

図3.3 スライドの比較例

フォントスタイルとしては、「ゴシック体フォント」のように、線の幅が一定のフォントの方が、同じフォントサイズであっても見やすい表示となります。発表の会場の環境によりますが、どちらの背景色のスライドが見やすいか、試してみてください。


(3) 悪いスライドの例

次に、よくありがちな悪いスライドの例を、図3.4に示しておきます。

悪いスライドの例

図3.4 悪いスライドの例

この例では、線の幅が細い「明朝体フォント」を使っており、しかも、フォントサイズも小さすぎます。また、スライド全体の中央部分だけに文字を記載しており、周囲に無駄な余白が多く、スライド画面全体の面積を生かしきれていません。

また、聴衆にとってとても重要な「スライドのタイトル」の記載がなく、このスライドで何を説明しようとするのか、説明が始まってみないとわかりません。さらに、白黒で色彩もなく、いかにも論文の原文をそのままコピーしたような文章を、長々と記載しているため、特に、会場の後ろの方でスライドを見ている聴衆には、判読不可能になることは明らかです。

この悪いスライドの内容をもとに、改良を加えたスライドを、良いスライドの例として図3.5に示します。

良いスライドの例

図3.5 良いスライドの例

「ゴシック体フォント」を使用して、スライド画面の隅から隅までを有効に活用するため、なるべく大きなフォントサイズに変更して、会場の後ろからでも文字の判読が可能となるよう工夫しています。その結果、無駄な余白が少なくなっていますね。また、スライドの「背景」と、重要な「キーワード」を示すタイトルや文字などに色をつけて目立つようにしています。

さらに、これから説明しようとする内容が一目でわかる「スライドのタイトル」を、とても大きなフォントを使用して追加しています。文章を長々と記載することはやめて、説明のポイントやキーワードを示す小タイトルを付加して、箇条書きの文に書き換えています。図3.4と図3.5の2つのスライドの例を、じっくり見比べてみてください。あなたは、どちらのスライドの発表を聞きたくなりますか?

以上、スライドの作成について、とても細かいことまで説明してきましたが、発表において聴衆が一番困ることは、スライドが読めないことと、発表者の声が聞こえないことです。発表内容以前の問題として、これらの2点については、万全の準備と練習を重ねておきましょう。

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3.4 実際の発表

3.4 実際の発表

熊の顔 『いよいよ、実際に発表するときになったけど、どんな点に注意して発表したらよいのかなぁ?』


(1) 発表の手順

発表は、プログラムによって発表順が決められており、司会者の進行のもとで順に進んでいきます。司会者が、発表のタイトルや発表者を紹介して発表が始まります。

この際、発表者は、以下の3つの重複する手段で、発表のタイトル発表者の所属・氏名を聴衆に伝えます。

  1. 司会者(座長)が紹介
  2. 自己紹介
  3. スライドの表紙に表示

どこの誰が、どんなタイトルで発表するかは、聴衆にとってとても大切な情報です。発表者にとっても、これから発表する内容を、聴衆に事前に伝え理解度を増す重要な意味があるため、上記の3つの手段で重複して知らせる必要があるのです。したがって、司会者に紹介されたからといって、自己紹介を省略してはいけません。

また、発表の「アウトライン」を発表の2枚目のスライド1枚で、あるいは、常時表示する別のスライド1枚で表示する場合があります。この表示は、今、発表全体のどこを話しているのかがわかり、ぜひ聞きたい発表でも、早く終わって欲しい発表でも、聴衆にとって都合が良いものです。

しかし、発表時間が10分か15分程度の短い発表では、アウトラインの説明時間が無駄になります。スライドの切り替え時に、アウトラインで記載すべき発表内容の進捗に関する情報(「次に、考察を行います。」など)を伝えれば十分だと考えます。

また、写真のスライドの件でも述べましたが、スライドを示すからには、必ず何か説明してください。「このスライドを見てください。」などの全く意味のない説明(新しいスライドが表示されれば、寝ている人以外は言われなくてもスライドを見ます)だけで、次のスライドに切り替えてはいけません。

特に、「まとめ」のスライドで、「以上をまとめると、このようになります。」とだけ言って発表を終わる人がいます。せっかく、「まとめ」のスライドを作ったのですから、重要なアピールポイントを、もう一度繰り返し、聴衆に研究成果の価値を理解させなければなりません。そういう意味からも、多すぎない適度な枚数のスライドを準備する必要があるのです。

スライドの枚数が多すぎて、発表時間が足りなくなり、最後の方のスライドをあまり説明もしないで、駆け足で切り替える発表があります。このような場合、「多くのスライドを苦労して作成したので偉いなぁ」と思う聴衆は少なく、単に、「発表時間を考慮してスライドを作成できない無能な発表者」という聴衆の評価となります。

最後の「まとめ」のスライドを説明すると、いよいよ発表が終わります。発表が終わったら、必ず、「以上で、 … の発表を終わります。」と言ってください。

これは、司会者に対する礼儀です。なぜなら、司会者の立場に立ったとき、発表者の発表が完全に終了しないと、次の質疑応答に移れないからです。

司会者が発表が終わったようだと考え、「質疑応答をお願いします。」と発言したのに、万が一、発表者の発表の途中だったことがわかった場合、司会者にとってとても恥ずかしい展開になってしまいます。司会者が困らないように、発表が終わった旨は、明瞭に伝えましょう。

淡々と話す「解説調」の発表
 説明会のように淡々と話す「解説調」の発表は、研究発表としては、あまりふさわしくありません。他人の研究成果を、代理で紹介してるような印象の発表となってしまうからです。
 このような「解説調」の発表にならないためには、ちょっとした言い回しを活用して話すと、自身の研究成果を大きくアピールでき、かつ、聴衆に耳を傾けてもらえる発表にすることができます。たとえば、以下のような言い回しです。
  • 「研究方針として、…」
  • 「…を実験(調査)した結果、…」
  • 「…が判明しました。」
  • 「新たに、…を提案しました。」

(2) 質疑応答

質疑応答に関する話は、発表そのものではありません。しかし、発表と深く関係するので、発表者の質問への回答と、質問者側のマナーの両側面から触れておきます。

まず、発表者の質問への回答ですが、質問があったら、質問内容を復唱して質問者に確認するとよいでしょう。特に、一人の質問者が2つ以上の質問をした場合は有効です。

発表者は緊張しているので、1つ目の質問に答えている間に、2つ目の質問を忘れてしまうことが多々あります。また、復唱している時間に、どのような回答をするかの方針を立てる時間を稼ぐ目的も同時にあります。ただし、口で質問を復唱しながら、同時に、頭で回答の方針を立てるのは相当な熟練の技です。

次に、回答するときは、質問に対する結論(回答そのもの)を先に答えて、その根拠・理由などは後で説明しましょう。根拠・理由などの説明を先に答えているうちに、質問者が聞きたい答えを言い忘れてしまうようなありえないことが起こるのです。「イエス」か「ノー」か、あるいは「数値」だけを答えれば、それで質問者にとって十分な場合もあります。

また、分からないことは、無理に答えようとする必要はありません。無理に背伸びして答えようとすると、さらに関連質問がきて、つじつまが合わなくなったりします。

研究発表の場合、分からない質問や、まだ実験や調査を行っていない内容については、「今後の課題とさせていただきます。」というような都合の良い答え方もあります。質問者も大人なので、この答えで、だいたい引き下がります。

そして、少し高度な質問対応の話題となりますが、自分が答えてよい質問かどうかの判断も重要です。研究そのものに関する質問内容であっても、外部に発表してはいけない「ノウハウ」や「重要データ」に関する質問などです。これについては、「自分は回答できる立場にはありません。」などと答えればよいでしょう。

次に、発表と直接関係ありませんが、質問者のマナーについて参考として補足します。質問にあたっては、所属と氏名を名乗ってから質問しましょう。

2つ以上の質問がある場合は、「1つめの質問は、…」、「2つ目の質問は、…」と、発表者に分かりやすく質問しましょう。さらに、発表者から回答があったとき、最後に、その回答で納得したかどうかの意思表示をするのが、質問者の礼儀です。


(3) その他

実際の発表に関して、その他の大切なポイントについて説明します。まず、発表の際には、聴衆の方を見て発表しましょう。印象も良くなりますし、聴衆は、発表をよく聞いてくれることにつながります。

スクリーンに表示されたスライドの具体的な項目を説明するときには、その項目を、差し棒やレーザーポインタで指して説明します。説明の声と口調ですが、マイクがあるときは必ずマイクを使い、マイクがない場合はなるべく大きな声で語尾まで発声し、さらに早口にならないように話します。このほか、可能であれば、以下のような点を確認するため、発表会場の下見をしておくとよいでしょう。

そして、配布資料(スライドの縮小コピー、要旨の資料など)が必要かどうか、なども確認しておきたいものです。

最後に、当日、会場に到着したら司会者(座長)に事前に挨拶しておくとよいでしょう。これは、礼儀もありますが、司会者を安心させるためです。司会者が一番困ることは、発表者が会場に現れないことです。発表者が挨拶に行けば、すでに発表者が会場に来ていることがわかり、司会者は安心するからです。

聴衆を見て発表
 「聴衆を見て発表」と言っても、なかなか聴衆の顔や、まして聴衆の目を見て発表するのは恥ずかしいものです。このようなときには、聴衆の後ろの壁を見て発表する方法があります。少し広い発表会場であれば、後ろの壁を見ていても、聴衆は自分を見てくれていると勘違いしてくれます。
 この応用として、さらに少人数の相手と話す場合、相手の目を見る代わりに首の辺りを見ても同じ効果があります。
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