熱電材料は大きなゼーベック係数、大きな電気伝導度、そして小さな熱伝導度が必要である。特に電気伝導度を下げずに熱伝導度を減らすためには、フォノン熱伝導度を下げる必要がある。我々は超格子薄膜における界面熱抵抗によって熱伝導度の低減を試みている。
このような薄膜の熱伝導を測定しようとする場合、基板の熱伝導が薄膜の熱伝導より何桁も大きくなるため、通常の測定方法は使えない。本研究では、パルスレーザーを用いるサーモリフレクタンス法によって熱伝導度を測定した。測定した系はSrVO3-SrTiO3を交互積層した超格子薄膜である(図1(a)(b)にSTEM像を示した)。通常のサーモリフレクタンス法と異なり、系に直接ポンプ光を照射して、SrTiO3が透明でSrVO3の光を吸収すること利用し、その後の温度変化(図1(c))をプローブ光の反射率変化として測定することにより、熱伝導度を求めた。図1(d)が反射率の時間変化の実験結果、および計算によって求めた反射率温度変化のフィッティングカーブである。横軸の時間は対数スケールになっているが、10
psから数1000 psまでの3桁近くにわたって、1つのフィッティングパラメータ(界面熱抵抗)でフィットできていることが分かる。様々な厚さの超格子薄膜を測定した結果、界面熱抵抗はおよそ2×10-9Km2/Wと一定の値をとることが分かった。この界面熱抵抗により、例えば4 nmの厚さの超格子薄膜の熱伝導度は、バルクのそれに比べて1/20程度に減少することが分かった。
SrTiO3とSrVO3のフォノン分散はほとんど同じであり、通常の理論ではこのように大きな界面熱抵抗は説明できない。界面におけるSrVO3のd軌道の再配列とそれに伴う格子の局所的な歪が界面熱抵抗の原因となっていると考えられる。
図1 (a)(b) SrVO3-SrTiO3超格子薄膜のSTEM像(左がTi、右がV)(c) SrVO3-SrTiO3超格子薄膜にパルス光を照射してからの温度変化 (d)光誘起反射率スペクトル変化(実線)と界面熱抵抗を仮定した場合のフィッティング(点線)
T. Katsufuji, T. Saiki, S. Okubo, Y. Katayama, and K. Ueno,
“Thermal conductivity of SrVO3−SrTiO3 thin films: Evidence of intrinsic
thermal resistance at the interface between oxide layers”,
Phys. Rev. Materials 2, 051002(R) (2018)
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