本講義の目的は、社会構成原理の最も基本的な概念の1つである公共性と、我々に物質的基盤を提供する経済の最も基本的な仕組みとしての市場との間に成立する関係について考察することである。市場は単に財の取引の場であるにとどまらず、人々が日々取引を通じて人間関係を深めると同時に、新しい人間関係を形成する場でもある。その意味で、市場は公共性の実現の場である。だが、市場の公共性は市場取引に参加する人々の関係形成の場を提供するというにとどまらない、もっと根源的な意味を持つ。それは、市場が我々の生存そのものを規定する物質的条件を提供することによって、公共性の実現に重要な役割を果たしているという点である。そしてこの機能は、市場を取り巻く多くの公共財・準公共財との協力によって達成される。 以上の論点は、地球的規模でも考察される必要がある。グローバリゼーションと技術的進歩によって実現された市場の優越、国と国の相互依存は、小さくて狭い地球を作り出し、国境の意味をなくならせつつある。その一方で、貧しい統治(ガバナンス)は少子化・高齢化による社会保障の劣化を始めとした国内問題、武装対立、地球温暖化、低開発国の貧困といった国際的、地球的問題をあっかさせつつある。これらの解決されるべき問題に適切な対応策を見つけ出すためには、地球的視点に立った公共性、地球的社会のための地球的公共性が必要であろう。それは、すべての人間の保護、生存、自然の寿命、平和、共存、秩序の維持を要求するものであるに違いない。こうした地球的公共性にも、公共財としての市場システムは重要な役割を果たす。市場は、私的所有権制度、警察、司法など市場を支える諸々のシステムとともに、市場システムを構成し、私的財の安定的、効率的供給を通じて公共善の増進を実現するが、他の制度が多くの面でそれをサポートする場合だけ、市場システムはよく機能する。公共財としての市場システムの理解が本講義の1つの到達点である。 国内だけでなく、地球的、国際的な場面でも、市場システムは重大な役割を果たす。の費用を調達するために市場システム税が必要である。これは国際的な市場の使用料金であり、ポッゲの地球的資源税とも同じ性質を持つ税である。こうした税の市場支援機能を理解することも本講義の到達点である。
レポート(30%)、期末試験(50%)、授業への参加・貢献度(20%)
資料配布の予定
本講義の目的は、最低賃金法などを手がかりに、「弱者保護」と「選択の自由の尊重」という二つの社会的価値が法学、政治学、経済学などの諸分野においてどのように捉えられているのか、という問題を考えることである。この二つの社会的価値は、社会や人間に対する複合的な視点を養うための格好の材料であるだけでなく、今日のさまざまな社会問題を解釈し、解決策を探る上で必要不可欠な基準でもある。さらに、これらの社会的価値に対する法学的思考様式・政治学的思考様式・経済学的思考様式の相違、法や政策の帰結に対する評価の相違を理解することを目的とする。
自由放任の政治哲学的根拠を与えたノージックのリバタリアニズム哲学、市場における自発的な交換に介入することに反対する自由放任の新古典派経済学における厚生経済学の第一定理、自発的な交換に対して法的保護を与えるべきとする契約法学上の立場を理解する。続いて、反対の立場に目を転じ、弱者保護の一つのあり方を示す法的パターナリズム、ホモ・エコノミカス仮説に対する行動経済学の批判、行動経済学による知見をパターナリズムと結びつけたC・サンスティンによるリバタリアン・パターナリズムの主張を検討し、個人の選択を尊重するパターナリズムが可能かどうかを検討する。
その後、選択の意義、選択の自由を再考し、弱者保護の方法としての福祉国家的な社会政策に対して一つの正当化を与えた功利主義の意義と限界、功利主義とは異なった仕方で福祉政策を正当化しようとしているJ・ロールズの功利主義批判と、彼の提出する代替案、社会的基本財の理論を考察し、さらに、A・センの潜在能力アプローチの魅力と限界について検討する。
以上の考察を通じて、各人が、個人の選択の尊重と弱者保護の関係を整合的に理解する方法がないのか、ないとするならば、どちらを優先させるべきなのかという問題に対して、自分なりの解答を得ることが、本講義の到達目標である。
レポート(30%)、期末試験(50%)、授業への参加・貢献度(20%)
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