㈼.レポートの書き方



㈼−1 レポートとは何か

「レポート」という言葉は,しばしば漠然と「課題」・「宿題」などを表す際に使われているため,その意味するところが明確ではない.そこでまず,「レポート」とは何かを明らかにすることから始めたい.一般に「レポート」は次のように定義される.

㈰調査・研究・実験などの報告書
㈪学生が提出する研究結果をまとめた小論文
㈫新聞・雑誌などの報告記事

学生諸君に関係あるのは㈪であり,㈰はほぼ「卒業論文」に相当すると考えてよい.ここでは㈪をレポートの定義とし,その意味を見ていこう.レポートの特徴をまとめると次のようになるであろう.

㈰主題(テーマ)が与えられている

漠然としたテーマか限定的なテーマか,いずれにせよ出題者によってテーマが与えられている.時にはテーマを指定せずにレポートが課されることもあるが,それには2つの可能性がある.1つは単位を与えるための口実作りを目的としており,ここにいうレポートではない.もう1つはテーマよりも論理展開の方法を見ることに主眼が置かれているケースであり,ここで定義したレポートにはいる.

㈪出題者の意図を汲むことが要求される

テーマ自体に出題者の意図が見え隠れしていることもあるが,意図が一見してはっきりしない場合でも,出題者の意図を汲んだ内容に作り上げることが要求される.したがって,内容・構成・展開・結論・形式などが要求されているものかどうかをチェックしなければならない.

㈫内容の正確性が要求される(資料的価値がなければならない)

ただの意見書や感想文ではないので,調査・検証・発見した事実に関する客観的記述がなければならない.したがって,伝達すべき情報・内容の正確性が要求される.学生のレポートでは,多くの場合教師の側が一応の知識をすでに持っているので,資料的価値ではなくて内容の正確性が重視される.この点が,社会人のレポートで資料的価値が要求されるのとは異なる.

㈬結論に対する客観的評価と,それに基づく主張が要求されることもある

学生が課されるレポートの場合,出題者の意図の中にしばしば集めた資料やそれに基づく結論に対する評価を求めたり,ある価値判断の下でどのような主張がなされるかを見ようとすることがある.この場合,結論の独自性・主張の独創性が重視される.

㈭特殊な場合として書物の紹介がある

学生の場合,1冊もしくは数冊の書物の要約・紹介がレポートとして課されることがある.→㈼−6参照

㈼−2 レポートの必要十分条件

レポートにはレポートのルールがある.ルールを無視すれば,たとえ内容のよいものであっても,期待するほどの評価は得られないし,場合によっては評価の対象にすらならない.ルールに従った記述であってはじめて,読み手に自分の意図が正確に伝えられるのである.レポートのルールをまとめると,次のようになろう.

㈰事実の記述と意見・考えの陳述を区別せよ

「事実」とは,実験や証明などによって真偽をだれでも確認できるものである.
「意見(考え)」とは,感想・主義・価値判断・推測など,一般に真偽を確かめることが不可能なものをいう.
レポートの資料的価値の源泉は,それが伝えようとする事実の発見である.したがって,事実の正確な記述が最重視される.評価や判断が求められることもあるが,その場合にも事実の記述の部分と評価・判断の部分とは峻別されなければならない.

㈪正しい事実の認識と記述を与える

何が事実か,それをどのように認識・確認したかをはっきり述べなければならない.確認・検証されていない事実は,ここにいう「事実」ではない.その意味で「出所」がきわめて重要であるので,「出所」は常に正確に示しておかなければならない.

㈫推論・論理展開のプロセスを明確にする

論理の飛躍はレポートにとって致命的欠陥である.結論・主張の妥当性は仮定と推論に依存する.仮定や前提条件の提示,それらから結論までの推論・論理展開のプロセスの表出は,結論・主張の正当な評価を与えるために必要不可欠な作業である.

㈬証拠・証明・推論が正しい

a.三段論法(言語モデル)
b.統計的推論(計量モデル)
c.数学的証明(数学モデル)

㈭前提条件や仮定が妥当である

証明や推論に誤りがなくても,現実妥当性のない前提条件・仮定に基づいて導かれた結論であるならば,結論の信頼性はきわめて低いといわなければならない.推論には前提条件・仮定がつき物であるから,その妥当性は常に吟味されなければならない.

㈮正しい推論の結果と価値前提から導かれる意見のみ述べることができる

「事実認識→前提条件→推論→結果→価値前提→意見(主張)」という流れから明らかなように,レポートで述べることができる意見は,事実と価値前提から論理必然的に導かれるものでなければならない.ただし,このような意見であっても,事実(推論およびその結果を含む)の記述の中で一緒に述べることは控えた方がよい.しばしば事実と意見の混同を引き起こしてしまうからである.レポート作成に習熟するまでは(あるいは習熟後も可能な限り),事実の記述の節(章)と推論の節(章),結論の節(章),意見・主張の提示の節(章)は,分けておいた方がよい.

㈯与えられたテーマに対する必要かつ十分な解答をつくる

かなり広いテーマが与えられた場合には,サブ・テーマを設定し,それに対する必要十分な解答であればよい.

㉀事実の記述に関する注意

事実の記述には,価値判断や感情を含んだ言葉を用いてはならない.
資料の出所を明らかにする.
他者の論文や書物における記述を利用する場合は,そのことがはっきりわかるように記述する.→㈽章を参照

㈼−3 ケース・スタディ[1]

かなり大ざっぱなテーマが与えられた場合
→懸賞論文のテーマを思い出せばよい

[例]
a.ケインズの経済観
b.福祉国家の成立
c.日米経済摩擦の経緯
d.日本農業の将来像
e.経済学と人間
f.日本の産業政策
g.戦後日本の経済発展
h.環境と経済
i.高齢化社会の到来

㈰サブ・テーマに分割する

このような広いテーマが与えられた場合,まずいくつかのサブ・テーマに分割してみる.サブ・テーマの分割は便宜的なものでよいし,内容が重複してもよい.

㈪具体的なテーマに変換する

サブ・テーマの中から興味の持てるテーマを選び,出題者の意図を汲みながら,より具体的な問題へ変換していくことが大切である.また,枚数制限・時間の制約を考え答えやすいテーマを選択する.
[例]
テーマ:戦後日本の経済発展
サブ・テーマ:
a.景気循環と主要経済政策の移り変わり
b.神武景気・岩戸景気・平成景気の比較分析
c.高度成長の歪みと環境問題
d.国際通貨体制の変遷と日本経済の変遷
e.石油ショック後の構造変化
具体的テーマ:
a.景気循環の波とその原因を調べ,下降曲面・上昇曲面でとられた政策の特徴を明らかにする.
b.神武景気・岩戸景気・平成景気の特徴を統計的に明らかにし,要因分析を行って比較する.
c.高度成長期に発生した環境問題を調べ,成長と環境保全が両立しうるかどうかを考える.
d.固定相場制から変動相場制への移行が日本経済に与えた影響を分析する.
e.石油ショックを契機として省エネ・省資源に向かった日本経済の姿を明らかにする.

㈫的外れなサブ・テーマでないものを選ぶ

サブ・テーマは与えられたテーマの重要な一部分になっていることが明かでなくてはならない.もし一見して明らかでないのなら,選んだサブ・テーマの重要性,与えられたテーマとの関連性を十分説明すること.

㈬「何でもよい」は,単なる「何でもよい」ではない

「テーマは何でもよいから,レポートを提出せよ」と教師がいう場合でも,いい加減な教師でない限り,何でもよいわけではない.例えば経済学部の授業の中で課されたレポートならば,少なくとも社会科学的な分析が要求されるはずである.テーマ(表題)は何でもよいが,内容は社会科学的分析で埋められていなければならない.

㈼−4 ケース・スタディ[2]

具体的テーマが与えられた場合
→期末の論述試験を思い出せばよい
[例]
a.戦後日本の経済発展をGNP成長率の推移によって論ぜよ.
b.1930年代の経済状況に照らしてケインズの経済観を明らかにせよ.
c.福祉国家スウェーデンの社会保障政策の変遷を調べよ.
d.アメリカの対日通商政策の変遷をたどりながら,日米経済摩擦の制度的側面を明らかにせよ.
e.ウルグアイ・ラウンドの交渉過程を踏まえて,日本農業の今後を考えよ.
f.経済人仮説の現代経済学における役割は何かを解明せよ.
g.金融機関に対する大蔵省の保護政策を例にとって,日本の産業政策の特徴を論ぜよ.
h.現代環境問題の具体例を列挙し,経済学的接近方法の特徴を明らかにせよ.
i.高齢化社会を支えることができる国民負担率を予測し,高齢化社会の経済問題を考察せよ.

㈰要求された水準の内容にする

上記のような具体的テーマの場合,紙数制限の範囲内で要求された内容・構成にしなければならない.枚数制限がない場合は内容の水準だけが問題となる.

㈪レポートの必要十分条件を満たす

㈼−5レポートの作成方法

㈰何についてどのように書くかを決める

大ざっぱなテーマが与えられるか,具体的テーマが与えられるか,いずれであってもまず「何についてどのように書くか」という全体の大まかな構図・構成を考えることが第一歩である.与えられたテーマとはいえ,自分自身の問題意識を鮮明にするという作業の中から生まれてくるものである.

㈪必要な資料・文献・データを集める→㈽−2参照

次に,テーマと全体の大まかな構図に従って,必要な資料を集めなければならない.このとき,可能な限り多くの資料・文献・データを集めておいた方がよい.ただし,要求されている内容,時間的制約に照らして取捨選択しなければならない.(取捨選択の過程で必読文献を排除してしまわないように注意すべきである.)
a.資料の探し方→㈽−1参照
b.資料の分類→㈽−5㈽−6参照
c.データの整理→㈽−7参照

㈫集められた資料・文献を読む

集められたすべての資料・文献にざっと目を通し(素読),小テーマにまとめて分類する.その際,小テーマとの関連性からみた軽重をつけておくとよい.ただし,いくつかの小テーマにまたがる文献もあるので,それぞれの小テーマからみた軽重を示しておくべきである.
[例]
a.各資料・文献に赤でA,B,C,Dをつける
A:全体を精読すべき基本文献
B:一部分のみ精読すべき参照文献
C:簡単な要約だけでよい参考文献
D:不要文献
b.文献分類表をつくる
文献の重要度が一目でわかる自分なりの文献表を工夫してほしい.ついでに,各資料・文献に簡単な要約をつけておくと,後で参照する際に便利である.

㈬メモをとりながら基本文献・参照文献を精読する

㈼−6参照

㈭自分自身の結論・主張を明確にする

この部分がもっとも精力を要求されるところである.結論・主張はオリジナリティが高ければ高いほどよい.しかし卒業論文と違い,レポートの場合は一般に高いオリジナリティは要求されないと考えていてよい.
時間が許す限り自分の頭で考え,自分独自の結論にたどりつくよう努力しなければならない.レポートが思考訓練であることを忘れて,他人の意見を無断で拝借するような窃盗行為は厳に慎まなければならない.→㈽−6参照

㈮自分独自の結論の重要性を示す

基本文献などで示されている通説と自分自身の結論とがいかなる点で異なっているのか,またそれはなぜなのかを明らかにする.自分がそのような結論に到達したプロセスをたどってみれば,自然と明らかになる.自己の問題意識と推論の過程を再確認する作業だといえる.

㈯全体の構成を決める

自分独自の結論,その根底にある問題意識,問題意識から結論にたどりつくまでのプロセスが明らかになったところで,レポート全体の構成を決める.問題意識から結論までのプロセスは直線的なものではない.自分がたどった通りのプロセスをレポートに書いても,読み手には全体がつかみにくくなってしまう.むしろ,自分の結論を読み手が最も納得しやすくなるような構成を考えるべきである.→㈽−6:㈮参照

㉀概要・目次を作る

全体構成を具体化させ,概要・目次を作成する.論理展開がスムーズかどうか,読み手が納得してくれるかどうか,などを基準にして繰り返し検討し,完全なものに練り上げる.各章の見出しには,㈫で作った小テーマを利用することもできよう.

㈷執筆にとりかかる

㈰〜㉀までが十分に練られたものであるならば,執筆の際には正確な文章の作成だけに注意すればよい.しかし実際に執筆を始めると,不十分な箇所(証拠・証明・論理展開が不十分)に出くわすものである.その場合には,始めに戻って考え直さなければならないが,これまでの作業のすべてが無駄になるというものではない.
なお,この段階の執筆は第1次草稿の作成であるから,表現上の工夫などに気を使ってはならない.序論は後回しでもよい.

㉂第1次草稿の論理展開を検討する

ひとまず最後まで書き上げたら,論理展開がスムーズかどうか,結論・主張が説得的かどうか,事実の記述と意見の陳述を混同している箇所はないかどうかを検討する.不適切な部分を修正して第2次草稿を作成する.

㉃第2次草稿の表現を検討する

読みやすさ・分かりやすさ・エレガントさを基準にして,第2次草稿を推敲する.

㈹清書する(ワープロ入力)

ワープロを使ってレポートを作成する場合は,メモや文献表・目次・概要・草稿の作成段階からワープロ入力しておくと,後で大いに役立つ.ワープロのよさは,文章の組み替えや挿入が簡単にできる点にある.使いこなせば,ノート・カードとは比較にならないほどの強い味方となる.


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