㈽.文献の探し方・読み方・まとめ方



㈽−1 文献の探し方

㈰図書館の利用法

図書館には図書館のルールがある.ルールを熟知していれば有効利用が可能となる.
→「図書館利用案内」は図書館で配布しているので参照せよ.

㈪辞書・事典の利用法

テーマによって異なるが,辞書・事典の類には関連領域の学説史的背景や通説,基本文献などが示されているので,当たりをつけるには最適である.

㈫「参考・参照・引用文献」の利用

論文や研究書には,必ず参考・参照・引用文献が掲げられている.これらの文献は,当該問題に関する現在の研究水準を示していると同時に,その領域の必読文献でもある.

㈬新聞・雑誌記事の利用

選んだテーマが現代社会のホットな話題であるときには,新聞・雑誌の記事が極めて重要な情報源となる.また,社会科学の発展は常に現実の問題と密接な関連があるので,現実世界に対する深い関心を持っていなければならない.その意味でも,新聞・雑誌記事には注目する必要がある.

㈽−2 よい文献の見つけ方

人によっては,選んだテーマに関して十分な知識を持っている場合もあれば,ほとんど持っていない場合もあろう.ここでは知識がほとんどないことを前提として説明する.以下の手順で,基本文献の収集から始め,当該テーマに関する最近の文献までフォローせよ.

㈰百科辞典(事典):基礎理論・古典的基礎文献

テーマの属する領域の辞典(社会科学辞典,経済学辞典,金融辞典,統計学辞典,情報科学辞典,商学辞典,会計学辞典,社会学辞典など)には古典的文献に加えて,比較的基本的な文献が紹介されている.さらに通説となっている解釈や学説史的展開などが記述されていて便利である.

㈪テキスト・ブック:古典から最近の文献まで

a.初級テキスト

今更読む必要もないとは思うが,1,2年次に十分勉強しなかった人は基礎理論の復習として読んでおかなければならない.

b.中級テキスト

上級への橋渡しであるため,基本的文献の平易な解説,およびそれに続く主要学説の発展過程の解説が含まれている.著者自身の主張が展開されていないので,面白味には欠ける.

c.上級テキスト

相当に最近の文献まで解説されている.テキストによっては単なる解説のとどまらず,さまざまな文献を統一的な観点から見ていくための分析枠組みが提示されている場合も多く,卒業論文の形式・記述方法を学ぶためにも大いに役立つ.

㈫研究書:最近の展開に直接貢献することを目的として書かれた文献

研究書に掲げられている文献は,研究者自身がそのテーマで研究に取り組む際に格闘したものばかりであり,いわば学界の最高水準を示していると考えてよい.ただし水準の低いものもあるので要注意.よい文献を選ぶ目が要求される.

㈬文献解題・図書出版案内:近刊・最近の文献

最近の文献を知りたいときに利用するとよい.ただし,「玉石混交」になっているので要注意.また,テーマによっては文献紹介(簡単なものなので,それだけでは役に立たない)を意図した書物も出版されている.

㈭国会図書館文献月報:最近のあらゆる雑誌論文

これまでに発行された雑誌論文などが紹介されている.
→著者,雑誌名,発行年月日,出版社など

㈮月刊誌『経済評論』の末尾の文献紹介:最近の文献

経済に関連するあらゆる大学紀要・雑誌に掲載された論文が紹介されている.大学紀要には「石」も多いので,参考にする際には十分注意せよ.
→筒井康隆『文学部唯野教授』岩波書店,を参照せよ.

㈯欠落文献の補充

㈰〜㈮の手順に従って文献を集め,文献の一覧表を作成する.まずは文献の多さに驚いてほしい.だが,これだけでは重要文献が欠落している可能性がある.そこで文献(特に研究書)を読み進めながら,脚注や末尾の文献紹介によって補足をしなければならない.

㉀テーマによる特殊性

レポートの場合,出題されたテーマによっては,高度な内容が要求されない場合もある.その場合は㈰㈪だけで十分である.

㈽−3 文献を選ぶ際の注意

㈰関連のないものは捨てる

十分小さなテーマを選んだつもりでも,文献の数は優に100 を越えてしまう.それだけの数を短期間のうちに読み込むのは不可能に近い.したがって,テーマとの関連性が薄い文献は,たとえ面白くても捨てる覚悟が必要である.(ただし,少しでも興味の持てた本や論文は暇をつくって読んでほしい.)

㈪関連するものはすべて拾う

テーマに関連する文献はすべて拾うのが鉄則である.後から文献を探しにいくのは面倒であるから,見つけた文献はその場でチェックしておく.コピーをとってもよいだろうし,文献カードにメモしておいてもよい.時間があれば,そこで素読し簡単な要約を作ってしまい,特に重要な文献のみコピーをとればよい.(図書館の開架室や雑誌室を大いに利用せよ.)

㈫精読すべき文献を間違えない

論文にも一流,二流,三流・・・がある.精読すべきは一流の文献だけである.ざっと目を通すだけで,それが一流なのかそうでないのかを判断できるよう,能力を向上させておかなければならない.それには,数多くの書物を読んで,学問を身近なものにしておく必要がある.

㈬一流の文献を選別するコツ

a.序論に注目する

「はじめに」,「序論」,Introductionなどを読んで,著者の研究の独創性がどこにあるかを見定める.ただし,研究上の貢献が皆無であるにもかかわらず独創性があるかのように書いてある論文も多々あるので,要注意.特に,各大学で発行している論集,紀要,論叢などにはこの手合いがかなりあるので,時間の無駄をしないように注意しよう.中級テキスト程度の知識があれば,インチキを見破ることができるので,必要最低限の知識は身につけておかなければならない.

b.結論に注目する

「おわりに」,「結論」,Concluding Remarksなどで著者なりに自分の結論の評価を行っているので,これまでの結論(他の文献で通説とみなされていることなど)とどのように異なるかを考えてみる.自己評価が不十分なものは,大体において一流ではない.

c.引用文献・参照文献・参考文献を見る

その領域で必要不可欠と思われる基本文献が含まれていないものは,一流でないか,超一流であるかのいずれかである.まったく新しい事実の発見や理論の構築の場合,引用・参考・参考文献はほとんどない.また,不十分な知識で書かれたものや盗作に近いものにも引用・参照・参考文献はない.

d.図・統計を見る

図表や統計数字の出所が不明確なものは一流ではない.特に,元の資料(たとえば,政府の発表した統計数字や原論文など)に当たっていないものはまずダメである.

e.論理展開をたどる

論理展開に飛躍がないかどうか,論証の証拠は十分かどうか,証明に誤りがないかどうかを,ざっとページをめくりながら調べる.仮定や前提条件の説明がほとんどなかったり,事実の記述と主張の陳述とがゴタ混ぜになっているものは一流ではない.事実から価値判断を導こうとしているもの(「自然主義的誤謬」という)は一流ではない.

㈽−4 文献の読み方

㈰素読

文献・資料にざっと目を通すのが,この読み方の目的である.したがって,細部にとらわれずに,著者の問題意識・結論・主張,全体の大まかな流れがつかめればよい.

㈪精読

基本文献・重要参考文献を十分時間をかけて,細大もらさずフォローすることが,精読の目的である.

㈫乱読

問題関心のある領域ほど読みやすいが,社会科学・自然科学・人文科学のあらゆる領域にわたった幅広い知識は将来において必ず諸君の役に立つ.直接仕事に役立つかもしれないし,生活に潤いをもたらしてくれるかもしれない.とにかく,学生時代には「乱読」を勧めたい.

㈬積ん読

「役に立つかもしれない」とか,「面白そうだ」と思ったら,とりあえず購入して自分の手元においておこう,というのが「積ん読」である.専門書などでは絶版になることも多いので,「積ん読」は有効である.しかしこの方法には金がかかるので,懐具合と相談しながらやってほしい.

㈽−5 素読段階のメモのとり方・要約の作り方

㈰下作業

a.線引きする

重要性の程度に応じて,黒線・赤線・青線・蛍光ペン(数色)など色分けしておけば後々利用するのに使いやすいが,余り神経質になるとかえってマイナスである.簡単な要約を作ることがここでの目標だから,時間の節約をモットーにしたい.

b.余白を利用する

コピーにしろ本にしろ余白がかなりあるので,重要語句・著者の主張・自分の感想などを書き込んでおくとよい.

㈪序論と結論に注目する

「はじめに」,「序論」,Introductionには,著者がその論文・著書・章を書いた意図や問題意識が示されている.著者が解きたいと思った問題の所在や解き方の特徴,他の文献との関連などがわかるので,要約の際のポイントになる.

「おわりに」,「結論」,Concluding Remarksには,その論文・著書・章で得られた結論のまとめ,著者自身の評価,自分の理論の一般化可能性,残された問題などが書かれている.要約だけでなく,どのようなテーマがおもしろそうか,どんなテーマがあるかを知るのに役立つ.

㈫簡潔をモットーに

素読段階で引いた線や書き込んだメモを読み返しながら,自分なりにストーリーを作る.

要約はルーズリーフ半ページないし1ページ,あるいはカード1,2枚程度にまとめる.長すぎると後で読みにくいし,短すぎると役に立たない.

㈽−6 精読段階のメモのとり方・要約の作り方

論文でも,1冊の本でも基本は変わらない.短い論文であれば全体を見失うことは余りないが,論文集とは違う1冊の(数冊にわたる)完結した書物の場合,「森を見ずして木を見る」という弊害に陥りやすい.森全体と個々の木を同時に見る目を養っておかなければならない.
この訓練は,自分が卒業論文を書く段階で役立つことを記憶にとどめておいてほしい.研究の流れと論文の流れは,一般には一致しないのである.

㈰論文全体の構成・流れをつかむ

一般に次のような形式(オーソドックスな方法)で書かれている.卒業論文を書く際にも,この形式に従ってもらいたい.オーソドックスな方法で書かれていないものもあるので要注意.

a.序論(Introduction)

問題意識:著者がその論文・著書で解こうとしている問題を提示している.
全体構成:どのような順序で論理を展開するかを示す.
結論の意義:得られた結論の重要性を解説する.
これまでの成果・帰結:自分の結論・理論とこれまでの理論・成果との違いを明確にするために,これまでの成果などをサーベイ(展望)する.

b.本論:第1章

第1節1.1(第1項)1.2(第2項)・・・
第2節1.1(第1項)1.2(第2項)・・・
・・・

第2章
第1節1.1(第1項)1.2(第2項)・・・
第2節1.1(第1項)1.2(第2項)・・・
・・・

分析方法(理論モデル)の提示
数理(数学的)モデル
計量モデル
言語モデル
前提条件・仮定の提示とその説明
  ↓
論理展開(使われているモデルによって異なる)
調査・検証・証明
  ↓↑
反例・命題・主張

c.結論(Concluding Remarks)

研究成果のまとめが与えられている.
既存の研究との比較がなされている.
我田引水的なところがあるので要注意.
序論で詳しい比較が行われている場合には省略される.
論文の限界と残された問題についての著者なりの考えが示されている.
客観的な立場に立って,論文の限界を指摘したり,その論文で取り上げることのできなかった重要な問題の提示がある.

㈪著者の研究の流れをつかむ

論文の展開は著者の得た結論がいかに正しいかを述べるのに最適と思われる技法を用いてなされるのに対し,著者がその論文を書くに至った研究の流れは,通説への批判や自分の得た直観,社会的通念への反発などに端を発している.そして,それらを検証・論証・証明するために,現地調査・資料収集・文献解読・分析技法の開発などを行って,一定の結論に到達するというプロセスをたどることになる.このような研究の流れをつかむことは,論文の理解と同時に,論文の作成やテーマの設定など,諸君自ら卒業論文を書く際にきわめて重要な参考となる.また,著者の直観がどの程度正しかったかによって,論文の表現形式は大幅に変わってくる.この点も,諸君自ら経験することとなろう.

㈫結論が正しいかを検討する

結論の正しさが十分検証・証明されているか,十分な論拠が提出されているかを検討する.
a.証明が正確か.
b.適格な資料・データか.
c.論理展開に飛躍はないか.

㈬残された課題は何か

a.どこまで明らかにされたか.
通説の誤りは修正されたか.
通説に新たに加えられた知識・事実は何か.
b.その結論が導かれる際に必要となった前提条件・仮定は何か.またそれらは正当であるか.
c.それらの前提条件・仮定の下でさらに追加的に主張できることはないか.
d.前提条件・仮定の修正は可能か.もっと弱い前提条件・仮定の下で同じ結論を得ることはできないか.
e.直観的に不満の残るところはどこか.

最も重要なものは,e,aである.特にeは大切にしなければならない.

㈭研究の流れ・論文の流れを踏まえて要約を作成する

a.著者の動機・問題意識
b.導かれた結論・主張
c.結論を導くために用いた手法・技法
d.各章・各節の暫定的結論
e.論文・本全体の結論
f.各章・各節の相互連関
  →全体の連関を示すフローチャートの作成

㈮まとめ


     論文の流れ ←────────────→ 研究の流れ
                 ←─────┐  ┌────────┐
      序論:問題意識,全体構成     │  │既存の理論・結論│
         結論の意義         │  │  ↓↑    │ 現実(事例)
         これまでの成果・帰結    │  │著者の疑問・反発│   
                       │  └────────┘
      本論:分析方法(理論モデル)   │     ↓
          数理(数学的)モデル   │   反証例の探索
          計量モデル        │     ↓
          言語モデル        │   調査・検証・証明
         前提条件・仮定       │     ↓
           ↓           │   反例・命題・主張
         論理展開          │     ↓
          調査・検証・証明     │   ┌─────┐
           ↓↑          └───│論文の作成│
          反例・命題・主張         └─────┘
                            自己の主張の正しさを表現する
      結論:研究成果のまとめ           最適な論文の構成
         既存の研究との比較
         論文の限界と残された問題


㈽−7 カードについて

一般にメモや要約にはルーズリーフやカードを用いるが,その理由はともに追加や並べ替えが容易であるという点にある.しかし自分の集めた情報を整理する手段としては,使い分けが必要であろう.ここでは将来のことも考えて,いくつかの注意を与えておきたい.

㈰ルーズリーフとカードの違い

a.ルーズリーフは薄く,カードは厚い.
b.ルーズリーフは大型,カードは小型.
c.ルーズリーフは大量の情報を整理するのに向いているが,カードは少量の情報を整理するのに向いている.
d.ルーズリーフは証明や論証などのまとめに,カードは見出し・文献目録や簡単な要約・語句の整理などに向いている.
e.ルーズリーフは安価,カードは高価.
f.ルーズリーフは広げて見るのに適していないが,カードは適している.したがって,卒業論文の全体の構成を考える際には,カードは極めて有効といえる.

㈪カードの種類

a.マルゼン・カード(A6)
b.京大型カード(B6)
c.文献カード(図書館用)
d.ワープロ・パソコンのデータ・ベース
機種によってさまざまの大きさがある.ワープロを購入する際にはこの点にも注意してほしい.

㈫カード作成上の注意

a.使いやすいカードを作る
将来にわたって使えるデータ・ベースの作り方を修得するのも卒業論文を作成する際の重要な課題の1つである.失敗を繰り返しながら,自分なりの使いやすいカード利用法を見つけてほしい.
b.ケチケチするな
カードは高価だからなるべく有効に使いたいという気持ちになる.ところがそれがかえってデータ・ベースとして使いものにならないカードを作ってしまう原因となる.まずケチケチしない癖を身につけよう.
c.箇条書きにする
後から読み返すとき便利なように,要約については箇条書きにしておく.ただし,引用する可能性の高いものは正確に書き写しておく.
d.出所を書く
引用・参考に使うことを考えれば,出所を明記しておくことが必要である.著者名・表題・出版年・雑誌名・ページなどを示しておく.これらをカードのどの場所に書くかはあらかじめ決めておく.
e.片面だけ使う
カードは片面だけを使い,裏は後からのメモの書き込み用にとっておく.カードを使う最大の理由の1つは,並べ替え・挿入・削除が容易にできることである.裏を使うと読みにくいし,並べ替えなどが難しくなる.
f.追加は色を変える
カードに文を追加する場合には,必要に応じて色を変えて区別しておく.
g.重要性の順位をつける
カードの右上など目立つところに,重要性の順位を示す記号(A,B,C…など)をつけておく.
h.アンダーラインを引く
特に重要な箇所を示すために,アンダーラインなどを引いておくと,後で読み返すのに便利である.
i.小見出しをつける
該当・関連するテーマを小見出しで示しておく.当該文献が複数のテーマに関連する場合は,複数個の見出しを書き出しておく.

㈬ワープロ・パソコンの利用

将来の仕事のことまで考え合わせると,ワープロ・パソコンに付属のデータ・ベース機能を最大限に使えるよう,この段階で努力しておいた方がよい.


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