外国で作品を 見せるということ
ー The East Meets the West展に寄せて ー


草原真知子(メディアアート・キュレーター)

(by Machiko Kusahara, at AXIS Gallery, Roppongi, Tokyo, July 2001)


 AXIS Galleryの企画による2001年7月のこの展示及びシンポジウムは、Milia New Talent Pavilion, Ars Electronica, IMAGINAなど、海外の公募展で活躍した日本の若手ディジタルアーティストらの作品を展示し、またシンポジウムを通じて、異なる文化圏で自分の作品を紹介し、交流することで何が得たかを共に考えようというものである。これらの海外公募展の発足や審査に長年関わってきた立場から、展示企画のアドバイスとシンポジウムの司会をつとめた。

The East Meets the West, the exhibition and symposium organized by AXIS Gallery in July 2001, was meant for young artists and students involved in digital art. Japanese young artists whose works have been selected at major international competitions in the field were invited to exhibit their works and to speak. They discussed about their own experiences in Europe and in US, as they communicated with people through their works.


 作品をつくるという行為と,それを見る,あるいは体験するという行為.それはつくる側と見る側の,作品を通じたコミュニケーションにほかならない ー その2つの間に時間や空間の隔たりがあっても.そこでコミュニケートされるのは,作品に表現されたものだけでなく,その背後にある双方の世界観や価値観,つまり文化である.

 作品をつくるということは,自分の持つイマジネーションやコンセプトを,そこに介在する文化のフィルターと,その作品をどこかで見るであろう相手のもつ文化のフィルターの両方を意識においた上で,客体化していく行為ではないだろうか.すなわち,アーティストとは決してイマジネーションの孤独な表現者ではなく,実はコミュニケーションのデザイナーにほかならない,と私は考える.
 言い換えれば、アーティストの持つ価値観や世界観が自分の属する社会の規範的な文化の枠組みに収まらず,そこから突き抜けた個性ときわめてユニバーサルな意識の両方があってこそ,その表現やテーマはアートとして意味をもち,何かを伝えられるようになる.

 そうしたことが見えてくる ー 自分が何を表現しているのか,何を伝えられるのかはっきりわかってくるのは,それまで自分が固定されていた文化圏から一歩踏み出したときだ.異なる文化圏の中で自分を表現し,それがどのように跳ね返ってくるかを知ることでアーティストは鍛えられ,ステップアップする.それまで気づかなかった自分の個性が見えてくる.
 多様な文化圏が隣接し,また人々が混じり合うヨーロッパでは普通にみられるそんな状況を,日本で経験することは難しい.

 作品を「海外で」見せること,評価されることがポイントなのではない.さまざまな文化と触れあい,それらを通じて自分自身のもっているものを見つめ直すことで,より豊かな表現,伝えたいコンセプトが生まれてくる.
 若いクリエーターたちにとってそうした機会がもっと普通になることを心から願っている.

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