限りなくブルーに近い透明
 
加藤美広
  米軍横田基地のある東京都福生市は、若者の性と麻薬の日々を描いた村上龍の小説「限りなく透明に近いブルーから」の舞台として知られている。あの小説が大ヒットした70年代、福生に夢を求め、集った若者たちがいた。『限りなくブルーに近い透明』は、そのまま福生に住みつき、年に一度のロックフェスティバルを生きがいにする中年たちに迫った
ドキュメンタリーである。2年生で、破天荒なミュージシャンのドキュメンタリー作品、『淫獣魔王』を制作した加藤君だが、今回は、取材対象者になかなか共感できず、「これまで制作した作品の中で、最も難産だった」と述懐する。 「『観客を退屈させない』という点を最優先にしました。バラエティ番組的編集を持たせつつ、かつてのヒッピーたちの時代、70年代のロックドキュメンタリーの音楽を間に挟みつつ、様々な人々が回想したり、意見を述べる構成にしました。(中略)私にとっては、ドキュメンタリー映画もミュージックビデオも同じようにエンターテーメントとして楽しめるべきと思っています」
定時制球児~定時制野球部のひと夏
 
稲元雅俊
大宮工業高校定時制野球部のひと夏を追った作品。夏の甲子園で全国高校野球大会が開催されると同じ時期に、「もうひとつの甲子園」と呼ばれる定時制・通信制高校の全国大会が神宮球場で繰り広げられている。小学校から高校まで10年間、野球に専念した稲元君は、「スポーツの楽しさや仲間の大切さなど、感動するスポーツ番組を制作したい」
との思いから、一般に知られていない定時制高校野球を取り上げた。上映会に駆けつけた顧問の安藤和弘先生は、野球は素人だが、熱意でチームを率い、神宮球場で優勝させた経験がある。『定時制球児』は安藤先生の人柄が伝わる作品になった。 「みなさん、本当に優しく、部外者の自分を仲間のように接してくれた」
感砂感劇~地方にこそ演劇の拠点を  
 
生田一志
  東京を中心にした演劇の世界は、大きく分けて二つ。タレントを使って商業的な形でやっていくか、あるいは、好事家向けの上演をするかだ。鳥取にある「鳥の劇場」の主宰者で、演出家でもある中島諒人氏は、第三の道を選択し、郷里で廃校となった小学校を演劇活動の拠点にしている。中島氏と同窓の生田君は、「劇団とはどのようなものか」
「鳥の劇場の本質は何か」「鳥の劇場が地域で活動する意味」を『感砂感劇』の軸に据えた。「撮影は大変だった。正直、人の手が借りられる場所やひとりでも撮影可能な題材を選べば良かった」と述懐するが、加藤君同様、取材、撮影、編集すべてを孤軍奮闘でやり遂げた。 「鳥の劇場も芸術、特に演出の専門家であり、最初は私の技量を試されている感じがした。一学生が自分の土俵で唐突に取材させてくれなんて無茶な話だったはずだ。取材中、調べごとは勿論、言葉選び、とくに相手との距離を大事にすることを心がけた」
村へ還ろう~田舎にみる心の触れ合い
 
渡辺雄介
  作の発端は、昨年1月の上田清司埼玉県知事インタビューだった。「埼玉県秩父郡小鹿野町には、江戸時代から伝わる小鹿野歌舞伎がある」。上田知事の一言に「和モノ」好きな渡辺君、すぐに反応した。『村へ還ろう』は、小鹿野歌舞伎の取材を通じて、そこに住む人々との触れ合いを渡辺君の目を通して描いた一人称ドキュメンタリーである。
制作を通じて得たものは「人と人の繋がり」と渡辺君は言う。いきなり訪れた取材者を家に招き入れ、泊めた村人に、「なぜ、そんなに優しくしてくれるのか」と尋ねると、「ここは、みんなが知り合いだから、君一人増えても嬉しい」との心温まる返答だった。
久慈の琥珀染め~花夢衣の夢
 
大原麗子
  母方の実家が岩手にある大原さん。岩手ネタを探し、久慈の琥珀染めに出会った。久慈市にある「花夢衣(かむい)」は特産物である琥珀を使った染め物を販売する、日本で唯一の染物店だ。『久慈の琥珀染め』は、「花夢衣」の店主、川向辰巳さんが、京都府大原野の京友禅伝統工芸士、椎名淳夫さんの協力を得て、「琥珀染め」を誕生させるまで
の秘話である。東北から京都までの長距離取材を敢行。途中、椎名さんが入院し、追加取材を残念するハブニングもあった。
ドリームボール~電動車椅子サッカー世界への挑戦
 
新井上
  制世界初の電動車椅子サッカー世界大会、「FIPFAワールドカップ2007」が昨年10月、東京で開催された。立役者の一人である高橋弘さんは、電動車椅子サッカー協会常務理事であり、コーチ兼選手である。『ドリームボール』は、高橋弘さん(35)を中心に、2006年12月から2007年10月の世界大会までの一年間を取材したドキュメンタリーである。
「障害を抱えながら、頑張っている。すごいなあという感動したという心温まるものは作りたくなかった。(中略)狙いとしては、見終わった後に、彼らが思い障害であることを忘れてしまうようなものを作ろうと思った。(中略)障害者としてではなく、純粋に高橋さんがワールドカップに挑戦する姿に感動してもらえれば成功であると言える。だから、あえて、本当はあまり、介護されているシーンや障害者ゆえの苦労などはクローズアップしたくなかった」
横山式
 

蕭佳華 山塚遼 高橋慶 久野茜 等々力敦

 

舞台演出家の横山仁一は劇団「東京オレンジ」を主宰し、演劇教育の普及にも取り組んでいる。「横山式」とは、横山が早稲田大学時代から何十年もかけ、開発してきたユニークな演劇トレーニング手法のことである。この手法の実践を通じて、彼の演劇への熱い情熱と夢を伝える。

愛は国境を越え
 
渡邊洋子 瀧川歩夢 上田佳佑 高橋秀明
 

千葉県いすみ市大原町に在住の森川さん夫婦。奥さんは韓国人である。日本に嫁ぐ事を決め、国の家族の反対を押し切り、千葉県の田舎へと移り住む。日本語が話せず、友達を作る手段として、キムチを作り始め、そのキムチが噂となりモリカワ食品(キムチ工場)を設立。数十年たった今も、自ら仕事場に立ち、キムチの味を守り続ける。この作品では、国籍、年代を問わず、様々な人に彼女の見てもらい、人間のあらゆる可能性に気付いて欲しい。

輝ける場所
 
渡邉由紘 小野春奈 棚橋由紀恵 古橋睦之
  神奈川県の北西部、相模原市の藤野町にて、「芸術の町―藤野」をキャッチフレーズに、住民と在住アーティストが一体となって自然と芸術が調和した町づくりが行われている。藤野町に在住の嶋田力さんが藤野町にある廃校をアートスタジオ「牧郷」としてリニューアルして2004年から毎年夏に「ひかり祭り」を開催している。映像、照明、ライトアップ、ダンス、パフォーマンスなどの多彩な芸術表現の場を設けることによって、地域を活性化している。
夢主任
 
小嶋慶也 内藤ミカ 谷口諒馬 加藤稿子
 

東京都在住、落語家の林家うん平さん(48歳)は自らの夢を追いながら、落語を通して人々に夢や愛の大切さを伝えている。子供の頃から人を笑わせたり、目立つのが大好きで、小学校のとき落語の持つ人間愛に出惹かれ、将来の夢に定めた。以後は落語を愛し、両親の反対や下積みの苦労に耐えながら、家族の愛に支えられ、無我夢中に精進してきた。現在は寄席だけに留まらず、イベントの司会など様々な分野で活躍している。

このドキュメンタリーでは、ひたむきに夢を愛する林家うん平氏が4年振りの寄席トリに至るまでの生き様を追った。

即興人生
 
近松温子 東海林その子 王翊 橋本竜也
 

東京都調布市に住む吉村竜児さん(37)は、インプロビゼーションという台本のないお芝居のプレーヤーでありトレーナーである。また、カウンセラーであり、双子の父親でもある。彼は中学卒業すぐに渡米し演劇について習った。11年間のアメリカ生活後帰国し、俳優を夢見て奈良橋陽子が率いるアップスアカデミーに第一期生として入所した。そこでインプロと出会い、本来俳優のトレーニングのために開発されたインプロをコミュニケーションの手段として利用していくようになる。現在は、千駄木にあるスタジオで、サラリーマンや役者さんにインプロを教えている。

オンサイト
 
有泉尚 林筱穎 松澤誠 若松美寿喜
 

二年前からフリークライミングの練習を始めた尾上彩(11)は、2007年のJFA(Japan Free Association)日本選手権に最年少で優勝した。将来、国際大会に出場する夢を抱く彩の生き方から、私たち自身が幼い頃に見た夢を再び思い出してほしい。

     
     
 
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