朝顔につるべ取られて貰ひ水 千代女
加賀千代女(元禄時代、加賀国松任の出)の有名な句である。今どき、井戸さえもあまり見かけず、ましてやつるべを備えた井戸など全くないが、M氏が子供の頃はまだ水道もなく、自宅の用水は庭の隅に掘られた井戸からであった。勿論、つるべではなく手漕ぎポンプであった(手押しポンプとも言う。たしかに、弁を上下させるためにハンドルを押すように漕ぐのでこの命名も分からないわけではないが、ハンドルは押し上げたり押し下げたりして「漕ぐ」ので、手漕ぎと言う方が合っているとM氏は思う)。現在のように、利用する側も水質などをあまり気にすることはなかったし、保健所がうるさく衛生指導するということもなかったが、水質に特に問題はなかった。実際、M氏の生家では今でもその井戸を、水道とは別に、屋外での散水や手洗い、飲み水にまで使っている。水道水は、冬は手が凍りつくかと思うほど冷たいし、夏は生暖かいのでそのまま飲もうとは思わないが、井戸水は一年中ほぼ一定の温度(15度くらいか?)であるため、夏には西瓜を冷やすのにも使ったものである。
さて、そんな井戸のつるべに一晩のうちに(さすがに、一晩では無理であろうが)絡みつくほどに蔓が成長する朝顔である。これは、やらずばなるまい! そう、M 氏は一時期、自宅の庭の地面からベランダまでビニール縄を何本か張って朝顔の簾(すだれ)を作ったことがある。蔓の成長が特別すばらしい品種を使ったわけではないが、3メートルくらいは伸びてくれてそれなりの「朝顔のすだれ」が出来たが、ベランダに布団を干すときに邪魔になると怒られてしまった(誰にかって? それはご想像の通り)。しかしその後、狭い狭い庭にもかかわら・ク、バラ(特にツルバラ)を増やした M氏は、バラの日照のためにと、いつしか朝顔作りをやめてしまった。
すだれ作りのために特別な品種を使ったわけではないが、蔓の成長は別としても、朝顔には色や花形に関しては実に多様な品種がある。M氏はその当時、できるだけ珍しい品種を栽培してみようと思ったが、満足するほどにはうまく行かなかった。朝顔の品種改良は江戸時代から盛んだったようで、江戸時代には二度のブームがあったとのことである。そういえば、珍しい朝顔を集めて(スケッチして)解説した本が当時出版されていた(私家本か?)ということをどこかで読んだ記憶があるが、珍奇な品種は愛好家たちが門外不出としたので、入谷の朝顔市のような市が立つようになったのは明治になってからであるらしい。今日では、そういう市などや園芸店で既に花が咲き始めている鉢植えが販売されており、種から育てる人は少ない。
朝顔や昼は錠おろす門の垣 松尾芭蕉万葉の時代には、朝に咲くきれいな花全般を「朝顔(あさがほ)」と呼んだ(桔梗、ムクゲ、昼顔とする説もある)らしい。次の有名な歌は秋の七草を詠んだもの:
萩の花 尾花 葛花(くずばな) なでしこの花 をみなへし また藤袴(はかま) 朝顔の花 山上憶良
これほど日本では好んで栽培されている朝顔であるが、ドイツでは見かけたことがない。
M氏がよく滞在するドイツ中央部の町カッセル(Kassel)では、日本的な花、例えば、アジサイ、萩、シャクヤク、山桜、藤などを結構見かけたが、朝顔は園芸店の店先にも置いてなかった。
ところで、朝顔以外に、昼顔、夕顔があることはご存じであろう。
知らなかったが、夜顔もあるらしい。
朝顔はヒルガオ科の蔓性一年草(花は朝開いて昼には萎む)、昼顔はヒルガオ科の蔓性多年草(日中に開花)、夕顔はウリ科の蔓性一年草(夕方に開花して翌朝まで)、
夜顔はヒルガオ科の多年草(夜間に開花)。
実際、昼顔は M氏の近所の JR 横浜線の線路脇にも雑草に混じって毎年咲いている丈夫な植物である(群落になることはないが、かと言って絶えることもなく毎年咲く)。
花色は、ピンク以外のものを見たことがない。夕顔は源氏物語の巻名にもなっているが、干瓢の材料としても良く知られている。夕顔は、さすがに瓢箪の仲間だけあって、
名前や花こそ似通え、朝顔の「種」とはまったく異なる巨大な「実」をつけるのも頷ける。
さらに、朝鮮朝顔という、朝顔の仲間と間違えそうなものもある。北アメリカ原産の帰化種で、有毒。
しかし、ツル性ではないし、朝顔とは似て非なるものである(ナス科。朝顔はヒルガオ科。)
自然界には螺旋状の構造(形態、外形)を持つもの、あるいは螺旋状に動的に変化するものや成長するものが多くあるということで、螺旋 の項でいろいろ調べた。特に、朝顔をはじめとするつる植物の蔓の伸び方は螺旋を描くということで、実際に描いてみた。
ここでは、これを出発点として、朝顔の蔓、葉の付いた蔓、ひげ、蕾、花の付いた1株の朝顔を順次描いてみたい。いずれも螺旋をいろんな形で用いている。
x = a cosθ y = b sinθ (*) z = θを使う。θ の値を 0 から少しずつ増やしながら描けば左巻きになり、少しずつ減らしながら描けば右巻きになる。
(*)は3次元空間内の曲線であるが、それを描くキャンバスは2次元の平面であるから、(*)を2次元空間に投影しなければならない。通常の右手系(下図1-1)の直交座標で表された(*)を xy-平面へ投影( (x, y, z) の (x, y) 成分だけ射影)したものは(*)を上から眺めたものであり、単なる円にしか見えない(これ)。そのため、(*)を x 軸および y 軸の周りに傾けてそれを xz-平面へ投影すれば螺旋であることが見える。
_xyz (_xyz p; によって、(p.x, p.y, p.z) は 点 (x, y, z) を表す)を用意するとともに、graphics.class に「3次元の一般的回転を扱うメソッド」
_xyz Rotate(_xyz a, char b, double c) a : 回転前の点の座標, b : 回転させる座標軸(b = 'x' or 'y' or 'z'), c : 回転角度 戻り値: 回転後の点の座標を追加したので、今後はこれらを活用する。
葉脈が重ならないようにするためと、葉脈の数が多すぎると固い感じがするので、葉脈は3本だけ、しかも白色系で描くことにした。また、葉柄を、直線ではなく4分の1円を使って付けることにした(これも、柔らかみを出すため)。
まあまあ、朝顔の花らしく見える。上記の花1のソースコードでは
星茫形(アステロイド) x3/2 + y3/2 = a3/2 (x = cos3θ, y = sin3θ)と書いているが、ソースコードを見てみれば分かるように、実は単純な3次関数 y = ax3 を使っている。
hana3c を用いて描いたのが これ である。