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研究室案内

発達心理学研究室案内

 当発達心理学研究室に所属している院生が日ごろどのような研究活動を やっているのか、あるいは、年中行事としてどのような催しをやっているのかを、 認知発達の研究者を目指す学部学生、大学院生、社会人の皆さんに紹介したいと 思います。「発達心理学研究室ゼミ」の項目は教員の中垣が書きましたが、 他の項目は博士後期課程院生及びOGの皆さんに執筆をお願いしました。皆さんが この研究室の一員となった場合に、どのような院生生活を送ることになるか、 おおよそのイメージをつかめるかと思いますので、参考にしていただければ幸いです。
発達心理学研究室のゼミ
 この研究室のゼミの様子を紹介します。発達心理学演習の2コマが研究室ゼミの時間です。大抵は木曜日3,4限に、修士課程院生だけではなく後期博士課程院生も参加してやっています。この方が老いも若きもといいますか、20歳代、30歳代、40歳代、50歳代(教員も入れれば、60歳代も!)の人がいて、同じ問題について議論していても、世代の違いによるものの見方・考え方の違いがよく現れて、議論の幅が広がります。

ゼミは基本的には二本立てでやっています。1コマ(時間的に90分とは限りませんが)は、院生が各自やっている研究を発表する時間です。研究発表といっても、まだ入学したばかりの院生から何度も学会発表をしている院生までいるわけですから、研究構想でも実験計画でも調査の中間発表でも研究結果の報告でもかまわないことにしています。また、院生自身が発達心理学とか教育心理学会などの学会投稿論文や早稲田大学大学院教育学研究科紀要別冊論文を執筆中の場合、あるいは、学会ポスター発表用のパワーポイントファイルを作成した場合、それを叩き台にして議論することもあります。

この研究室の研究調査の進め方として、一人の院生の研究調査を他の院生も可能な限り手伝うというシステムでやっているので、院生各自は他のゼミ生がやっている研究テーマを知っているというだけではなく、その調査内容まで通じていることが多く、おかげでゼミにおける院生の研究発表でも、教員とゼミ生との意見交換だけに終わってしまうということがなく、院生同士の議論も活発に行なわれています。

もう1コマは発達心理学関連の文献講読に当てています。文献講読といっても毎日のように新しい研究論文が学術雑誌に発表されているわけですから、そういう個々の雑誌論文をゼミで追っても仕方がありません(アップデートな雑誌論文の読み込みは、調査課題を設定したり紀要投稿用にレヴュー論文を書かせるとき、各院生の研究テーマに近いものについて集中的にやらせています)。ゼミの文献講読では、ある研究領域を代表する研究者が執筆した、その領域の到達水準を示すような論文、あるいは、その領域の最新のレヴュー論文を取り上げます。最初の頃、次の2巻に所収の論文を多く取り上げましたが、次第に3番目のゴズワミ編のハンドブックからのものが多くなりました。
  • William Damon ed. (1997). Handbook of Child Psychology, Volume 1: Theoretical Models of Human Development, 5th Ed., John Wiley & Sons
  • William Damon, Kuhn Deanna and Robert Siegler eds. (1997). Handbook of Child Psychology, Volume 2: Cognition, Perception, and Language, 5th Ed., John Wiley & Sons
  • Usha Goswami ed. (2002). Blackwell Handbook of Childhood Cognitive Development. Blackwell
しかし、2006年にHandbook of Child Psychologyの第6版が出たので、最近はもっぱら以下の2巻所収の論文を取り上げることが多くなっています。
  • William Damon and Richard Lerner eds.(2006).Handbook of Child Psychology,  Volume 1: Theoretical Models of Human Development, 6th Ed., John Wiley & Sons
  • William Damon, Richard Lerner and Deanna Kuhn, Robert Siegler eds. (2006). Handbook of Child Psychology, Volume 2: Cognition, Perception, and Language, 6th Ed., John Wiley & Sons
また、教員の私が認知発達心理学会発達理論分科会幹事代表をやっている関係で、分科会で取り上げられた文献の講読をすることもあります。文献の選択については、ゼミ生各自がある程度決められた範囲の中から自分の研究領域に近いと思われる論文を選ぶことを基本にしていますが、こちらからそのゼミ生に相応しいと思われる論文を指定することもあります。いずれにせよ、講読によってレポーターだけのメリットになるというような文献ではなく、ゼミ生全員がそれぞれの研究関心から興味を持てる文献、発達研究者の素養として必要な文献を取り上げるように努めています。また、取り上げる文献はすべて英語で書かれた論文です。望ましいとは思いませんが、心理学という学問は圧倒的に英米の心理学の影響下にあり、発達心理学も例外ではないからです。英米における発達心理学の最近の研究動向を押さえることなく、ゼミ生が将来発達心理学界の最先端をいく研究者となることはありえないのです。そのため、ゼミ生には英文読解の素養が当然のこととして要求されます。とはいえ、この点については楽観しています。入学当初は一本の英語論文を読むにも抵抗感を示したゼミ生が2,3年もすると多くの英語文献をまとめてレヴューすることをやってのけるということを現実に見てきているからです。

ゼミは原則的には教員研究室を使っています。上に掲載した4枚のゼミの写真はいずれも研究室でのゼミの様子で、色々な角度からの写真がありますから研究室の中の様子も想像できるかと思います。参加人数が多かったり、黒板を使う必要があったりして研究室では間に合わないときには、児童面談室でゼミを行なうこともあります。下に掲載した5枚の写真は児童面談室でのゼミの様子です。誰が撮影したのか知りませんが、ゼミ生の皆さんの発言ぶりが聞こえてくるようです。最後の1枚は早稲田キャンパス近くの甘泉園でゼミをやったときの写真です。こんなところでゼミをやっていいのでしょうか。なんだかハイキングに出かけているみたいですね。







調査研究
研究活動を理論的研究と実証的研究とに分けるとすれば、研究室ゼミが理論的研究の中心的役割を担うのに対し、実証的研究の中核を担うのが学校や保育園で行なう実証的調査です。ここでは,私たちの研究室で行っている調査研究を個別調査、集団調査、児童面談室調査についてご紹介します。 当研究室院生の修士論文、学会誌投稿論文、学会ポスター発表研究などは、こうした調査から生まれてきます。

なお、当研究室の研究調査は、以下の学校、保育園にご協力をいただいております。記して御礼申しあげます。
  • 東京都 新宿区立 西早稲田中学校
  • 東京都 新宿区立 鶴巻小学校・同幼稚園
  • 東京都 新宿区立 戸塚第一小学校・同幼稚園
  • 東京都 新宿区立 早稲田小学校・同幼稚園
  • 東京都 新宿区立 西早稲田保育園
  • ポピンズナーサリー早稲田
  • 早稲田大学
調査研究T:小学校、幼稚園、保育園での個別調査
伊藤朋子

 個別調査とは,原則として調査者1名,調査対象者1名(主に子ども)の面接形式で実施する調査のことです。 調査対象者の目の前に具体的な材料(例えば人形、おはじき、積み木など)を提示しながら、調査者は課題に 関する色々な質問をしたり、子ども自身に材料を操作したりしてもらいます。 本研究室は発達心理学の研究室なので,発達的研究が欠かせません。しかし,ここ最近は,院生が個人的に小学校や幼稚園,保育所などを訪問して個別調査を行うことは,非常に難しくなっているようです。そのため私たちの研究室では,研究室単位で,上記の小学校,幼稚園,保育所に調査の依頼をし,調査を実施させていただいております。私たちの研究は,こうした小学校や幼稚園,保育所に支えられて成り立っております。

個別調査の長所は,子どもの生きた回答を得られるだけではなく、その場で子どもの考え方を追求できる点,つまり,子どもの回答に応じて臨機応変に質問の内容や質問の仕方を変えられる点にあります。しかし,その分,事前準備にも十分な時間を割く必要があります。

個別調査は概ね,先行研究の分析 → 課題の作成・検討 → 調査で用いる材料・機材の準備 → 予備調査 → 「調査団」の事前打ち合わせ・訓練調査 → 本調査 → データの分析・考察 → 研究成果の発表 → 調査協力者への結果報告,のような流れで行っています。

本調査を実施する前には,まずは「予備調査」を行います。これは,早稲田キャンパス14号館7階にある児童面談室に子どもを招いて,作成した課題を子ども相手に実際に出題してみる調査のことです。子どもに課題を出題してみることで,予想外の反応や興味深い反応に触れることができます。 こうした予備調査を私たちゼミ生は何度も,何度も繰り返しながら,課題内容や用いる言葉遣いなどを適切なものへと改良していきます。

予備調査終了後,課題が確定したら,次は,児童面談室に子どもを招いて「訓練調査」を行います。当研究室の個別調査は,研究室のゼミ生で構成された「調査団」体制で実施しています。調査団は,調査責任者と複数の調査者から構成されています。 訓練調査とは,これまで予備調査を行ってきた調査責任者だけでなく,他の調査者も,決められた流れにしたがって個別調査を行えるよう,訓練を行うための調査です。調査責任者は,調査中に読み上げる「せりふ」だけでなく,どこでどの材料を用いるのか,いつどのような反応があったときにどのような追求質問をするのか,といった点を詳細に指示した記録用紙を作成しておきます。これは,たとえ調査者が異なっても,均一な条件で調査が行われるようにするためです。

訓練調査終了後は,いよいよ「本調査」です。小学校,幼稚園,保育所の教室をお借りして25分程度の調査を行います。はじめに調査者自身が自己紹介をして,子どもの緊張を解き,「思った(考えた)ことを何でも教えてくださいね」と伝えてから,調査を開始します。当研究室の調査の関心は,「課題に正答できるか否か」という点ではなく,「どうしてそのように思った(考えた)のか」という思考過程を明らかにする点にあります。個別調査は,この点を明らかにするうえで非常に適した調査方法であると考えられます。判断理由を尋ねると,子どもは,自分の考えたことを一生懸命,調査者に説明してくれるからです。以前,調査実施後の子どもに調査の感想を聞いてみたことがありますが,「楽しかった」と答えてくれました。

本調査終了後は,子どもの回答などのデータ分析・考察を行い,学会発表や論文投稿などの形で研究成果をまとめます。さらに,調査にご協力いただいた先生方や保護者の皆様に,研究成果の報告会などを行うこともあります。調査を実施させていただいたことで,どのようなことが明らかになったのか,どのような意義があったのか,という点を報告します。

個別調査は,子どもたちの生の考え方に触れることができるという醍醐味のある調査です。調査責任者のゼミ生は大忙しですが,教科書でしか知らなかった子どもの反応を,実際に子どもの口から聞くことができるなど,調査を手伝う側にとっても新鮮で興味深い体験ができ,とても勉強になります。





調査研究U:大学、中学校での集団調査
伊藤朋子

ここでは,私たちの研究室で行っている集団調査についてご紹介します。集団調査とは,教室で問題冊子を配布して,授業時間内に一斉方式で実施する調査のことです。大学生の集団調査は早稲田大学の学生に,中学生の集団調査は主に西早稲田中学校にご協力をいただいて実施しています。

集団調査は概ね,先行研究の分析 → 調査用課題の作成・検討 → 課題の印刷・問題冊子作成(ホッチキス止め) → 他の調査者向けの資料(実施方法などの説明資料)作成 → 事前打ち合わせ → 調査の実施 → データの分析(考察) →研究成果の発表 → 調査協力校への結果報告,の流れで行っています。集団調査を実施する際には,事前に問題冊子を作成しておく必要があります。問題冊子とは,調査者の関心や研究目的に基づいて作成された複数の課題からなる冊子のことです。作成される課題は,これまでに行われてきた研究をふまえた上で,先行研究では未解決だった問題点が解決できるようなものでなければなりません。したがって,先行研究の分析や,課題の作成・検討には多くの時間が割かれます。

また,例えば中学校では,複数のクラスに対して一斉に調査を実施させていただいているため,調査者も複数必要となります。そのため個別調査と同様に,集団調査でも,当研究室のゼミ生で構成された「調査団」体制がとられています。この際に調査責任者は,他の調査者向けの資料(実施方法などの説明資料)も作成します。これは,たとえ調査者が異なっても,均一な条件で調査が行われるようにするためです。

当研究室が行う調査の関心は,「課題に正答できるか否か」にあるというより,「課題に対してどのような考え方をするのか」という思考過程を明らかにする点にあります。調査協力者の皆さんにとっては馴染みのない問題、学校で学習しない問題ですが,一生懸命課題に取り組んでくれます。

調査実施後は,データの分析(考察)を行います。当研究室は発達心理学の研究室なので,様々な年齢層(幼稚園児〜大学生)のデータを発達的に分析するケースが多くなります。データ分析(考察)から明らかになったことは,学会発表や論文投稿などの形で研究成果としてまとめます。さらに,調査にご協力いただいた中学校の先生方や生徒の皆さんに,結果の報告を行います。調査を実施させていただいたことで,どのようなことが明らかになったのか,どのような意義があったのか,という点を報告書としてまとめます。

集団調査は,短時間に多人数のデータが得られるというメリットがありますが、調査協力者の皆さんがどのような思考過程を経てある解答にたどり着いたのかという点を分析することが、個別調査と比較して難しくなります。それでも、判断の求め方を工夫することや判断に対する理由の記述を分析することによって、この欠陥を補うことができます。調査の準備や結果の分析はとても大変ですが,こうした作業を通じて,これまで解明されていなかった事柄が,少しずつ,少しずつ明らかになっていくことを確かめることは研究者冥利を自覚するときでもあります。

調査研究V:児童面談室予備調査・本調査
王 暁曦+教員 中垣啓
調査研究は小学校や幼稚園など学校に出かけて行なうだけではありません。園児、児童、学生など調査に協力してくださる方に大学の調査室に来ていただいて、調査を行なうことができます。この調査室は児童面談室と呼ばれ、早稲田キャンパス14号館7階713号室にあります。大人を対象とする心理学実験室では小さな子どもさんに来ていただくわけには行かないので、子どもが課題に集中して取り組めるように、子どもの大きさに合わせたテーブルや椅子を用意し、部屋全体も落ち着いた雰囲気になるように工夫してあります。また、子どもの安全を考えて、床は全面タイル張りとしているので、この部屋に入るときは上履きに履き替えることになります。

 ゼミ生が行なう児童面談室での調査は、本調査を実施する前の予備調査、訓練調査が中心となります。予備調査は学校や保育園で本調査を行なう前に、本調査で実施する課題の内容や実施の方法を検討するための調査です。机上で考えた調査課題をいきなり学校で実施してもほぼ確実に失敗します。本調査で可能な限り豊かな研究成果を挙げるためは、次のような点を検討しなければならないので、事前調査はとても大切です。
  1. 調査者が知りたいとおもっていることを子供から引き出す上で、課題内容が適切であるかどうか。
  2. 複数課題からできるだけ豊富なデータを得るため、相互に干渉を起こさないようにするにはそれらをどのように配列すればよいのか。
  3. 小さな子どもでも調査者の教示が理解できるようにするためにはどのような言葉遣いをすればいいのか、判りやすい課題提示を行なうため小道具としてどのような工夫をすればいいのか。
  4. できる限り正確で取りこぼしのない調査記録をとるためには、どのような記録用紙を作成すればよいのか。
  5. 本調査では時間との戦いになります。そのため、本調査で許された調査時間内に調査を終了できるように、複数課題のうちどの課題を実施し、どの課題を割愛するか。
机上で考えた課題を子どもに実際に出題してみることで,事前には思いもしなかった予想外の反応や興味深い反応に出会うことがしばしばあり、目がさめる思いがします。 こうした予備調査を何度も繰り返しながら,調査目的に相応しい課題内容へと、あるいは、子どもに分かりやすい課題教示へと、本調査で実施すべき課題内容、実施方法などを改良していきます。こういう次第ですから、予備調査は、調査研究におけるとても大事なステップとなると同時に、ゼミ生にとってはとても貴重な経験になります。

予備調査は,放課後の子どもに児童面談室に来ていただき実施します。小さなお子さんの場合は保護者同伴で来ていただき、年長の子どもの場合は保護者の希望に合わせて、子ども一人で来ることもあります。その場合は、ゼミ生の誰かがその子に付き添って自宅まで送り迎えをします。

子どもは調査用テーブルの一角に座り、調査者はその右隣に通常座りますが、子どもと対面で座ることもあります。子どもは調査者から提示された課題に取り組むことになりますが、その様子は記録用紙に記録するだけではなくビデオカメラにも記録します。 間仕切り板で仕切られた別室にあるパソコンモニタでビデオカメラの映像を見ることができるので、保護者の方は、調査に直接立ち会わないものの、子どもの様子が手に取るように分かるようになっています(上の写真では、手前のテーブルが調査用テーブルで、左角のピンクの椅子に子どもが座ります。保護者の方は間仕切り奥の椅子に座り、その前にあるパソコンモニタで調査の様子を見守ることになります。なお、写真では奥が見えるように間仕切り板が一枚欠けていますが、調査のときは閉じられていて、その位置にビデオカメラが立つことになります)。

予備調査によって課題内容や実施方法が確定したら,次は訓練調査になります。訓練調査というのは、研究責任者以外の調査協力者を訓練するための調査です。本調査を一人で行なうなら訓練調査は必要ありません。しかし、一人で本調査を行なうとなると、何十日も小学校や幼稚園に通わなければならないうえ、学校側にも長期にわたってご迷惑をかけることになります。そこで当研究室では,原則として、研究室のメンバー4、5人で構成された「調査チーム」を組み、チームとして本調査を実施しています。調査チームは,研究責任者(予備調査実施者)と複数の調査協力者から構成されています。訓練調査は研究責任者の指示の下で、本調査の調査者として協力できるスタッフを養成するために行なう調査です。これは,本調査においてたとえ調査者が異なっていても均一な条件で調査が行われることを保証するために必要な手続きとなります。

訓練調査では、調査協力者が研究責任者による調査課題の概要および記録用紙について説明を受けた後、まず調査責任者が実際に調査をしているときの様子を一部始終間近で観察します(左の写真では、手前が研究責任者でその背後で観察しているゼミ生が調査協力者です)。これによって、調査の全体の流れ、小道具の使い方、Wordingの要領、記録の仕方などを学習します。次に、調査協力者は研究責任者、あるいは、他の研究協力者を子どもに見立てて、模擬調査を行ないます(右の写真では、二人とも調査協力者のゼミ生で、調査者と調査対象者の役割を分担しながら、模擬調査を行なっているところです)。模擬調査では、記録用紙を見ながらワンステップずつ調査プロセスを辿り、訓練者の調査手続きの間違いや問題点があれば、その場で研究責任者から、あるいは、訓練済みの調査協力者から注意を受けます。また、模擬的に子どもとして振舞う調査協力者は、課題に対してあえて予想外の反応をしてみせたり、 記録しにくい反応をしたりして、「子どもがこう反応したとき、調査者はどう対応するか」を絶えず考えながら、模擬調査を行ないます。最後に、研究責任者が間近に見ているところで、調査協力者自身が実際の子どもを相手に調査を実施し、研究責任者から調査実施上の最終的な注意や要望を受けて、訓練調査は終了します。

ゼミ生が行なう児童面談室での調査は、本調査を実施する前の予備調査だけではありません。大学生を調査対象者とする個別調査も児童面談室で行なっています。大学生の調査対象者としては、早稲田大学教育学部教育学科教育心理学専修の学生に協力してもらっています。教育心理学専修学生は履修科目「教育心理学実験演習」でも児童面談室を利用する機会があるわけですから、学生にとっても児童面談室は訪れやすい場所といえるかもしれません(皆さんの中には、発達心理学研究室であるのになぜ大学生を相手にした調査を行なうのですかという疑問を持つ方がいるかもしれません。その疑問は、発達心理学は幼児や児童を相手に研究する学問だという思い込みがあるからです。幼児を研究する学問は幼児心理学、児童を研究する学問は児童心理学です。それに対し、発達心理学は特定の年齢層、あるいは、子どもを扱う学問ではなく、精神発達そのものを扱う学問です。つまり、精神構造の発達的変化をすべての年齢層を通して解明することを目的としていますので、調査課題次第で、当然大学生も調査対象者となるのです)。児童面談室は大学生を調査対象者とする個別調査ばかりでなく、子どもを対象とする個別調査(の本調査)にも使えます。実際、学校で行なった本調査の児童数が不足していた場合、不足分は児童面談室での本調査で補うということがあります。まだ実際にゼミ生が実行しているというわけではないのですが、児童面談室のみで本調査を行なうことも不可能ではありません。児童面談室での本調査は一日で可能な調査対象者が頑張っても2,3名に限られるため調査が長期間になるという欠陥がありますが、学校の制約を離れて調査ができるというメリットがあります。つまり、保護者の承諾があれば、調査を平日の夜に行なったり、土日曜日を利用したりすることもできます。折角の児童面談室ですから、ゼミ生の皆さんには大いに活用していただきたいと思っています。

学会研究発表、分科会報告
永盛善博

学会研究発表
調査・実験で発見したことは,他の研究者に公表していきます。その発見をもとに,自分も含めてみんなで,さらに新たなことを発見していく。このようにして,科学は発展してきました。発見を一人の中だけで留めてしまっていたら,科学はこんなにも発展できなかったでしょう。それだけ,発見を公表することは大切なことなのです。

それでは,発見を他の研究者に知らせるにはどうすればいいのか?その方法の1つに学会における研究発表があります。心理学を研究する人は、当然のことながら、心理学に関連する諸学会に所属することになります(自分の意思で申請します)。数多くある日本の心理学関連学会のうち,当研究室のメンバーは,主に日本発達心理学会、日本教育心理学会,日本心理学会に所属しています。ここでは,当研究室のメンバーがよく発表している日本発達心理学会での発表を例として紹介しましょう。

日本発達心理学会では,毎年3月の3日間,日本のどこかの大学で大会を開催しています。大会での研究発表のことを「学会研究発表」などと呼んでいます。大学が主催団体となって大会を運営するため開催地は毎年変わります。そのため、学会研究発表のため、北は北海道から南は九州まで旅行する機会があることになります。

学会研究発表は,発表者が決められた日時に,決められた場所で行います。在席責任時間は1時間です。この時間に自分の場所にいて,発表内容に関心を持った方がいれば,その場で質疑応答や議論を行います。 また,持ち時間自体は2時間あるので,2時間ずっと自分の場所に立って,他の研究者の方々とやりとりをしていても構いません。開催地での研究発表自体は2時間ですが、研究発表内容をA4一枚にまとめた原稿は学会発表論文集として印刷されて、後々まで研究成果として残るので、研究発表を疎かにすることができません。

写真にあるように,研究発表の際には,自分の発表内容を記したポスターを作成し,貼り出します。パワーポイントやワードを用いたポスターが多いようです。カラフルにしたり,見やすくしたりして,大会参加者の注意を引く工夫を凝らしたりします。毎年500件近い発表があります。

学会研究発表の目的は,研究成果の発表だけにとどまりません。この発表を叩き台としてその場で討論したり,発表者と関心意識を共有する研究者と出会ったり,最新の論文情報を交換したりします。ここで出会った研究者と共同研究を開始するということも,珍しくありません。また、大会中日には大会主催校による懇親会もあるので、このとき多くの研究者と知り合いになる機会があります。このように,学会研究発表は多様な目的を満たすことのできる場なので、ゼミ生は可能な限り研究発表するように努めています。





分科会報告
学会には同じ研究分野の研究者が集まっているわけですが,学会の下部組織として,さらに細かい内容で共通の関心を持つ人たちの集まりもあります。日本発達心理学会では,専門分科会と呼ばれていて,それぞれの関心に沿った名称がついています。専門分科会の1つに「認知発達理論分科会」があり、当研究室の院生はもっぱらこの分科会に参加しています。先ほどの学会研究発表が500件近くあったことと比較すれば,分科会参加者は20〜30名といったところで、分科会には問題関心の近い人たちが集まっていると想像できるかと思います。

分科会では,学会研究発表のように発表者の研究に関して議論することより,認知発達に関連する重要な文献を取り上げ,報告者がその内容を参加者に報告し,その内容に関して議論します。指導教員がこの分科会の代表幹事を勤めているため、ゼミ生が報告者を担当することがしばしばあります(2枚の写真はいずれもセミ生が分科会で報告しているときの様子です)。この分科会の開催頻度は学会大会よりも頻繁で,年3回,参加者の集まりやすい東京、名古屋、大阪などで,開催を担当する大学の教室などで実施します。東京で開催するときは通常早稲田キャンパス14号館716号館で行ないます。ある程度絞られた研究課題について深く学ぶことができる貴重な機会です。丸一日かけての議論で消耗した後は,懇親会でリラックスです。





以上の学会研究発表、分科会報告はゼミ生の永盛善博さんに書いていただきましたが、指導教員として研究発表に関して一言付け加えておきたいと思います。2007年までは研究発表といえば、日本の学会で発表することでした。しかし、2008年度からは、私がけしかけたこともありますが、海外で行なわれる国際学会にも参加するようになりました。2008年はドイツのベルリンで開催されたXXIX International Congress of Psychology(2008年7月)に3名のゼミ生が、カナダのケベックで開催されたThe 38th Annual Conference of Jean Piaget Society(2008年6月)に2名の院生が参加しました。下の3枚の写真はICPにおいてポスター発表しているとき3名の様子です。経済的、言語的障害が大きいにもかかわらず、発達心理学研究室の先陣を切って国際学会での発表にチャレンジした院生に倣って、今後は博士後期課程の院生は年一回必ず海外での研究発表をすることが当然となるような研究室にしていきたいと思っています。



院生自主ゼミ・自主ラウンドテーブル
阪脇 孝子

当研究室では、正規の課程として行われているゼミのほか、希望する大学院生が集まって自主的にゼミを行っています。自主ゼミが始まったのは、2007年度からです。この年、指導教員である中垣教授が1年間の特別研究期間を利用して、イギリスに滞在して研究活動を行われていたため、中垣教授による大学院ゼミが開講されませんでした。それをきっかけに、大学院生だけで集まってゼミを行うことが発案され、自主ゼミがスタートしました。さらに、自主ゼミの成果を発達心理学会ラウンドテーブルで発表することを前提にすることで合意されました。

2007年度の自主ゼミの主要なテーマとして、Piaget理論の中でも「操作」という概念を中心に扱い、「操作」の概念と自主ゼミ参加者各自の研究テーマをどのように関連づけるかについて、参加者が順番に発表して議論を行い、Piaget理論に関する理解を深めていくことを目指しました。

参加者全員の発表が一通り終わった後に、ラウンドテーブルのテーマを検討しました。Piagetの「操作」の概念を検討する中、各人それぞれの研究領域に共通して、「Piagetが示した発達段階よりもっと早く子どもは同様の課題を解決できる」という批判が提出されていますが、その批判者はPiagetと同じ基準、つまり「操作」の観点から検討を行っていない、という問題がありました。そこでラウンドテーブルではこの問題を取り上げ、「子どもが『本当に』できることは何なのか? −Piagetの「操作」から子どもの有能性を探る−」というテーマで第19回日本発達心理学会大会において発表を行うことにしました。

その後は当日まで実際に発表する内容の検討を行いました。Piagetの「操作」の観点をよりわかりやすいものにするため、「操作」の発達段階を適当に示すキーワードを検討し、各人の研究領域における各発達段階をそのキーワードに合わせて記述し、研究領域間の共通性が見えるようにするなど、細かい点について何度も何度も検討を加え、何度も資料の改訂を行いました。そうして迎えたラウンドテーブル当日は、大変緊張するものでしたが、会場の参加者からも有意義な質問が提出されました。私たちも質問に対して考えることで、あらたな問題に気づき、考えるための材料となりました。

全般的に、中垣教授不在の場で行う、難解なPiaget理論についての議論は大学院生にとっては手探り状態であり、時にはいろいろな疑問が生じて行き詰ってしまうこともありましたが、ゼミ生個々人がお互いに刺激を受け合い、主体的に考えるきっかけになったと思います。また、各自の研究テーマをPiaget理論という共通した大きな枠組みの中に位置づけることができたこと、他の院生の研究テーマと各自の研究テーマとの関係性が見えてきたことから、個々の研究テーマをより広い観点からみつめ直すことができたと思います。このような点で、自主ゼミの活動は、「ラウンドテーブル」としての成果を生み出しただけではなく、参加者各人が個別に行っている研究にとっても資するところが大きいものであったと思います。そのようなこともあり、2008年度は、中垣教授はイギリスから帰国されましたが、自由参加により、学生主体で行われる自主ゼミは継続することになりました。

2008年度の自主ゼミは、前回ラウンドテーブルで提出された質問を元に、Piagetの「操作」の概念の4つの基本的な特徴を取り上げ、「操作」概念に対する理解をより深めることを目標としました。自主ゼミの形式は前年度と同様で、参加者各自の研究領域を対象として、この4つの基本的な特徴をどのように説明できるかを順番に発表し合い、議論を行いました。さらに2008年度の自主ゼミの成果も、第20回日本発達心理学会大会で「Piagetの認知発達理論を読み解く」と題して発表しました。

学生のみで行う自主的な議論は大学院の醍醐味ではないでしょうか。これからも中垣ゼミでは、積極的に院生の自主性を発揮して、院生間で議論を行い、自分たちの研究活動にそれを生かし、また自主ゼミ全体としての研究成果も生みだしていきたいと考えています。

レクリエーション1:夏休みゼミ合宿
大浦 賢治

発達心理学研究室では2004年度より毎年夏休みにゼミ合宿を行なっています。
  • 2004年度軽井沢セミナーハウス
  • 2005年度軽井沢セミナーハウス
  • 2006年度軽井沢セミナーハウス
  • 2007年度伊豆川奈セミナーハウス
  • 2008年度伊豆川奈セミナーハウス
合宿への参加は義務ではありませんが、発達心理学研究室のほとんどの方が参加しています。以下は、大浦賢治さんによるゼミ合宿の紹介です。

ここでは毎年恒例の夏休みゼミ合宿をご紹介します。早稲田大学では関東近郊に合宿用のセミナーハウスをいくつか所有しています。当研究室では,いつもと違った環境で勉強することを通じてゼミ生同士の交流を深めています。合宿の日程は2泊3日です。卒業生が来ることもありますので,1日目は近況報告から始めます。この時は懐かしい先輩との再会あり,新入生の紹介ありで,喜びの溢れるひと時です。写真1は,2004年の軽井沢セミナーハウスでの1コマです。合宿中の勉強会では文献講読をしたり,各自の研究テーマに沿った発表をしたりします。

2日目はセミナーハウスの周りにある観光地を見学したりしますが,当研究室では健康を増進する目的で特に軽ハイキングなどが盛んに行われます。写真2は2006年に行われた軽井沢ハイキングの時のものです。この時は夏の避暑地として有名な軽井沢碓氷峠まで2時間弱で登りました。清々しい微風に当たりながら登り切った時の爽快感は格別です。その後は,近くにある宿泊施設で温泉に浸かり,汗を流して体の疲れを癒しました。この他サイクリ ングをした年などもあります。

当研究室では合宿において指導教員のお誕生日会をしています。ケーキを囲みながら皆で楽しく語り合います。 また,この時にゼミ生達は,日ごろの指導に感謝の気持ちを込めて教員にささやかながらプレゼントをします。2008年度は,ハイキング用のリュックサックを贈りました。アットホームな雰囲気の中で一同の親睦がさらに深まります。写真3は2006年のお誕生日会のものです。

3日目は午前中勉強会の後,セミナーハウスの近くの観光地などを見学するのが恒例でが,バーベキューをした年もあります。写真4は2006年の風景です。皆で食材を用意して協力しながら作った食事は最高です。

以上のように、ゼミ合宿は勉強会を通じてゼミ生同士が刺激し合い、リクレーションを通じてゼミ生同士の親睦を深めるとてもいい機会になっています。








レクリエーション2:忘年会・フランスパンの会
柿原 直美

毎年12月、その年の最終ゼミの後にはフランスパンの会が催されます。バゲット(棒状のフランスパン)に出席者が持ち寄った『具』を自由にはさんで食しながらの忘年会をかねた懇親会です。用意されているのはバゲット、生野菜、それと先生特製のゆで卵です。出席者は各々1000円以内で『具』を用意します。ハム、チーズはお決まりのものです。コロッケ、和洋総菜・・・想定内です。カレー・シチュー・・・気をつけて食べなくてはいけませんが大丈夫です。餃子・・・想定外かもしれませんが,ここでしが味わえない貴重な味であることは間違いありません。

このように自分が挑戦したい新しい味覚あるいはメンバーに提供したい新鮮な体験を共有できる非常に創造的な集まりです。卒業した先輩や他のゼミのメンバーが参加してくれることもあります。にぎやかに1年を振り返り、次の年の更なる精進を誓います。もちろん後片付けが終了するまでがフランスパンの会です。



レクリエーション3:春のお花見
柿原 直美

都電荒川線[三ノ輪―早稲田]は東京で唯一残っている路面電車です。早稲田の2つ手前の駅、学習院下を過ぎて次の面影橋に向かって進むと間もなくカーブがあります。そこを曲がった瞬間に春には神田川の両側を覆う桜の花が目に飛び込んできます。この見事な桜並木は研究室のある建物からわずか徒歩で数分のところにあります。4月初めに科目登録を済ませてから先生とゼミ生は各自好みの弁当、飲み物を持参して集合し、花見に出発します。

満開の桜を楽しむという気持ちは多くの日本人に共通するでしょうが、世代を超えて、さらに文化をも超えてそのような感覚が伝わることを想像するとますます桜も美しく見えます。ゼミ生は年代や国籍の違いを常に肯定的にとらえそれぞれの研究を進めています。美しい桜はそのような姿勢をしっかりと後押ししてくれています。

ただし悩みがないわけではありません。まだまだ花粉が飛び散っていることと、花見の場所取りです。民主的なこのゼミでは企業における新人のように朝早くから場所取りの役目を新入生が担っているわけではありません。したがって全員が座れる場所を探して放浪することもないわけではありません。