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身体適応への視座

ここでいう<インターネットの世界>とは、ただ単にコンピュー タネットワークを意味するものではない。テレビも電話もコン ビニのPOSシステムもバーコードも、ありとあらゆる情報通 信メディアの総称として私は使ってきた。つまり、<インター ネット時代>とは、私にとっては<情報化時代>の別称である。 そのような<インターネット時代>に人々はどのような適応を 迫られることになるのか、ということを解きあかそうとしたの が後半(13章以降)の試みであった。そこで問題としたかった のはただ一つ。

情報化時代の入り口であった20世紀の後半、私たち人類は合 理化・競争化・省力化といった様々な環境変化にさらされ、 様々な適応を果たした。そのような適応のうちの「省力化」 だけに注目して「運動不足病」という概念が提案され、それ は体育学者の主要な研究テーマの一つとなった。殊に運動生 理学は、「運動不足」がもたらす様々な弊害とそれに対する 処方としての身体活動の効果をみごとに例証してきた。しか し、<インターネット>の普及にともなう本格的な情報化時 代への突入を控え、私たち体育学者には、「合理化・競争化」 といった情報化社会の本質的要素までをも総合した視座によっ て身体の適応を探求する必要があるのではないか。そしてそ れはどのようなアプローチによって探求できるのであろうか。

とまあ、長くはなったがたったこれだけのことを提示したかっ たのである。残念ながら、私の洞察が未熟だったために、十分 に掘り下げてわかりやすい論考を進めることができなかった。 だから、神経系の生理学的機構と電話・テレビなどのメディア との短絡についての論旨は、理解していただくことが困難だっ たのではないかと反省している。考察を深めた上で機をあらた めて批判の俎上に乗せたい。

最後に、本連載を始めるにあたり最初の数章の原稿を読んだ 上で目次を整理し連載の方向を定める上での助言を頂いた山 本義春氏(東京大学)、ならびに、メディアとの関連につい てご教示をいただいた樋口聡氏(広島大学)、ジョージア滞 在中に電子メールでのアンケートにご協力くださった全ての 皆様に、厚く御礼申し上げます。また、たまたま機が重なっ ただけとはいえこの連載を書く環境として最適であった在外 研究の機会を与えていただき、連載後半(帰国後)の論考を 進めるための補助として特定課題研究助成(98A-165)を交 付していただいた早稲田大学に感謝します。



Yoshio Nakamura
Mon Dec 27 10:02:29 JST 1999