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私の文献検索

前回述べたように、年間に刊行される論文の総数は増えつつあ る。そして、論文1件あたりの平均ページ数が増加しているこ ととあいまって、排出される文献の情報量は確実に増え続けて いる。溢れる情報の中から必要なものだけを選り取るための労 作が「文献検索」であり、インターネットの普及に伴ってその 環境はますます便利になってきている。

私が初めて「文献検索」を行ったのは、1979年のことであった。 農学部の図書館gifで、所属する運動部 (研究室ではない)の先輩から「疲労(fatigue)」に関する 関連文献の調べ方を教わった。参考図書が置かれている書棚に 並べられていた「Abstract」と称する分厚い雑誌の最新号の中 から「fatigue」という語を(たぶん、「muscle」と掛け合わ せて)引き、そこに並んだ「著者名」をメモして、今度は著者 一覧が記載された別の巻を引き、そこで、ようやく「雑誌名、 巻号、ページ数」を知ることができるという、今から考えると 恐ろしく手間がかかるものであった。それでも、研究の行方に なんの指針もない単なる卒論学生としては、「それが正当な学 問の入り口」と、有り難く思ったものである。その後、 「electromyography」とか「power」とか今から振り返るとな つかしい用語に関して、1年に1回くらいは図書館で冊子をひ もといた記憶がある。

その後、1987年に新設の学部に助手として勤務した当初は、や はり、図書館に同様の「検索誌」があり、1度だけ利用した。 ところが、1988年になると、図書館の一角にDialogへ電話接続 する専用端末が置かれ、検索語を提示すると担当職員が接続・ 検索して、その結果をプリントアウトしてくれるようになった。 当時は、接続の時間に対する課金と1件あたりの「ヒット(出 力)」に対する課金とがあり、結構な値段だったと思うのだが、 実感としては「金に糸目はつけない」というような雰囲気で、 平気で100件くらいの情報をアブストラクトまで含めて出力し ていたような記憶がある。いちいち専門職員の手を煩わせなけ ればならないこともあって、利用したのは年に2〜3回程度だっ たと思う。それでも、それまでに比べると検索回数も取得文献 数も急増し、「便利になった」と感じられた。この「データベー ス」からヒットした文献は年間100〜200件程度で、そのうち、 実際にコピーを取得したのは20〜30件程度だったのではないか と推測される。前回述べたように、年間の文献取得数は100〜 150件だったので、2〜3割くらいの「文献情報」をデータベー スに依存していたことになる。

その後(たぶん1993年のことだったと思うが)、アリゾナやハ ワイの大学にインターネット(telnet)で接続すると、その図 書館が供給している(と、当時は思っていた)UnCoverの文献 検索が(何と、タダで)利用できることを知り、頻繁に利用す るようになった。我が図書館のDialog端末に比べると、(比べ たことはないが)同じ検索語でもヒットされる論文は半分以下 だったような気がしたが、なにしろ「無料」だったし、研究室 の自分のパソコンから夜中でも自由に検索できたということも あり、(平均すると)月に1回程度は検索していたのではない かと思う。ただし、1回の検索で得られる新規取得文献は逆に 少なくなり、年間取得文献数は20件以下ではなかったかと記憶 している。

我が学部の図書館ではその間、Dialog検索が電話接続からディ スク版へと変わったのだが、わざわざ図書館まで出かけて検索 するのは不便なので利用することはなかった。1996年にようや く、学内図書館サーバーに学内ネットワークを介してアクセス できるようになり、ようやく利用するようになったというわけ である。それからは私の文献検索は極めて速く便利になった。 なにしろ、いかにインターネットで結ばれているとはいえ、い ちいち私の検索入力がアリゾナまで行ってから結果が帰ってく るのに比べて、同じ建物内の交信は圧倒的に速かったし、さず がに我が図書館が大金を払って購入しているだけあって、その 情報量は十分すぎるものだった。しかし、そのころの私はほと んど文献を読まなくなっていたので、恩恵はあまりなかった。

1996年10月にジョージア大学に来たときは勝手が違った。今ま でとは異なる分野の研究室で新たな研究課題に取り組むことに なり、一から文献検索をしなければならなくなったからだ。と ころが、残念なことに、せっかくの早稲田大学図書館のデータ ベースは学外からはアクセスできない。ジョージア大学図書館 での検索法は後に知ることになったのだが、なにしろ、バスで 行くほど建物が離れているので、やはり、研究室の机上からア クセスすることにこだわっていた。そんなときに、日本の仲間 からwwwのサーバーを教えてもらった。これだと、(研究室で あれ自宅であれ)私の机上のノートパソコンからNetScapeを使っ てアクセスできるので、今ではすっかりwwwに頼っている。

ちなみに、最初の頃に使ったwwwのURLは、

http://www.healthgate.com/HealthGate/MEDLINE/search.shtml

http://www.sts.org/repos/medl/

の2つであった。私が使い始めた頃(1997年5月まで)は後者は 無料でアブストラクトをダウンロードできたのだが、この原稿 を記す1997年7月の時点で確認のためにアクセスしたところ、 どうやらユーザー登録が必要で、利用条件(検索頻度とユーザー 数)に応じた料金が必要なようだった。前者は現時点ではアブ ストラクトの表示まではタダで、そのコピーを有料で送付する という仕組みになっている。最近では、別の仲間から教えても らったアメリカNCBIのEntrez Search

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/htbin-post/Entrez/query?db=m

を利用している。Entrez(アントレ)というのは、蛋白質の構 造情報やアミノ酸配列などの統合データベースであり、この MEDLINEはその中のオマケのようなものなのかもしれないが、 ヒットした文献の関連文献まで表示させることができ gif、現時点では(たぶん将来も)タダで安心し て利用できる。

wwwを利用するようになってからは、思いついたときに(思考 を中断することなく)手軽に検索できるようになり、頻繁にア クセスするようになった。たぶん、月平均2回(これまでに20 回)程度検索しているだろう。その情報を元にコピーした文献 数も50件程度になっている。



Yoshio Nakamura
Mon Dec 27 10:02:29 JST 1999