next up previous
Next: 仮想的体温調節機構 Up: 身体の境界 Previous: 身体の境界

身体のネットワーク

ところで、身体における情報通信ネットワークの代表は < 神経 系 > であろう。これは図 gifのような基本モデル に従って身体内外の様々な情報を収集(受容器)・処理(中枢) して、適切な応答を引き起こす(効果器)ことになっている。 さよう、身体には < 神経系 > という < ネットワーク >< 存在 > し、そこでの情報交換が生命維持には欠かせないのだ。


図: 神経系の基本モデル

もちろん、私も生理学に関わる学者であるから、そんなばかば かしいほど基礎的な生理学的知識に異を唱えるつもりはない。 ところが、じつをいうと、恥ずかしながら私は、その < 神経 系 > なるものを見たことがないgif。 「見る」どころか触ったことも匂いを嗅いだこともない。それ なのになんで身体に < 神経系 >< 存在する > と言い 切れるのかというと、それが生理学の信念だからである。

まあ、冗談はさておいて、この < 神経系 > は、裸になって よくよく眺めても見えないと言うことは確かである。つまり、 その<神経系 >< 皮膚の内側 > にある。そして、そ の < 皮膚の内側 >< 神経系 > は生体の恒常性の維持 に極めて重要な役割を果たしている。たとえば、急に寒い空気 に触れると皮膚が反射的に収縮して体毛をこわばらせ、表皮の 周囲に空気の相が生成して体熱の消失を防ぐように作用する。 また、寒さが持続すると表皮に近い血管が収縮して体温低下を 防ぐような反射機構が働く。逆に、運動中や暑熱下で体熱を放 散させる必要があるばあいには、皮膚血流の増大と発汗によっ て体温の上昇を防ぐのである。このような生理的機序は体温維 持にとって誠に好都合であり、我々が恒温動物の一種として生 きながらえられる所以となっている。

先のモデルにしたがってこの「寒さ反応」を記述すると、「皮 膚に内在する冷覚受容器が温度降下に反応して興奮し、求心性 神経を介して中枢へ冷感を伝える。その情報を受けた中枢が、 遠心性神経を介して表皮や皮膚血管の筋を収縮させ、その結果 として体熱の放散が防止される。」とでもいうことができるだ ろう。

もちろん、このような「生理的機序」が体温ならびに生命の維 持に重要な役割を果たしていることを否定するつもりはない。 しかし、素人常識的に考えて、暑熱あるいは寒冷環境下で私た ち人間の身体がどのような応答をするかというと、衣服を脱い だり着たりという < 衣料行為 > の方を思い浮かべる方が自 然であろうし、じじつ、衣服による体温調節を行わない人はま ずほとんどいない。ある意味で衣服は「第二の皮膚」と言える ほど、私たち人間の身体にとって必須の存在であり、しかもそ れはもはや、裸の身体における神経系の働き以上に体温調節に 貢献していると言っても過言ではない。また、寒冷下において 火を使って暖を取ることも、人類が獲得した体温調節・生 命維持の機序の一つであるといえる。



Yoshio Nakamura
Mon Dec 27 10:02:29 JST 1999