(本稿は、経営情報学会98年春大会発表原稿に若干の修正を加えたものである)

表現形式としてのオンネット論文の可能性:実践による検討

A Possibility of How to Write an Article on Network: A Practice

根来龍之 産能大学  小泉美穂子 マーガレットコーポレーション

Tatsuyuki NEGORO Sanno College Mihoko Koizumi Margaret Corporation
negoro@mi.sanno.ac.jp FAX : 03-3704-6981
http://ux01.so-net.ne.jp/~negoro/

要旨 最近にいたって、WEBページなどの形式でインタネット上に論文を掲載することが行われ始めた。しかし、現在のところ、印刷論文の原稿をそのままネットワーク上にアップしたものが多い。ネットワーク上の論文には、公開の広域性や低コストなどのメリットがある。本稿は、現在のオンネット論文では追求されていない読み手の「自己編集性」を促すオンネット論文ならでは書き方について論じる。
 「自己編集性」とは、読み手が書き手の意図した読み方(目次)に限定されずに読み手自身で自分の関心に合う目次を選択したり、好みの目次を作りだすことができる機能である。このために、論文のパラグラフ(一固まりの情報単位)化とリンク機能の全面活用が利用される。以下が著者自身の実践である。http://www.bekkoame.ne.jp/i/negorolabo/onnet/index.html

キーワード:オンネット論文、自己編集性、ハイパーテキスト、パラグラフ、編集工学、インターネット


Abstract
Articles in specialized fields are offered on internet recently. These articles are called on-net-articles in this paper. These are now mostly offered at the same form of printed articles.
This paper pursues the peculiar form of on-net-article. Three directions can be considered for the articles. Multimedia, Dialogue, and Self-editing. The paper emphasizes the Self-editing, that is here to be able to change the sequence of paragraphs of a article by each reader.

Keywords:on-net-article, Self-editing, hypertext, paragraphization, Editorial Engineering, Internet


1.はじめに
 専門分野の論文は、雑誌等を媒体にした印刷論文として発表されるのが通常である。しかし、最近にいたって、ネットワーク上に、Webページなどの形式で論文を掲載することが行われ始めた。本稿では、ネットワーク上に公開された論文を「オンネット論文」と呼ぶことにする。オンネット論文には、著者個人のサイトに掲載されるものや、学会のサイトに公開されているもの、コンピュータ会社等が自社発行の技術雑誌の全文を公開しているものなどがある(注1)。
 本稿で「オンネット論文」と言っているものは、ネットワーク上にあるすべての文章ではない。「専門性」があり、主張の「独自性」があり、その分野の専門家集団になんらかの知見を提供しようとする「文章」を「論文」としている。したがって、単に情報提供を目的とする文章や専門性のない文章はここでは「オンネット論文」とは呼ばない。また、「文章」をメインとしない図や写真中心のWebページも「オンネット論文」とはしない。
 現在の所、オンネット論文は、印刷論文として作成された論文をそのままネットワーク上にアップしたものが多い。あるいは、ネットワークに公開した論文を印刷してもその表現形式(外見)が変わらないものが多い。もちろん、「ただ印刷論文をネットワークに掲載した」だけでも、オンネット論文ならではのメリットはある。
 本稿では、オンネット論文の基本特性(メリットとディメリット)をまずまとめ、次に現在の一般的進化の方向として、「マルチメディア性」、「対話性」の追求を論じる。その上で、オンネット論文の「自己編集性」を追求した筆者の試みを紹介し、その効用について論じる。

2.オンネット論文の基本特性
 オンネット論文の基本特性として、公開性、公開のスピード、コスト、保存性、道具依存性、一覧性、更新容易性、引用時の同一性について考えることができる。
 公開性とは、どのくらい広い読者に伝えられるかという性質である。印刷論文が雑誌や書籍を入手した特定の読者にしか届かないのに対して、オンネット論文は広くネットワークにアクセスできる多くの潜在読者に論文を提供できる可能性がある。特に、検索エンジンによって、キーワードを手がかりに論文に到達する読者が期待できる。公開のスピードにおいても、オンネット論文では脱稿直後に公開可能である。公開性と公開のスピードとも、媒体(雑誌等)の流通範囲が限られ、脱稿から出版まで半年以上かかることが多い専門性のある論文にとって、オンネット論文のメリットは大きい。
 コストに関しては、印刷論文の出版・流通コストに比べて、オンネット論文のコストは、著者自身の手作りを前提にすれば圧倒的に安い。また、オンネット論文では内容を、状況の変化や考察の進捗に応じて適宜修正・追加できる(更新容易性)。さらに、オンネット論文は、コンピュータデータならでは場所をとらないという性質がある(保存性)。ただし、内容を見るのに機器とソフト(ブラウザ等)が必要になるという「道具への依存性」がある。その結果、移動先や移動中にオンネット論文を読むのは必ずしも容易でない。つまり、印刷論文のように簡単には持ち運んで読めない。この問題は、携帯機器の開発で徐々に問題ではなくなるかもしれないが、現時点では印刷論文に対するディメリットとして甘受せざるをえない点である。
 「一覧性」と「引用時の同一性」も、オンネット論文が印刷論文に対して劣る性質である。印刷論文では、全体をざっと眺めてどのような内容が書かれているのか、どのぐらいの分量などかが一目して概観し易い。オンネット論文は、相対的に論文全体を概観しにくい。ただし、若干の工夫はありえる。たとえば、筆者が実践したオンネット論文(根来・小泉(1998))では、全体のパラグラフ一覧表を常に表示することによって、読み手が全体のイメージを持てるようにしている。
 オンネット論文の特徴の一つは、上記したように「更新容易性」である。この裏腹の問題として、引用時の同一性の問題がある。論文は、専門性と独自性があればあるほど引用されることを前提に書かれる。しかし、オンネット論文は簡単に更新できるので、読み手が引用した論文(その部分)がネットワーク上にそのまま存在するとは限らない。ハードプリントで発行される印刷論文にはない問題である。この問題はかなり本質的なもので、オンネット論文が将来とも権威ある発表形式となりえない原因となるかもしれない。発表者自身が公開以後のすべてのバージョンを保存・公開すれば対処は可能ではある(根来・小泉(1998))ではそうしている)。しかし、これは発表者の良心にたよる方法であり、一般的信頼性はないと言わざるをえない。

3. マルチメディア性と対話性
 筆者の観察では、オンネット論文ならではの工夫は、マルチメディア性と対話性の追求として行われつつある。
(1)マルチメディア性の追求
 マルチメディア性とは、音声や動画の論文への組み込みのことである。テキスト以外、すなわち写真、図表の多用も広義にはこれに入るだろう。また、テキストや背景の自由なカラー化も該当する。ただし、写真、図表、カラー化は、印刷論文でもコストはかかるが実現可能ではある。音、動画の利用は、印刷論文ではかなり困難であるが、オンネット論文では技術的には容易である。マルチメディア性の追求は、情報紹介的Webページでは多く見られるが、オンネット論文の例は、未だ少ない。
(2)対話性の追求
 対話性は、インターネット特有の双方向性を前提にした機能の追求である。検索、読書コメントの記録、関連討議の場の提供などが対話性の追求としてあげうる。
 検索とは、論文中の言葉等を探し出す機能である。印刷論文では索引が用意されている場合に、その範囲でしか検索できないが、オンネット論文では、HTMLで書かれた場合は自由に論文中の言葉を検索できる。
 読書コメントの記録とは、論文に対する読者のコメントの処理に関わる項目である。印刷論文では、論文に対するコメント等は論文とは独立したものとして、一般に一緒には掲載されない。反論や言及等の形で別の機会に別の媒体で発表されることになる。それに対して、オンネット論文では、送られてきたコメントを論文と一体化して掲示することが容易にできる。
 関連討議の場の提供は、コメントの記録と関係する項目だが、書き手ー読み手の1対1の関係を超えて、読み手同士の関係成立の可能性に関する項目である。印刷論文では、もしそのような場が成立するとしても、それは論文と切り離されて存在する。それに対して、オンネット論文では、論文を中心に、読み手と書き手もしくは読み手同士が交流する場を同じサイト上に提供することが、技術的には可能である。たとえば、論文に関連する電子会議室が設置できる。著者が見た場合、読書コメントや、討議の場で出た意見を取り込んで論文を更新したり、目次を追加・修正していくこともできるだろう。
 筆者らの実践(根来・小泉(1998))でも論文に付随して、公開された電子会議室をインターネット上に設置している。

4.「自己編集性」の追求
 「自己編集性」とは、読者の「読み方への参加」のことである。対話性と同様に、インターネットの双方向性を利用した工夫である。
 印刷論文では目次は書き手によって一つしか提供されない。別の目次によって書かれた論文は、内容の骨子が同じでも別の論文として別の機会に発表される。しかし、オンネット論文では、読者への質問に答えてもらうことで、各読者の個別のニーズを把み、読者別の読み方を提示できる可能性がある。読者の関心や立場をインタラクティブに特定する可能性である。
 自己編集性とは、「読者が書き手の意図と離れて発表された文章の構成を自分なりに変えること」である。筆者は、この概念を松岡正剛(1996)に負うている。「編集」とは、「出会ったものや、もともとそこにある事態に潜んでいる関係性を組み直していく」(松岡正剛,1996)ことである。編集とは、「関係の発見」である。雑誌の編集者は、複数の筆者を組み合わせることによって「雑誌としての価値」をつくり出す。あるいは、あるコンセプトやキーワードに基づいて、現実の事象を並べ直す。よい編集とは、「独自な関係」の発見である。誰でもが思いつく「関係」は、人々の関心を喚起しない。
 松岡によれば、編集は、「自己編集」と「相互編集」に分けうる。自己編集とは、取り込んだものを自分なりに消化して並べ直すことである。たとえば、一日のできごとを自分なりに取捨選択して日記を書く行為は、自己編集の例である。相互編集とは、人々がお互いのビジョンを交換しながら新しいものを作り上げていくこと、すなわち「共創(コラボレーション)」を指す。本稿が着目するのは、前者の自己編集である。後者の相互編集とネットワーク技術との関係の研究は、たとえば新しい電子会議室技術の発明など今後の課題だと考えている。
 筆者(根来・小泉,1998)は、「自己編集性」の実現の一つとして、読者が著者の意図した目次(文章の流れ)に限定されずに読者自身で目次を選択したり、目次を作りだせるようにする表現形式を試みた。これは、「文章のパラグラフ化」と「ハイパーテキスト」によって可能になる。
 
5.オンネット論文作成の実践
(1)作成したオンネット論文の特徴
 以下では、この「読者の読み方への参加」を可能にするための、オンネット論文ならでは論文の書き方(表現形式)を論じる。これは、筆者が作成したオンネット論文(根来・小泉(1998))の実践内容にそって議論される。本稿の読者は、実践されたオンネット論文を、同時に参照いただきたい。http://www.bekkoame.ne.jp/i/negorolabo/onnet/index.html
 本オンネット論文では、リンク機能を使うが、その使い方は一般的なものとは違う。一般には、一つのまとまりのある文書があり、関連情報の場所を示すためにリンク機能を使っている。しかし、本オンネット論文では、複数の目次を実現するためにリンク機能を用いる。本オンネット論文は、目次の中身が一覧できるようにするために、フレーム技術を用いる。また、読み手の好みよにる「目次の選択」と「読み手が作成する目次」機能を実現するために、JavaScriptを用いる。
 論文は、一般に単語・図・表、センテンス、パラグラフ、節、章からなっている。印刷論文の目次は、筆者の意図の下で、章、節、パラグラフ、センテンスが並べられたものである。読み手は、各パラグラフが位置づけられた「固定した目次」にしたがって、論文を読むことを強いられる。それに対して、本オンネット論文の工夫は、読み手がパラグラフを自由に並べ直すことができるようにすることにある。この工夫によって、読み手は、複数の目次から自分の関心・立場に合う目次を選んだり、目次を自己作成できるようになる。
 この工夫のためには、文書作成の情報単位である各パラグラフを独立性のある形で書いておく必要がある。なぜなら、本稿が提案する表現形式では目次が固定しないので、各パラグラフの前後にくるパラグラフが特定されないからである。
 ちょうど一枚一枚がカードになっているイメージで本オンネット論文のパラグラフは書かれている。その際に、Information Mapping法(Horn,1989)にならって、「一つのパラグラフにはひとつの情報タイプ(定義、手順、例などを情報タイプとしている)の情報しか入れない」ようにしている。また、各パラグラフには、その内容を端的に示す「ラベル(題名)」をつける。
 そして、本オンネット論文は、これらパラグラフの組み合わせによって構成される。
 印刷論文は、書き手の考えたロジックの進行(書き手の編集)に応じて読み手の思考が呪縛的に進行させられざるを得ないが、本オンネット論文では、上記の書き方によって、論文を自己編集しながら読む仕組みを提供できる。

(2)本オンネット論文の内容と構造
 根来・小泉(1998)は、筆者の一人(小泉)が新規に立ち上げたインターネットによる情報サービス事業についての事業計画を題材に、マキシマーケティング理論と事業計画の作成方法について論じたオンネット論文である。
 この新規事業は、医師及び歯科医師向けに、インターネットを使用しOne to Oneかつインタラクティブに、家づくりに関するパーソナルな情報を提供するサービスである。
 本オンネット論文では、読者の関心や立場の違いに応じて7つの目次を準備してある。読者(読み手)は、いくつかの質問に答えることによって、自分にふさわしい目次を自動的に選ぶうる。ちなみに、書き手の立場として、研究的関心、医師・歯科医師、不動産関係者を分ける質問をしている。さらに、研究的関心を「マキシマーケティング」「事業計画作成法」「ベンチャービジネス」に分ける質問も行う。
 本オンネット論文では、上記の質問に応じて準備された7つの目次以外の読み方を望む読み手のために、「読者が作る目次」という機能を設けた。これは読者自身でパラグラフ一覧から興味のあるパラグラフを選択し、読み手が目次を自己作成する機能である。
 その他にもパラグラフ一覧表を常時表示し、読み手が、自分が読んでいるパラグラフがどれか、これからどのパラグラフへ進むのかが確認できるようにした。これは、読み手がハイパーテキスト内で迷子にならないようにした工夫である。
 本オンネット論文の「目次の選択」機能は、一部の学習教材やCD-ROM出版に見られる「ストーリーの多様化」と同種のものとも言える。しかし、ストーリーの多様化は読者の興味を引くための道具にすぎず、専門性と独自性を保ちながら読み手の関心に応えようとする今回の試みとは発想が異なる。また、本オンネット論文の「読者が作る目次」という発想はないし、全パラグラフを示しながら読者がブラウズ(閲覧)するという着想も、いままでの媒体にはない。
 以上の「目次の選択機能」と「目次の自己作成機能」が、本オンネット論文が試みた「自己編集性」の骨子である。読み手は、自分の興味や立場に応じて、パラグラフ同士の関係を選ぶことができる。さらには、自分なりのパラグラフの関係付けができる。
 目次が複数あっても、それぞれに重なりがなければ、それは複数の独立の論文が別々に存在しているにすぎない。それでは、目次の複数化の試みは、いたずらに書き手の工数を増やしてしまう。しかし、目次の違いは内容すべての違いではない。もともと、一つのテーマに興味や立場によって異なる視点があるから、複数の目次が必要になると考えられる(各目次がソフトシステム方法論(Wilson,1990)の「関連システム」のようなものだと言える)。こう考えれば、あるテーマをめぐって関心が異なる人それぞれふさわしい目次内容は、ある部分は重なり、ある部分は独自なパラグラフから構成しえるはずである。重なりがあるからこそ、援用を前提にしてパラグラフ化した書き方をする意味がある。
 実際、本オンネット論文における複数の目次タイプは、「マキシマーケティングによる新事業開発」という一つのテーマに関連した内容を複眼的に見るものとして準備された。本オンネット論文のパラグラフは全部で57あり、各パラグラフは各目次タイプで重複して使われている。ただし、一つひとつのパラグラフから見ると、7つの目次の内、2〜4の目次で共有されているものが多い。
 パラグラフの共有化によって、目次の複数化による書き手の負担を減らすことができる。また、あとから別の目次を追加する場合も、パラグラフの援用が可能となる。

(3) 本オンネット論文の効用と問題点
a. 本オンネット論文の効用
 本オンネット論文の「自己編集性」の試みの効用として、以下の3つをあげうる。
 第一に、立場や興味が違う読者に多様な読み方を提供できる。
 第二に、著者(書き手)にスピード重視の論文の書き方を提供できるということである。本オンネット論文の書き方を採用すれば、書き手である著者が、研究の途中段階から、情報やアイデアの一固まりを、どんどんパラグラフとしてまとめておけば、蓄積されたパラグラフを修正して連結順序を決めてネットワークにアップすることによって、研究を公開できる。その意味では、ベータ版(途中段階での発表)の論文公開に適切な方法と言えるかもしれない。
 第三に、オンネット論文は、もともと更新しやすいという基本特性があるが、本オンネット論文では、電子会議室を通じて読み手の意見を取り入れて、パラグラフの追加・修正、目次の追加・修正が、さらに容易である。また、「読者が作成した目次」を著者が参照できる仕組みを付加することで、目次を追加・修正するヒントを得られよう(現在の本オンネット論文にはこの機能は未実装)。
b. 本オンネット論文の表現方式の問題点
 本オンネット論文には、「パラグラフ」という要素を集めていくことで論文が作成できるという要素還元主義的想定がある。本オンネット論文の表現方式の問題点として、この要素還元主義では「著者の本当に思っていること」は伝わないという批判がありえる。
 この疑問には、実際に作成された本オンネット論文を参照いただいて、まず判断いただきたいと考えている。
 しかし、一般論として言えば、「部分は全体の目的によってその内容と書き方が変わる可能性がある」ことを認めざるをえない。
 たとえば、前半に現在の問題状況が書かれ、後半に解決案が書かれた論文では、前半があるからこそ後半の解決案の価値が読者に伝わる。あるいは、読者に徐々に内容について理解してもらうために、より単純なモデルや例から話を始めていく場合には、パラグラフの内容はある一つの目次を想定してのみ意味があるということがあるかもしれない。
 この問題は、本オンネット論文のような表現形式にとって本質的なものであり、完全な解決は不可能である。というよりも、この点は、本オンネット論文が伝統的な印刷論文に置き換わるものではなく、「使い分けるべき」ことを示すというべきであろう。本オンネット論文の書き方は、読者にとってまったく無知な世界を系統的に理解させる方法ではなく、書き手の主張のコンパクトな理解の機会を提供するものであろう。また、前述したように、研究の途中段階でスピーディーに成果を公開して広く批判を仰ぐベータ版として活用できる。
 本オンネット論文では、この問題に若干の対応を行う工夫として、「内容要旨」と「用語集」が設けられている。「内容要旨」は、各目次パターンの冒頭に表示される。「用語集」は、別windowを開いて参照することを想定している。パラグラフを独立性を高めるためには、目次上の前に適切な用語の解説があることを前提にできないので、この種の用語集に価値がある。用語集は、パラグラフ中の重要単語にリンクしてある。特に、「読者が作る目次」では、読み手が読みたいパラグラフを選択する形をとっているため、固定された目次のように、読み手に用語を順序よく理解して読み進んでもらうことができないので、用語説明が別途必要になる。用語集によって、読者は、必要に応じて、予備知識を補いながら読み進んでいくことが可能となる。
 「読者が作る目次」では内容要旨を書き手が提供できないので、書き手の意図を示す機能も用語集は部分的に果たす。

6. 結語
 オンネット論文には、広く潜在読者に論文を提供できる「公開の広域性」、脱稿してすぐに論文を公開できる「短い公開リードタイム」、誰でもが安価に論文を発表できる「低いコスト」、内容を適宜修正・追加できる「更新の容易性」、デジタルデータならではの場所をとらないという「保存の容易性」などの基本特性があると指摘した。マルチメディア性(写真、動画、音の取り込み)と対話性(検索、読み手コメントの記録、関連討議の場の提供)も、オンネット論文特有の機能として追求されつつある。さらに、オンネット論文の可能性に、「自己編集性」を加えること、これが本稿固有の主張であった。
 印刷論文は、書き手の考えた著述の進行に読者の思考を合わせることを要求する。本稿で提案した「自己編集性」を促す表現形式は、読み手が、自らの手で、自分の思考と書き手の思考の相互作用を楽しみえる工夫の一種だと言える。その技術的な工夫の骨子は、論文のパラグラフ化とハイパーテキストの活用である。これは、珍しい技術ではないので、本稿が提案する自己編集性のある書き方は誰でも実践可能である。
 金子郁容(1998)は、「強がりのシステム」(自分が問題を解決できると言い張るシステム)は行き詰まって、今必要なのは、バルネラビリティ(つけこまれ易さ)が発生することを許容し奨励する「相互性のあるシステム」だと述べている。一つの目次によって論理づけられ自己完結しようとする印刷論文は「強がりのシステム」であり、オンネット論文は、印刷論文を単純にネットワークに公開するだけではない、インターネットの双方向性を生かした別の表現形式を求められているのではないか。その一つの試みが本稿が、オンネット論文の可能性として追加する「オンネット論文の自己編集性」だと言えるかもしれない。
 オンネット論文特有のメリットを考えれば、オンネット論文は、今後もさらに多くが書かれ、公開されていくだろう。

(注1)オンネット論文サイトの例
野田一夫氏のサイト(長大な社会学論文を掲載):
http://www.honya.co.jp/contents/knomura/
日本物理学会(研究論文(欧文)を公開):http://wwwsoc.nacsis.ac.jp/jps/jpsj/index.html
ユニシス技報(バックナンバー全文掲載):http://www.unisys.co.jp/tec_info/index.html
ネットワーク上にのみ存在する学術雑誌:
MIS Quatery Discovery http://www.misq.org/discovery/home.html
以下に、その他のオンネット論文サイトのリンク集がある。
http://www.mi.sanno.ac.jp/~negoro/OnnetPaper/Onnet_paper_Ric.html
(注2)電子出版とオンネット論文は、類似性はあるが、異なる概念だと本稿では考えている。電子出版はデジタル化された情報を「本」に似た形式で CD-ROMなどの形式で流通させようとするものであるが、オンネット論文はあくまでもネットワーク上に存在する「論文」のことである。
(注3)本稿では、バラグラフによるオンネット論文作成方法について論じているが、同じ考え方はオンネット教材作成にも適用できる。この方式を採用すれば、読み手の予備知識に応じて自己編集できる教材が開発できるだろう。
(注4)根来・小泉(1998)は、そのサイトで完結した論文だが、他の書き手のパラグラフ化されたオンネット論文と、パラグラフ単位でリンクしあうようなオンネット論文も今後はありえるかもしれない。これは、「相互編集性」の世界である。

謝辞
経営情報学会「意味のモデル」部会のメンバーから既存のオンネット論文サイトのURLについて情報提供を受けた。記して感謝したい。

参考文献
[1]金子郁容、「ネットワーク社会と教育における相互編集性」、『情報と教育』岩波書店、1998年。
[2]国領二郎、「ネットワーク上の顧客間インタラクション」、高木晴夫・木嶋恭一編、『マルチメディア社会システムの諸相』、日科技連出版、1996年、51-72ページ。
[3]編集工学研究所、『ビジネスを編集する』、産能大通教、1998年.
[4]松岡正剛、『知の編集工学』、朝日新聞社、1996年、64-83ページ。
[5]松原光治、「情報の発信・理解を効率化するインフォメーション・マッピング法」、日経情報ストラテジー、97年3月号、1997年。
[6]Horn Robert, " Mapping Hypertxt, " The Lexington Institute, 1989. (ロバート・E・ホーン著、松原光治監訳、「ハイパーテキスト情報整理学」、日経BP社、1991年。)http://www.infomap.com/
[7]梅棹忠夫『知的生産の技術』岩波新書、1969年。
[8]Rapp Stan, Collins Thomas and Collins Tom, (ラップ・コリンズ・コリンズ、江口馨監訳『マキシマーケティングの革新』、ダイヤモンド社、1996年。)http://www.rappcollins.com/
[8]Wilson Brian, " Systems: Concepts, Methodologies and Applications (2nd ed.) ", John−Wily, 1990. (根来龍之監訳、『システム仕様の分析学:ソフトシステム方法論』、共立出版、1995年。)
[9]根来龍之・小泉美穂子「オンネット論文ならではの表現形式の研究:読み手の「自己編集性」への着眼」(投稿中)
[10]根来龍之・小泉美穂子「オンネット論文:マキシマーケティングによる新事業創出の検討」(1998)、http://www.bekkoame.ne.jp/i/negorolabo/onnet/index.html



印刷論文とオンネット論文の比較
特性 項目

印刷論文

相対評価 オンネット論文 相対評価
基本特性 公開の範囲 特定の読者にしか結果届けにくい × 広く潜在読者に論文を提供できる
公開のスピード 脱稿から出版までに時間がかかる × 脱稿直後に公開可能
コスト 出版・流通にコストがかかる × 誰でもが低コストで提供できる
一覧性 全体を概観しやすい(ざっと全体を眺めることができる) 全体をざっと眺めることは可能だが印刷論文より劣る
内容の更新 出版されたものは変更できない。改訂には時間とコストがかかる。 × 気づいた時に更新できる
引用時の同一性 内容が変わらないものとして引用される(同一性保持) 引用してもファイルが更新されて修正・削除されている可能性がある(更新記録管理が 必要)
保存性 場所をとる × コンピュータデータとして場所をとらずに保存可能
道具依存性 読むのに機器(道具)が不要。移動先や移動中に容易に読める。 コンピュータとブラウザがないと読めない。移動先や移動中に読むのが大変。 ×
マルチメディア性 カラー、写真、図表の利用 可能だがコスト高になる × 容易に利用できる
音、動画利用の可能性 困難 × 可能
対話性 検索 出版者が索引を用意した場合に、その範囲で検索可能

HTML

読者コメントの記録 読者カード等、反論等、論文とは独立した形になる × 送付されたコメントを論文と一体化して提示できる可能性
討議の場の提供 論文と切り離されて存在しえる 論文を中心に読者同士が交流する場が提供できる可能性(例:電子会議室の併設)
自己編集性

本稿が追加したい特徴

読み手による目次作成 読み方に参加できない。
筆者の意図によってパラグラフ
が並べられる。
× 読者の意図によって、自分なりの目次
を選択したり、作成できる工夫が可能
部分読みの容易さ 著者が用意した目次の枠組み内で
部分読みは可能
各読者が選んだ順番で
部分読みをする工夫が可能
読み手の「読み方」の保存 各読み手の「読み方」は
著者や他の読み手に
容易には伝わらない。
× 各読者の読み方を保存して
他の読者や著者が参照できる可能性




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