(注:本稿はIEレヴュー2000年12月号発表原稿に加筆したものである)

デルモデル:普遍性と特殊性

早稲田大学商学部教授 根来龍之
negoro@mn.waseda.ac.jp

 本稿は、いわゆるデルモデルといわれる経営モデルが、異なる産業の異なる製品にどこまで適用可能かを検討するものである。そのために、まずデルモデルの内容を整理し、その後にその有効性を支えている条件について論じたい。 

デル・コンピュータの歴史
 デル・コンピュータ社(以下ではデル社と略記)の歴史は、1984年に始まる。この年の5月、テキサス大学の一人の学生(マイケル・デル)が1,000ドルの貯金を元手に、ピーシーズ・リミテッドという名前のコンピュータの通信販売会社を設立したのが始まりである。1987年に企業名をデル・コンピュータとした。デル社の躍進ぶりはめざましく、1999年の全世界売上高でコンパックとNo.1を争う地位を確保している。純利益率も約8%(99年1月期)という高い水準にある。米国デルの売上は、1992年に約20億ドルだったものが、99年1月期には182億ドルと、わずか7年間で9倍に拡大している。純利益では実に14倍に成長した。
 デル社は、世界30カ国以上に現地法人を持ち、170カ国以上で販売活動を行っている。日本市場には、1993年に本格的に参入した。
 このようなデル社の高業績・高成長を支えているのが、デルモデルといわれる経営方式である。その内容は、ダイレクトモデル(直接販売+受注生産(B TO O))とヴァーチャル・インテグレーションと呼ばれるサプライチェーンマネジメントからなる。


 
直接販売
 デル社の販売戦略は、当初から通信販売を基軸とするものであった。デル社は部品の設計・製造を行わない。また、小売店に商品を卸さない。その代わりに、電話で顧客の要望を聞き、それに最大限に応えるコンピュータをすぐに組み立て、5〜9日以内に顧客に届ける。従来は、顧客からの受注窓口は電話・FAXであったが、インターネットの発達により、デル社の顧客とのインターフェースは、インターネットへと急速にシフトしている。デル社は、1996年7月インターネットによるオンライン直販「デル・オンラインストア」をアメリカで開設し、日本でもただちに導入した。 

 デル社は、一般に公開された販売用サイト(http://www.jp.dell.com/)を開設すると同時に、企業顧客に対し「プレミアページ」と呼ばれる個別のホームページを設置している。プレミアページには、公開型とちがって各社の情報システム部門が承認した機種だけが掲載されている。また、そのWEBページから自社担当の営業と連絡を取ることができる。日本でも1000社以上が利用している。デル社の需要の約8割は、企業向けである。
 インターネットを使って、顧客は自分の発注した製品の生産・運搬状況を把握できる。これは、「オーダー・ステータス」サービスと呼ばれるもので、デル社が提供するホームページにオーダーNO.とお客さま注文NO.とパスワードを入力するだけで自分が注文した製品の生産・配送状況を把握できる。また、「オーダーウォッチ」サービスでは、製品が国内の配送センターから出荷されると同時に、その情報を電子メールで顧客に通知している。こうしたサービスは、物流パートナー(フェデックス)との提携によって実現している。顧客の利便性はインターネットによって格段に向上したと言えよう。また、インターネットによる販売は、デル社にとって受注処理の手間が省ける他にも、需要予測に必要なマーケティング動向が即時に把握できるメリットがある。
 直接販売では、中間の販売店、代理店を必要としないことから人の介在を極力減らすことができ、販促費がかさまない。デル社では、販売コストが低く押さえることができるため、競合他社と比べて製品価格を2割前後安く設定できると言う。
 インターネットの発展は、ネット販売の市場での比率を高めている。

 デル社の特徴はそのサービス体制にも見られる。サービスサポートでは、1台1台の製品情報を受注と同時にデータベースに蓄積し、そのデータベースに基づいてスタッフがサポートを行っている。デル・コンピュータのサービス体制は、無期限のフリーダイヤルによる問い合わせ窓口「テクニカル・サポート」、納品から30日間のマネーバックシステム、1年間無料オンサイトサービスの3点からなる。フリーダイヤルサービスは24時間365日であり、また、オンサイトサービス(サービスマンがご指定先に訪問し修理を行うサービス)も営業時間外には有償となるものの24時間365日体制で行っている。

B TO O
 インターネット上の販売サイトは、自動見積もり機能を備え、画面上で何度も仕様と価格を試した上で自分が納得できる仕様で発注できる。顧客は、ハードディスクの容量から、マイクロプロセッサの性能、モニタの大きさにいたるまでさまざまな選択が可能で、予算と希望に応じて、自分用にカスタム化されたパソコンを持つことができる。また、コンピュータ本体だけでなく、モデム、コンピュータ・ソフトも注文することができる。したがって、一回の注文で必要なものが揃えられる。
 デル社は、注文を受けてから生産(組み立て)を行う。デル社のこの受注生産方式は、Build to Order (B TO O)と呼ばれている。日本からの受注情報はマレーシア工場(アジア向けの生産拠点)に送信され、組み立てられた製品は、フェデラル・エクスプレスの物流網を経由して顧客の手元に届く。この間の物流は、すべて航空輸送で、平均5〜6日である。マレーシアのペナン工場で生産された製品はペナン空港から専用機により成田空港へ空輸後、成田のロジスティックセンターから顧客別に配送される。
 受注生産ではリードタイムが必要になるが、デル社では以下のような方策でそれを短縮させている。顧客から注文を受けると、マレーシア工場と同時に部品サプライヤーへも納品指示を出す。生産拠点では自動化組み立てラインではなく、現在では2人で1台を組み立てる「セル方式」を採用している。その結果、セル方式以前の11時間/台から5時間/台に組立リードタイムが改善されたという。
 受注生産方式では、顧客から直接注文を取るため、製品在庫がいらない。このため、デル社の在庫の回転率はたいへん高い。年間売り上げに対して、在庫が何回転するかという比率で言えば、99年度のデータでは約60回転で在庫日数にすると約6日である。これは日本のパソコンメーカーの3分の1の高さである。

 また、メモリー、CPUなど半導体部品は日々値段が下落し、3〜4ヶ月という早いサイクルでより高機能の部品が市場に投入される中で、デル社は在庫リスクを回避でき、部品の価格低下をすぐに販売価格に反映させうる。製品在庫を持たない企業は、「新しい部品を現時点での相場で利用できる」のである。パソコン業界では、部品は日々進歩し、その価格は日々下がるのが一般的傾向であるから、このことは重要である。こうして、ユーザは陳腐化していない最新のスペックの安いパソコンをデル社から購入できる。「直販・受注生産方式は無駄を削ぎ落とした究極の製造業のモデルである」と米国デル・コンピュータ会長兼CEOのマイケル・デル氏が主張する所以である。
 店舗販売主体の既存のパソコンメーカでは、ひとたび販売不振が起こると、「販売不振→在庫増→価格低下→損出発生→次の商品が出せない」という悪循環におちいる可能性がある。元々製品在庫を持たない受注生産方式ではそのような悪循環が起こりにくい。パソコンのライフサイクルは約3ヶ月と短く、技術革新も早い。また他社新製品との競争によって製品価格の低下も激しい。在庫を持たないことが、価格競争上たいへん有利なのである。
 一方では、パソコン業界で重要なのは、技術力でなくて流通力とデザイン力だといわれている。現状のパソコンは「インテル+マイクロソフト+その他の部品を組み立てるだけの仕事でメーカの差はでない」。むしろ、どの仕様の商品をどんな価格・タイミングで流通させるか、どんなサービス・サポートがあるか、ということが重要になってきている。コストパフォーマンスとユーザーサポートで優位にたつデル社は競争しやすい環境にある。

ヴァーチャル・インテグレーション
 デル社の直販・受注生産体制を実現するためにはサプライヤーの協力体制が不可欠である。デル社はまず、サプライヤーの実態を十分に把握し、自社に適したサプライヤー選択をオープンに行う。またサプライヤーの業務サイクルの短縮を図るため、サプライヤーの数を徹底的に絞り込み、当初の300社から100社へ、現在では25社程度と削減してきた。
 主要なサプライヤー向けに個別の専用ホームページを設置し、互いの情報連携を緊密にしている。具体的にはデルから販売動向・生産計画・需要予測・現在の生産進捗・部品在庫など、逆にサプライヤーからは部品納期・価格・供給能力・生産進捗状況・生産計画・品質などの情報が流される。
 デル社は部品の需要予測にI2テクノロジーズのサプライチェーン管理ソフトを採用している。納期の長い部品もあるため約6ヶ月先の部品の需要予測を伝えるが、日々の生産進捗や在庫情報などから過剰在庫を抑えつつ欠品が生じぬように部品発注量を調整している。パートナー会社は現時点の生産進捗を把握できれば、不必要な安全在庫を持つ必要がなくなる。これが、在庫コストの削減、物流コストの削減につながる。

サプライチェーンをクロスドッキング方式と呼ばれる方式によって短縮化する努力も行っている。クロスドッキング方式とはあらかじめ設定された時点に組み立て工場に部品倉庫(リボルバーウェアハウスと呼ばれる)から部品が運ばれる方式で、ライン脇の部品在庫を最小化する方式である。この方式により、通常、受入から入庫、配分、出庫、出荷といった何段階もの工程を、従来ならば12〜24時間かかるところを、30分〜数時間で処理できる。クロスドッキング方式は、成田のロジスティックセンターでも採用されている。たとえば、国内調達のディスプレイとマレーシア工場から空輸されるコンピュータ本体が、停滞することなくセンターでセットされて配送トラックに載せられる。デル社は、クロスドッキング方式実現のために、部品会社、物流会社に、先々までの販売計画、生産計画等を開示している。
 デル社はサプライヤーとは資本関係がない。しかし、情報共有は可能限り進めている。それがサプライチェーン全体の競争力向上につながると判断しているからである。この「資本関係のない、情報共有によるサプライチェーンの統合的活動」を、デル社はヴァーチャル・インテグレーションと呼んでいる。
ヴァーチャル・インテグレーションにおけるパートナー会社(サプライヤー、物流会社)とのパートナーシップは以下の方針に基づいて運営される。デル・モデルについての理解、役割の明確化、積極的な情報の共有、必要なITへの投資、相互利益、相互成長、継続的な信頼関係の構築。
定期的にパートナー会社との間で「スコアカード」に基づく業務改善の議論を行う。パートナー会社(自己採点)、デル(依頼主採点)双方で同じスコアカードで採点(5段階評価)を行い、採点結果で生じたギャップについて話し合い(ブレーンストーミング)、ギャップを埋めながら方向性の確認を行う。スコアカードは、B5判で5枚程度のボリュームのものであり、各ページに5項目ぐらいの質問がある。項目の内容は、品質、品質改善への協力、価格、生産能力、納期の信頼性、生産対応の柔軟性、法律の尊重などである。

アンカーとしての最終消費者
 デル社にとっての顧客は最終消費者である。「パートナー会社にも、この考えを徹底してもらう。」 たとえば、デル社が日本におけるロジスティックセンターと配送を委託するアウトソーサーを決める際に、候補企業にプレゼンを求める際に、こう伝えたと言う。「デルに対して何ができるかではなく、貴社の提供するシステムで最終消費者にどういうメリットを提供できるかを提案していほしい。そのために必要ならば、デルの仕組みの変更を提案していただいても結構です。」

デルモデルのメリットとデメリット
 直販モデルには、以下のメリットがあろう。チャネルマージン削減、製品の流通在庫減、市場ニーズの直接入手。特にパソコン市場では、製品の標準化が進み価格競争が激化している中では、流通コスト削減のメリットは大きい。また、市場ニーズの直接入手は、その情報を次のモデル開発に活用でき、また顧客に対する個別対応が可能になる意味は大きい。デル社の場合は、直接販売で把握した市場ニーズをサプライヤーとも共有する努力がなされている。
 しかし、直接販売には、デメリットもある。電話とインターネット販売だけでは、アクセスできる人が限られる、顧客が見てさわって購入できない、顧客対応にメーカ側でコストと人が必要などのデメリットがある。
 デル社が対象としている「パソコンに詳しい顧客」ならば、製品を見なくても仕様が判断できる。そして、更新需要や法人購買が多いパソコンでは、その「詳しい顧客」が多い。こられがパソコン市場での直販モデルの有効性を高めている。また、デル社が採用しているO/Lサポートならば、顧客に直接サポートするとしてもそのコストは抑制できること、当社が対象としている「パソコンに詳しい顧客」ならば、サポートの必要性がそもそも低いことも指摘できる。
 結局、デルモデルの有効性は、「パソコンに詳しい法人と個人を中心セグメントにしている」という条件が強く反映している。そして、このセグメントに対する「直販」チャネルがインターネットの発展とともに拡大していることがデル社にとって追い風になっている。
 受注生産方式(B TO O)について考えてみよう。この方式では、仕掛在庫・製品在庫がいらない、個別仕様による生産が可能、新しい部品を早く使える、製品モデル変更時の在庫陳腐化を避けられるなどのメリットがある。これらのメリットは、パソコン市場のように製品と部品のライフサイクルが短く、価格が時間とととも低下する市場では有効性が高い。デル社の場合、個別受注生産による個別仕様の実現が大きな競争力になっていることも見逃せない。
 しかし、ロットによる生産ができない、製品在庫からの出荷よりリードタイムが長くなるなどのデメリットもある。デル社の場合、パソコンの組立プロセスが単純かつ短いので、セル方式で行えば1品生産でもコストが高くならない、組立プロセスが短い(1週間ほど)ので顧客の多くは納入を待てることが、このモデルを支えていると考えられる。
 次にヴァーチャル・インテグレーションについて見てみよう。その大きなメリットとして、系列メーカーを持たないことでThe best Company から常に購入できる、情報共有で生産リードタイムが大きく削減できることがあげられる。ただし、The best Companyから常に購入できるのは、部品が標準化されているので調達先選択の自由度が高く、かつThe best Companyが系列化されていないパソコン部品産業特有の特徴が存在するからである。また、生産リードタイム削減は、直接販売の項目でも指摘したように、「製品と部品のライフサイクルが短く、価格低下傾向にある」パソコン産業でその意味は大きい。
 ただし、ヴァーチャル・インテグレーションではサプライヤーとの長期的な共同開発には限界があろう。なぜなら、運命共同体としての共同開発へのコミットが確保しにくいからである。また、自社特有の商品がつくりにくいというデメリットもある。しかし、これらのデメリットはパソコン市場では顕在化しにくい。なぜなら、部品が標準化しているので、各サプライヤーがBestを追求してくれれば製品の高性能を実現できる、独特さよりも標準アーキテクチャーで競争できるセグメントが存在するからである。すなわち、製品の基本部分が標準化されているパソコン市場でこそ、デルモデルは有効なのである。

デルモデルの特殊性
 デルモデルの有効性は、産業特性に依存している。以下の産業・業界特性がその背景としてあげられる。
・ 規格が標準化されている
・ 各部品を独立の専業メーカーが担う
・ 製品ライフサイクルが短い
・ 部品のライフサイクルが短い
・ 「マニア」層が大きなセグメントとして存在する
・ 「プロ」の目で評価する多くの企業ユーザーが存在する
・ 顧客が製品選択に多様なニーズを求めている(汎用的でかつ個別の使い方)
・ 規模の効果を組み立てメーカーが追求しなくていい業界
・ 長期的な自社内研究開発が必らずしも不要な業界
・ 部品のインターフェースの標準化が進んでいる業界
・最終顧客が直接アクセスする業者が「窓口」としての強みを持つ業界

 デルモデルの有効性は、その市場戦略に依存している。以下の市場戦略がデルモデルの背景として指摘できる。
・直販しかしない
・インターネット受注
・製品にある程度詳しいユーザーに訴求
・企業ユーザーへの絞り込み
・価格+サポート+広い選択肢(製品の画期的差別化不要)
・新しい製品を早く売り出す
・その場で持ち帰る必要がない人向けに割り切る

産業・業界特性は固定できるものではない。また、産業・業界特性が変化すれば市場戦略の有効性も変わる。したがって、デルモデルの有効性を固定的に考えることはできない。しかし、その有効性には、パソコン産業・業界の特性が大きく反映していることが分かる。デル社の市場戦略もその産業・業界特性の中で有効となる。その意味では、これらの産業特性・市場戦略を背景とするデルモデルは、必ずしも普遍的に有効なモデルとは言えないだろう。デルモデルの革新性は高く評価できるが、他産業での適用可能性については冷静な吟味が必要である。


 
 

(注)本稿は、公開資料と取材に基づくものである。本稿作成にあたって、小寺邦明氏、坂本祐司氏の協力を得た。

<参考文献>
1. 「デルオンライン」慶應ビジネススクール・ケース、1999年。
2. 新良清「デルコンピュータのオペレーション戦略」『経営実務』2000年2月号。
3. 「デル・コンピュータコーポレーション」JMR生活総合研究所、2000年。
4. 安田 順一『変化に強い会社になる戦略ケースブック』経済界 、1997年。 
5. 野口恒『超生産革命BTO』日本能率協会、1998年
6. 岡本広夫『サプライチェーン経営』ぱる出版、2000年
7. 日経コンピュータ 1998.7.6, 1996.12.23
8. 日経ビジネス 1999.7.12
9. 日本経済新聞 98.1.15, 97.10.19, 97.7.21, 96.9.3
10. 日経産業新聞 98.4.2 98.1.27, 97.8.21, 97.5.22.
11. デルコンピュータHomePage: http://www.dell.com/jp/support/index.htm

根来龍之(ねごろ たつゆき)
略歴 1952年9月19日生まれ。1977年、京都大学文学部卒業(社会学専攻)。1983年、慶應義塾大学大学院経営管理研究科修士課程修了。大同特殊鋼、英ハル大学客員研究員、産能大学、文教大学などを経て、2001年より早稲田大学商学部教授。慶應大学ビジネススクール、産能大学大学院非常勤講師。CRM協議会副理事長。
著者:『経営戦略と企業革新』(朝倉書店、共著)、『製薬・医療産業の未来戦略』(東洋経済新報社、共著)、『ネットビジネスの経営戦略』(日科技連、共著)、『生産企業の経営』(海声社、共著)、『日経ビジネスで学ぶ経営戦略の考え方』(日本経済新聞社、共著)、『ERPとビジネス改革』(日科技連、共著)ほか。
http://www02.so-net.ne.jp/~negoro/