心理データ解析　第６回(2)　

重回帰分析の前に　／　重回帰分析とは　／　例題１　／　例題２　／　重回帰分析を行う際の注意点　／　おまけ：階層的重回帰分析

重回帰分析の前に

• 回帰分析
  • 第２回で学んだ相関は，２つの変数の共変関係を分析する方法であった。しかしそれだけでは因果関係があるとはいえなかった。
  • ２つの変数間に因果関係が想定される時には，回帰分析を用いる。
    • ただし因果関係は統計上の分析だけの問題ではなく，分析の背景にある理論について十分に理解しておく必要がある。
  • １つの従属変数（基準変数；量的データ）を１つの独立変数（説明変数；量的データ）から予測・説明する，と仮定した際に，回帰分析（単回帰分析という）を使用する。
  • また回帰分析は，ある変数(X)からある変数(Y)を予測するという意味をもつ。
    • Y=aX+b　（aとbの値を求めることにより，XからYを予測することができる）
    • なおこの式で表されるように回帰分析は，XとYが直線的な関係であることが前提となるので注意してほしい。

重回帰分析とは

• １つの従属変数（基準変数；量的データ）を複数の独立変数（説明変数；量的データ）から予測・説明する，と仮定した際に用いる統計手法である。
• 重回帰分析で注目するポイントは
  • 各独立変数（説明変数）が従属変数（基準変数）に及ぼす影響の向きと大きさ
    • 標準偏回帰係数（β）という
  • 独立変数（説明変数）全体が従属変数（基準変数）を予測・説明する程度
    • 決定係数（R²[大文字のRの２乗]）という

例題１

• どんな授業の評価が高い？
• ある大学の授業で，授業の評価をするために授業の難易度，私語の程度，授業の理解度，授業の全体的な評価について調査を行った。「難易度」「私語」「理解度」によって，授業の全体的な評価がどの程度説明できるのかを検討したい。

データの入力
SPSSを起動する（既に起動してある場合には，以前のデータを保存し，ファイルメニュー→新規作成→データ）
SPSSデータエディタの「変数ビュー」を開く
１番目の変数の名前に「番号」，２番目に「難易度」，３番目に「私語」，４番目に「理解度」，５番目に「評価」と入力。
「データビュー」を開いて数値を入力

分析
分析メニュー　→　回帰　→　線型
「従属変数」に「評価」を指定
「独立変数」に「難易度」「私語」「理解度」を指定
「統計量」ボタンを押し，「記述統計量」にチェックを入れる。

各変数の平均値や標準偏差，相互相関が出力される。
「OK」を押す
結果
各変数間の記述統計量と相互相関が出力される。相関係数の表は，上からPearsonの積率相関係数，有意確率，データ数をあらわす。
評価は難易度，私語と負の有意な相関を示し，私語と理解度が正の有意な相関を示している。

重相関係数(R)，決定係数(R²)，自由度調整済みのR²が出力される。
レポート等に記述する必要があるのは決定係数(R²)である。
これは，「評価」が「難易度」「私語」「理解度」から全体としてどの程度影響を受けるかを意味する。
今回の場合，R²=.68　という値となっている。

回帰式全体の有意性の検定。0.01％水準で有意である。
この有意確率が，決定係数(R²)の有意水準となる。
今回の結果では，p<.001（0.1%水準）で有意であった。

標準化していない回帰係数（B）と，標準偏回帰係数（β），およびその有意確率が出力される。
レポート等に記述するのは標準偏回帰係数（β）と有意水準である。
「難易度」と「私語」が「評価」に対して負の有意な影響力をもち，「理解度」が「評価」に対して正の影響力をもつ。

結果から
「難易度」「私語」「理解度」はともに授業全体の評価に有意な影響を及ぼしている。
この結果を，以下のような図に表してもよい。このような図を「パス図」という。
一般的に重回帰分析から作成するパス図には，標準偏回帰係数と決定係数を記入し，有意水準をアスタリスク（＊）で記述する（アスタリスクの説明を図の下部につけておく）。有意ではない標準偏回帰係数の矢印を省略することもある。
影響関係は片方向の矢印で，共変関係（相関）は相互の矢印で描く（第10回で詳しく説明する）。

データの入力，分析は先ほどと同じように行う。
• 従属変数に「充実感」，独立変数に 「自尊感情」「自己嫌悪感」「友人評価」を指定する。

得点間の記述統計量と相互相関は以下の通り。
充実感は自尊感情との間に正の有意な相関，自己嫌悪感との間に負の有意な相関。
自尊感情は自己嫌悪感との間に負の有意な相関，友人評価との間に正の有意な相関。

決定係数は.37となっている。どうやら有意ではないようだ。

標準偏回帰係数と有意確率を見ると，いずれの標準偏回帰係数も有意ではない。
相関係数を見ると，充実感と自尊感情，充実感と自己嫌悪感との間に高い相関が見られるのに，なぜ重回帰分析を行うと「影響力がない」とされてしまうのだろうか？

以下に，重回帰分析を行う際の注意点を挙げておくので，このケースがどれに当たるか考えてみよう。

因果関係といえるのか
時間的，理論的に因果関係を仮定できるのか。
疑似相関
相関係数と標準偏回帰係数を比較した際，それらが同符号で，ともに有意な値をとっていれば，その相関関係は因果関係と認めることも可能となる（用いられた独立変数の範囲内で，であるが）。
それに対し，相関係数は有意であるにもかかわらず，標準偏回帰係数が０に近くなる場合がある。
そのような関係にある場合，その相関は疑似相関である可能性がある。
多重共線性
相関係数と標準偏回帰係数が異符号で，しかもそれぞれが有意になる場合がある。
独立変数間の相関が高すぎる場合に，このような現象が生じることがある。
独立変数間に直線的な関係があることを多重共線性というが，独立変数間の相関が非常に高い場合にも近似的な多重共線性が発生する。
多重共線性が発生すると，回帰係数が完全には推定できなかったり，結果が求まっても信頼性が低いものになったりする。
相互相関が高い変数が独立変数の中に共存していることは，重回帰分析という手法を用いる上で不適切であると考えておこう。
このような場合の対処方法としては
少なくとも１つの独立変数を削除する
独立変数をまとめる（独立変数に対して因子分析や主成分分析を行い，合成する）
ただし，再度理論から仮定した因果モデルを考慮し直す必要もある。
なお，SPSSの回帰→線形で統計→共線性の診断をチェックすることにより，VIF(Variance Inflation Factor)という指標を算出することができる。
一般にVIF>10であると，多重共線性が発生しているとされる。
抑制変数
重回帰分析を行うことにより，相関関係では分からなかった因果関係が見えてくる場合もある。
相関係数がほぼ０であっても，標準偏回帰係数が有意になることがある。
従属変数（基準変数）との相関が低いにもかかわらず，標準偏回帰係数が有意になり，単純相関では隠れていた因果関係が見えてくることがある。このような独立変数（説明変数）を抑制変数という。
調整変数
被調査者を年齢や性別で分類してみると，変数間の相関関係がかなり異なってくる場合がある。
群ごとに別の因果関係を想定して分析してみると，全被調査者で分析した時と比べて，より説明力の高い結果が得られる場合がある。
このような場合，分類するための性別や年齢などの変数を調整変数という。

おまけ：階層的重回帰分析

• 階層的重回帰分析をしてみよう。

概要

• 階層的重回帰分析では，回帰分析を複数のステップに分けて実行し，追加のステップで説明力が増加するかどうかを検討する。
• たとえば，先の授業評価のデータで階層的重回帰分析を行ってみよう。
• ステップ１で独立変数に「難易度」，ステップ２で独立変数に「私語」，ステップ３で独立変数に「理解度」を投入し，独立変数を増加させることで，説明力の増加を検討したい。
• 用いる統計指標は……
  • R²：決定係数
  • R²変化量（delta R²，ΔR²）：前のスッテプと次のステップでのR²の増加量。この増加量が有意であると，「この独立変数を追加すると説明力が有意に増加した」ということになる。

分析の指定

• 分析メニュー　→　回帰　→　線型
  • 「従属変数」に「評価」を指定
  • 「独立変数」に「難易度」を指定（これがステップ１）
    • 「次(N)」をクリックすると，独立変数欄が空欄になる。

• 「独立変数」に「私語」を指定。
  • 「次(N)」をクリックすると，独立変数欄が空欄になる。
• 「独立変数」に「理解度」を指定。
• 「統計量」をクリック
  • 「R2乗の変化量」にチェックを入れて「続行」をクリック



• 「OK」をクリックすると，結果が出力される。

結果

• 「モデル集計」の「変化の統計量」の部分に，各ステップの独立変数を投入した時の説明力の変化（R2乗変化量）とその有意確率（有意確率F変化量）が表示される。
  • モデル１（独立変数に難易度を投入）…R² = .29, p < .05
    （最初の独立変数投入分なので，全体の説明力（R²）と変化量は等しい）
  • モデル２（独立変数に，難易度に加えて私語を投入）…R² = .45, p < .01; ΔR² = .16, p < .05
    （R2変化量の部分がΔR²に相当する。私語を独立変数に加えたときの説明力の変化量は5%水準で有意）
  • モデル３（独立変数に，難易度・私語に加えて理解度を投入）…R² = .68, p < .001; ΔR² = .24, p < .01
    （R2変化量の部分がΔR²に相当する。理解度を独立変数に加えたときの説明力の変化量は1%水準で有意）
  • 分散分析の表は，R²の有意確率に相当する。
    
• 
• モデルごとに，回帰係数（B），標準偏回帰係数（β），有意確率が表示される。
  • ステップごとに独立変数が増えていっている様子がわかるだろう。
• 

さらに…

• この分析方法を使って，「交互作用の分析」を行うことができる。
• そのためには，「交互作用項」を変数として用意する。
  • 変数Xと変数Yの交互作用項（Z）を計算するには…
    • 標準化得点を利用する
      • 1. 変数Xと変数Yを標準化する
      • 2. Z = X（標準化後）× Y（標準化後）←掛け算
    • センタリングを利用する
      • 1. 変数Xの各データから変数Xの平均値を引く。変数Yの各データから変数Yの平均値を引く。←これがセンタリング
      • 2. X = X（センタリング後）× Y（センタリング後）←掛け算
• 階層的重回帰分析を実施する
  • 従属変数に「Z」を指定。
  • ステップ１として，独立変数に「X」「Y」を投入。
  • ステップ２として，独立変数に「Z」（交互作用項）を投入。
• Zを投入した時に，ΔR²（R2乗変化量）が有意であれば，「交互作用が有意」になる。
• この手法は，分散分析の代用として利用可能である。
  • 独立変数が連続量である場合には，グループ化が不要という利点もある。

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