樹形図
樹形図(句構造木)は,支配的な変形文法のみならず,LFG,HPSG,RRGの論文などでも広く使われるせいか,スタイルファイルは比較的たくさんあります.大きく分けて,LaTeX自体の描写機能を利用するものとPSTricksなどのpostscriptの描写機能を利用するものがあります.前者の方は手軽で,postscriptを介さなくて良い(dvipdfm(x)などでpdfを生成できる)というメリットがありますが,あまり複雑なことはできません.後者の方はパワフルで,多様な樹形図を描くことができますが,dvipsを介してpsファイルを生成する必要があります.よく知られているものは以下のようなものがあります.
LaTeXのみで可能なもの
- parsetree.sty(解説も含めコチラから入手可能)
- qtree.sty(解説も含めコチラから入手可能)
- treeprint.sty (epic.sty, eepic.styと一部の機能にはeclarith.styを読み込む必要がある.日本語の解説も含め,すべてコチラから入手可能)
- xyling.sty(解説も含めコチラから入手可能)
Postscript/PStricksが必要なもの
- rtrees.sty(用法はスタイルファイルの中に記載)
- pst-jtree.sty(解説も含めコチラから入手可能)
- rrgtrees.sty(RRGに特化されたスタイル.他の理論への応用は困難.解説も含めコチラから入手可能)
- tree-dvips.sty(tree-dvips.proが必要.このスタイル自体にノードを配置する機能はなく,tabular環境などで配置済みのノードを線で結ぶのみ.解説も含め,すべてコチラから入手可能)
以下で,parsetree.sty, qtree.sty, treeprint.sty, rtrees.styについて,簡単な解説,ソースの記述法,結果を比較してみます.各スタイルの細かい用法や微調整,カスタマイズについては割愛します.あくまでノーマルな状態で使うとどうなるかという結果です.なお,数学環境でスモールキャピタルを使っていますので,サンプルのソースをコピーして試す場合は,以下のようにプリアンブルに書いておいて下さい.
\DeclareMathAlphabet{\mathsc}{OT1}{cmr}{m}{sc}
parsetree
- ソースの記述自体は非常に簡単.
- 他のスタイルファイルと組み合わせると,比較的複雑な木を書くことができる.
- 3分岐までの枝しか書くことができない.
- 丸括弧とチルダに意味があるため,これらの記号をテキストとして使用する場合,特別な処置が必要で結果面倒なこととなる.
- 原因は不明だがBeamerで使うことができない.
以下にサンプルのソースとその結果をあげておきます.
\begin{parsetree}
(.IP.
(.DP. ~ .that girl.)
(.I$'$.
(.I. `did')
(.VP.
(.V. .hate.)
(.DP. ~ .this man.)
)
)
)
\end{parsetree}
\begin{parsetree}
(.S.
(.\begin{tabular}{c}NP\\
$\uparrow \mathsc{subj} = \downarrow$
\end{tabular}. ~ .学生が.)
(.\begin{tabular}{c}VP\\
$\uparrow = \downarrow$
\end{tabular}.
(.\begin{tabular}{c}PP\\
$\downarrow \in \uparrow \mathsc{adj}$
\end{tabular}. ~ .居酒屋で.)
(.\begin{tabular}{c}NP\\
$\uparrow \textsc{obj} = \downarrow$
\end{tabular}. ~ .酒を.)
(.\begin{tabular}{c}V\\
$\uparrow = \downarrow$
\end{tabular}. .飲んでいた.)
)
)
\end{parsetree}

qtree
- parsetree同様ソースの記述はシンプル.
- 数行にわたるノードも,普通に改行するだけで書くことができる.
- ノードが大きくなったり,分岐数が増えていくと,バランスがおかしくなって予想以上に巨大な木になる傾向がある.
以下がサンプルのソースとその結果です.
\Tree [.IP \qroof{that girl}.DP
[.I$'$
[.I {\em did} ]
[.VP [.V hate ]
\qroof{this man}.DP
].VP
]
]
\Tree [.S \qroof{学生が}.{%
NP\\$(\uparrow \mathsc{subj}) = \downarrow$}
[.{VP\\$\uparrow = \downarrow$}
\qroof{居酒屋で}.{%
PP\\$\downarrow \in (\uparrow \mathsc{adj})$}
\qroof{酒を}.{%
NP\\$(\uparrow \mathsc{obj}) = \downarrow$}
[.{V\\$\uparrow = \downarrow$} 飲んでいた ]
]
]

treeprint
- 枝の長さなどの微調整も可能で,仕上がりのバランスが良い.
- postscriptに依存していないにも関わらず,かなりの描写能力がある.
- ソースの記述量が比較的多め.
- ノードのサイズが大きくなると,全体のバランスが崩れやすい.
以下がサンプルのソースと結果です.
\tree{IP}
\subtree{DP}\omittree{that girl}\endsubtree
\subtree{I$'$}
\subtree{I}\leaf{\em did}\endsubtree
\subtree{VP}
\subtree{V}\leaf{hate}\endsubtree
\subtree{DP}\omittree{this man}\endsubtree
\endsubtree
\endsubtree
\endtree
\tree{S}
\subtree{\begin{tabular}{c}
NP\\$(\uparrow \mathsc{subj}) = \downarrow$
\end{tabular}}
\omittree{学生が}
\endsubtree
\subtree{\begin{tabular}{c}
VP\\$\uparrow = \downarrow$
\end{tabular}}
\subtree{\begin{tabular}{c}
PP\\$\downarrow \in (\uparrow \mathsc{adj})$
\end{tabular}}
\omittree{居酒屋で}
\endsubtree
\subtree{\begin{tabular}{c}
NP\\$(\uparrow \mathsc{obj}) = \downarrow$
\end{tabular}}
\omittree{酒を}
\endsubtree
\subtree{\begin{tabular}{c}
V\\$\uparrow = \downarrow$
\end{tabular}}
\leaf{飲んでいた}
\endsubtree
\endsubtree
\endtree

rtrees
- ソースの記述は単純.
- AVMを埋め込んだ木を描く機能が含まれている.
- 簡単な句構造でも,割と大きくなってしまう傾向がある.
- 普通の木でノードが大きくなると,枝がフラットになる傾向がある.
以下がサンプルのソースと結果です.AVMの木も書くことができるため,そちらも追加してあります.
\begin{tree}
\br{IP}{\br{DP}{\tlf{that girl}}
\br{I$'$}{\br{I}{\lf{\em did}}
\br{VP}{\br{V}{\lf{hate}}
\br{DP}{\tlf{this man}}
}
}
}
\end{tree}
\begin{tree}
\br{S}{\br{\begin{tabular}{c}
NP\\$(\uparrow \mathsc{subj}) = \downarrow$
\end{tabular}}{\tlf{学生が}}
\br{\begin{tabular}{c}
VP\\$\uparrow = \downarrow$
\end{tabular}}{%
\br{\begin{tabular}{c}
PP\\$\downarrow \in (\uparrow \mathsc{adj})$
\end{tabular}}{\tlf{居酒屋で}}
\br{\begin{tabular}{c}
NP\\$(\uparrow \mathsc{obj}) = \downarrow$
\end{tabular}}{\tlf{酒を}}
\br{\begin{tabular}{c}
V\\$\uparrow = \downarrow$
\end{tabular}}{\lf{飲んでいた}}
}%VP
}%S
\end{tree}

\begin{avmtree}\avmfont{\sc}
\br{\[cat & S\\
head & \@{3}\|pos {\it verb}\\
spr & \q<~~~\q>\\
comps & \q<~~~\q>\]}{%
\br{\@{1}NP}{\tlf{that girl}}
\br{\[cat & VP\\
head & \@{3}\|pos {\it verb}\\
spr & \q<\@{1}\q>\\
comps & \q<~~~\q>\]}{%
\br{\[cat & V\\
head & \@{3}\|pos {\it verb}\\
spr & \q<\@{1}\q>\\
comps & \q<\@{2}\q>\]}{{\lf{hated}}}
\br{\@{2}NP}{\tlf{this man}}
}%VP
}%S
\end{avmtree}
その他
私は以前はtreeprint.styを使っていましたが,LFGのようにノードが大きくなると,バランスが崩れやすいために,今は以前一緒に文書作成をしているときにMary Dalrympleがくれたpst-treeをベースにしたマクロを適当に修正して使っています(easytree.styという名前をつけていますが,私のオリジナルではないので公開していません).ソースの記述方式は,同じくpst-treeをベースにしたrtrees.styにかなり近く,結果は以下のような感じになります.ノードの大きさに応じていくつかのコマンドを使い分けることできるので,どんな木でもバランスがあまり崩れないのが気に入っています.

まとめ
それぞれのスタイルに長所と短所があるので,自分がどのような木を書く必要があるのかを考えて,適宜選択すると良いと思います.シンプルなbinaryの木しか描かず,プレゼンにBeamerを使わないなら,parsetree.styが簡単で良いでしょう.Beamerでも使いたければqtree.styが良いかもしれません.もう少し微調整もしたいし,複雑な木を書く可能性もあるが,postscriptに依存しないものがよいのなら,treeprint.styがお勧めです.一方,HPSGなら,やはりAVMが簡単に埋め込めるrtrees.styが使いやすいでしょう.
なそ,サンプルのソースでは,独自のマクロなどはあえて使っていないので,tabular環境や数学環境を含んだ複雑なものになっていますが,特定のよく使う表現はマクロにしてしまえば,実際はもっと簡単に記述することができます.
