早稲田大学創造理工学部社会環境工学科/大学院創造理工学研究科建設工学専攻

海岸工学・マネジメント 柴山研究室

2010年チリ沖地震津波

災害概要

2010年2月27日,南米チリ中部沖でマグニチュード8.8の地震が発生しました.この地震によって発生した津波は,チリ中部沿岸の広範囲にわたって大きな被害を与えました.また,この津波は太平洋を20時間以上かけて伝播し,日本の太平洋沿岸にも到達しました.

チリでの現地調査


研究室では,4月2日から11日まで筑波大学,チリ大学,コンセプシオン・カトリック大学と共同で津波被害に関する現地調査を実施しました.現地調査の結果,以下のことが判明しました.

  • チリでは,沿岸域の大陸棚上や湾内にトラップされた津波が,場所によっては4時間以上の長時間にわたって何度も襲ってきました.地震発生は深夜であったため,住民は暗闇の中,長時間の避難を強いられることとなりました.
  • 津波の浸水高さは,広い範囲で4-10m程度でありました.浸水高さが比較的小さく,砂丘をもつ地域では,これらの砂丘が津波の侵入を防ぐ効果が見られました.遡上高さは,最大で20mを超えていることが分かりました.15mを超える遡上高さはいずれも海岸線付近の急斜面で記録したものであり,局所的な地形の条件により高さを増したと考えられます.
  • 調査によって判明したチリでの津波の規模は,例えば,2004年インド洋津波でのスリランカ南部での津波の規模に匹敵するものであります.しかし,スリランカでは死亡者の数が3万人以上にのぼるのに対し,チリでは数百人程度に抑えられていました.この理由としては,地震の規模が大きく,揺れが大きかったために住民にとって具体的に津波の来襲を感じることができたこと,1960年チリ地震津波,2004年インド洋津波を契機として,沿岸で生活する住民の間に津波に関する知識が広く行き渡っており,多くの住民が高台に避難したこと,が挙げられます.
  • ただし,Constitucionのように沿岸にキャンプをしに来た人たちが被災する例もあり,その土地に不慣れな人にも避難を促すような取り組みも必要です.

関連文献

  • 三上貴仁・柴山知也・武若 聡・Miguel Esteban・大平幸一郎・Rafael Aranguiz・Mauricio Villagran・Alvaro Ayala(2011):2010年チリ沖地震津波災害の現地調査,土木学会論文集B3(海洋開発),Vol.67,No.2,I_529-I_534.[doi:10.2208/jscejoe.67.I_529]
  • 都司嘉宣・大年邦雄・中野晋・西村裕一・藤間功司・今村文彦・柿沼太郎・中村有吾・今井健太郎・後藤和久・行谷佑一・鈴木進吾・城下英行・松﨑義孝(2010):2010年チリ中部地震による日本での津波被害に関する広域現地調査,土木学会論文集B2(海岸工学),Vol.66,No.1,1346-1350.[doi:10.2208/kaigan.66.1346]