2006年 3月 1日 ワンワート゛/ワンミーニンク゛ (代示を使う) 目次 >>


 
● ワンワ-ト゛/ワンミ-ニンク゛ (one word/one meaning) [ 代示を使う ]


 いきなり、「私は乗物を買いました」 とか 「私は あそこの二階で待っています」 と言われても聞いたほうは理解できない。「乗物」 や 「あそこ」 は、言っている本人しかわからないからだ。「乗物」 の代わりに、「自動車」、さらには 「乗用車」、さらには 「フォート゛」 のように考えていくと だんだんと明確、かつ、具体的になる。

 「1986年型 マーキュリー・ステーション・ワコ゛ン」 が言いたくて、「乗物」 と言ったのでは聞き手との キ゛ャッフ゜ は計り知れない。「自動車」 でも あい昧で、聞き手は 「どのような種類の自動車ですか」 と質問してくるに違いない。「乗用車」 ですと答えても不明確だから、相手は 「どのような乗用車ですか」 と、聞き返してくるだろう。「フォート゛ 社製の車です」 と言っても まだ聞き手は満足しない。「ステーション・ワコ゛ン」 --> 「マーキュリー」 --> 「マーキュリー・ステーション・ワコ゛ン」 --> 「1986年型 マーキュリー・ステーション・ワコ゛ン」 のように矢印の順に具体性が強くなり、明確になって行く。最後を聞いて、聞き手と話し手は内容が一致を見たわけである。最初から、「1986年型 マーキュリー・ステーション・ワコ゛ン」 と答えれば、いらいらすることも、時間を浪費することも無かったろう。

 名詞の反復を避けるために、「それ」 「これ」 「彼」 「彼女」 「あなた」 「かれら」 「われわれ」 「当社」 などの代名詞を使う人が多いが慎重を期したい。代名詞が指すものが書いている人にしかわからなくて、読み手に迷惑をかけることがあるからだ。次の例を検討してみよう。

  [ 例 1 ] 当然のことながら、当時の人々は電気が何であるか一向に見当がつかなかった。
       それは擦られた物体から沸き出る蒸気の一種で、それが濃縮して元のものへ戻る
       とき、紙とか枯れた葉の小片のような軽い物を引きつけるのだと考える人もいた。
       (テキスト)

 最初の傍線の 「それ」 は 「電気」 と書くほうがわかりやすい。二番目の 「それ」 に当たる語は 「電気」 か 「物体」 か 「蒸気」 の中から選ぶとすれば 「電気」 でなければならないが、極めて紛らわしい。「もの」 とは何だろう。「電気」 「物体」 「蒸気」 のいずれかだろうが、一瞬、選択に迷う。そこで、代名詞を用いないで、次のように書き換えるとよい。

  「...一向に見当がつかなかった。電気は擦られた物体から沸き出る蒸気の一種で、蒸気が濃縮して元の物体へ戻るとき...」

 次文は代名詞を具体的に示すことにより内容が一層明快になる。

  [ 例 2 ] 彼は中央公論社で 「コミュニケーション 技術」 という本を出版しました。それは内容が
       大変斬新で、充実しているので一読を勧めます。

 言わんとすることは理解できるが、「それ」 という代名詞の代わりに 「その本」 とか、「その本」 の代わりに 「その文章作成法の本」 とすれば、一層具体的になり、「コミュニケーション 技術」 という本は作文技術についての本だとわかる。このように、「それ」 「これ」 「彼」 「彼女」 「あなた」 「かれら」 「われわれ」 などではなく、ワンワート゛/ワンミーニンク゛ の語の内容を示す 「代わりの語」、つまり、「代示」 を使うほうが理解を助長するばかりか、紛らわしさも解消できることが多い。
 次の文を検討してみよう。

  [ 例 3 ] 当社では、最近、1986年型 マーキュリー・ステーションワコ゛ン を購入しました。それは
       フォート゛ 社製です。それは、素晴らしい性能をしています。

 この文は 「それは」 「それは」 が紛らわしい。そこで、

  「当社では、最近、1986年型 マーキュリー・ステーションワコ゛ン を購入しました。その フォート゛ 社製の車は素晴らしい性能をしています」

 と 「それ」 の代示として、「その フォート゛ 社製の車」 のように工夫して表現することにより、文意が明確になると共に、文が 1つ節約できたことにもなる。

  [ 例 4 ] ようやく書類が出来あがった。新しい装置の製作法を明確に、正しく説明して
       いる。

 この文では 「書類」 が あい昧だ。
 「仕様書」 「説明書」 などのように具体的な語を使うとよい。

  [ 例 5 ] その実験は当方で行われるだろう。

 この文では 「当方」 が あい昧だ。
 「当工場」 とか 「当研究所」 とか 「当実験室」 などのように具体性に富んだ語を選ぶとよい。

 
▼ 参考文献
 「コミュニケーション 技術」 (篠田義明、中公新書) から転載引用しました。




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