ラテン語入門(第4講)

1.第1・第2変化形容詞
2.所有形容詞「私の」
3.第2変化・男性名詞(単数・主格が-erで終わるタイプ)
4.第1・第2変化形容詞(男性・単数・主格が-erで終わるタイプ
5.前回「練習」解答と今回の「練習」

※1.第1・第2変化形容詞

 さて,「マニフィカト」の第1行を思い出す.

Magnificat anima mea Dominum.

 まだ説明のついていない語はmeaである.これは「私の」という意味の形容詞.これから形容詞の変化を学ぶが,「私の」には一か所変則的なところがあるので,まず最もオーソドックスな「良い」で学び,その後で「私の」を学ぶ.

 形容詞は名詞を修飾する働きを持っているが,その際に形容詞と名詞の性・数・格が一致する必要があります.つまり名詞が男性名詞で単数・対格ならば形容詞も男性形で単数・対格である必要がある.

 名詞に男性名詞,女性名詞,中性名詞がある以上,形容詞は1語で男性形,女性形,中性形の3つの形を備えている必要がある.そうすると形容詞は男性形で単数6,複数6の計12,女性形,中性形でもそれぞれ12,三性で計36の形を持つことになり,聞いただけでウンザリしそうだが,実際には同じ形もある上に,ほとんどの場合名詞の変化から類推ができるので心配ない.

 具体的に言うと「良い」という語の辞書登録形は

bonus, bona, bonum (bon-us, -a, -um)

で,これは単数・主格のそれぞれ男性形,女性形,中性形です.これが,語尾の形から

男性形はdominus,女性形はrosa,中性形はdonum

という名詞の変化に対応していることは容易に想像がつく.

 つまり第2変化・男性型の名詞(ほとんどが男性名詞),第1変化(ほとんどが女性名詞),第2変化・中性型(ほぼ間違いなく中性名詞)の変化に,形容詞の男性形,女性形,中性形が対応している.

 このタイプの形容詞を第1・第2変化形容詞と言う.

 第1とか第2という番号はあくまでも名詞変化につけられたもので,形容詞の場合,第1変化形容詞と第2変化形容詞の二つがあるのではなく,第1変化名詞と第2変化名詞の変化と同じタイプの変化を含んだ一つの第1・第2変化形容詞という種類の形容詞が存在する.

 形容詞にはもう一つ第3変化形容詞と呼ばれるタイプの形容詞が存在しますが,これも第3変化名詞の変化に準じる変化をする形容詞という意味で,三番目のタイプの形容詞という意味ではない.

 さて,では「良い」はどう格変化をするであろうか.

男性形)

単数:主格:bonus(ヌス)
    呼格:bone(ネ)
    属格:boniニー)
    与格:bonoノー)
    対格:bonum(ヌム)
    奪格:bonoノー)

複数
:主格:boniニー)
    呼格:boniニー)
    属格:bonorum(ボールム)
    与格:bonis(ニース)
    対格:bonos(ノース)
    奪格:bonis(ニース)

女性形)

単数
:主格:bona(ナ)
    呼格:bona(ナ)
    属格:bonae(ナエ)
    与格:bonae(ナエ)
    対格:bonam(ナム)
    奪格:bonaナー)

複数
:主格:bonae(ナエ)
    呼格:bonae(ナエ)
    属格:bonarum(ボールム)
    与格:bonis(ニース)
    対格:bonas(ナース)
    奪格:bonis(ニース)

中性形)

単数
:主格:bonum(ヌム)
    呼格:bonum(ヌム)
    属格:boniニー)
    与格:bonoノー)
    対格:bonum(ヌム)
    奪格:bonoノー)

複数
:主格:bona(ナ)
    呼格:bona(ナ)
    属格:bonorum(ボールム)
    与格:bonis(ニース)
    対格:bona(ナ)
    奪格:bonis(ニース)

表にまとめると,

   男  性    女  性    中  性
単数 複数 単数 複数 単数 複数
主格 bonus boni bona bonae bonum bona
呼格 bone boni bona bonae bonum bona
属格 boni bonorum bonae bonarum boni bonorum
与格 bono bonis bonae bonis bono bonis
対格 bonum bonos bonam bonas bonum bona
奪格 bono bonis bona bonis bono bonis

となる.

 上の表をみてもわかるように,男性形はdominus,女性形はrosa,中性形はdonumと全く同じ変化をします.

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2.所有形容詞「私の」

 では,「私の」に関して格変化をみてみましょう,今まででてこなかった名詞と組み合わせて格変化させてみる.男性形の単数・呼格のみが通常の第1・第2変化形容詞と異なる.

 (男性形):「私の医者」             

単数:主格:meus medicus(ウス・ディクス)
    呼格:mi medice(ー・ディケ)
    属格:mei mediciイー・ディキー)
    与格:meo medicoオー・ディコー)
    対格:meum medicum(ウム・ディクム)
    奪格:meo medicoオー・ディコー)

複数:主格:mei mediciイー・ディキー)
    呼格:mei mediciイー・ディキー)
    属格:meorum medicorum(メールム・メディールム)
    与格:meis medicis(メース・ディキース)
    対格:meos medicos(オース・ディコース)
    奪格:meis medicis(イース・ディキース)

   単 数     複 数
主格 meus medicus mei medici
呼格 mi medice mei medici
属格 mei medici meorum medicorum
与格 meo medico meis medicis
対格 meum medicum meos medicos
奪格 meo medico meis medicis

(女性形)「私の魂」(「私の魂」に複数形があるかどうかはここでは問題にしない)

単数:主格:mea anima(ア・ニマ)
    呼格:mea anima(ア・ニマ)
    属格:meae animae(アエ・ニマエ)
    与格:meae animae(アエ・ニマエ)
    対格:meam animam(アム・ニマム)
    奪格:mea animaアー・ニマー)

複数:主格:meae animae(アエ・ニマエ)
    呼格:meae animae(アエ・ニマエ)
    属格:mearum animarum(メールム・アニールム)
    与格:meis animis(イース・ニミース)
    対格:meas animas(アース・ニマース)
    奪格:meis animis(イース・ニミース)

   単数     複数
主格 mea anima meae animae
呼格 mea anima meae animae
属格 meae animae mearum animarum
与格 meae animae meis animis
対格 meam animam meas animas
奪格 mea anima meis animis

 (中性形)「私の危険」
 (形容詞を後ろに置く形にしてみる:ラテン語は形容詞が名詞を前から修飾しても,後ろから修飾しても意味は同じ)

単数:主格:periculum meum(ペークルム・ウム)
    呼格:periculum meum(ペークルム・ウム)
    属格:periculi mei(ペークリー・イー)
    与格:periculo meo(ペークロー・オー)
    対格:periculum meum(ペークルム・ウム)
    奪格:periculo meo(ペークロー・オー)

複数:主格:pericula mea(ペークラ・ア)
    呼格:pericula mea(ペークラ・ア)
    属格:periculorum meorum(ペリークールム・メールム)
    与格:periculis meis(ペークリース・イース)
    対格:pericula mea(ペークラ・ア)
    奪格:periculis meis(ペリークリース・メイース)

    単数      複数
主格 periculum meum pericula mea
呼格 periculum meum pericula mea
属格 periculi mei periculorum meorum
与格 periculo meo periculis meis
対格 periculum meum pericula mea
奪格 periculo meo periculis meis

 上の表(青字部分)に見られるように,「中性の特徴」がここでも適用されている.

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3.第2変化・男性名詞(単数・主格が-erで終わるタイプ)

 さて,第2変化名詞・男性名詞には,単数・主格が-erで終わるタイプのものがある.それを見てみる.

第2変化・男性名詞「少年」 puer, pueri, m

単数:主格:puer(エル)
    呼格:puer(エル)
    属格:pueriエリー)
    与格:pueroエロー)
    対格:puerum(エルム)
    奪格:pueroエロー)

複数:主格:pueriエリー)
    呼格:pueriエリー)
    属格:puerorum(プエールム)
    与格:pueris(エリース)
    対格:pueros(エロース)
    奪格:pueris(エリース)

単数 複数
主格 puer pueri
呼格 puer pueri
属格 pueri puerorum
与格 puero pueris
対格 puerum pueros
奪格 puero pueris

 このタイプの名詞は,まず単数・属格が-iで終わることから,第2変化名詞であることがわかるが,「主人」dominusとの違いは単数・主格と単数・呼格のみ.

 すなわち,単数・主格が-erで終わる第2変化・男性名詞は単数・主格で-us,単数・呼格で-eが省略されただけで,その他は第2変化・男性型と全く同じある.

 ※-us, -iで終わる名詞.ほとんどが男性だが,一部に女性名詞(樹木や島)が存在するので,「男性型」と言っておくことにいしていた.

 このタイプの名詞は単数・主格と属格をセットにして覚えることにより,属格が-iで終わっていることがわかれば,第2変化・男性名詞であると言うことができる.                  

  それと,このように単数・主格と属格をセットにして覚えることには,もう一つの意味がある.実は単数・主格が-erで終わる名詞には,もう一つのタイプがある.

第2変化・男性名詞「畑」 ager, agri, m.

単数:主格:ager(ゲル)
    呼格:ager(ゲル)
    属格:agriグリー)
    与格:agroグロー)
    対格:agrum(グルム)
    奪格:agroグロー)

複数:主格:agriグリー)
    呼格:agriグリー)
    属格:agrorum(アグールム)
    与格:agris(グリース)
    対格:agros(グロース)
    奪格:agris(グリース)

単数 複数
主格 ager agri
呼格 ager agri
属格 agri agrorum
与格 agro agris
対格 agrum agros
奪格 agro agris

 「少年」の場合と何が違うかと言えば,単数の主格と呼格以外の変化形で,語中の-e-が落ちることである.

 つまり,単数・主格が-erで終わる第2変化・男性名詞には,語中のeが残るタイプeが落ちるタイプの二つがあるということになります.

 さらに言えば,単数・主格が-erで終わる名詞には,実は第3変化名詞(単数・属格の変化語尾が-is)があるので,単数・主格と単数・属格をセットにして覚えことにより,第2変化なのか,第3変化なのか,語中のeが残るタイプなのか,落ちるタイプなのかがわかる.

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4.第1・第2変化形容詞(男性・単数・主格が-erで終わるタイプ

 このタイプの変化には実は形容詞もある.第1・第2変化形容詞と第3変化形容詞があり,どちらにも語中のeが残るタイプと落ちるタイプがある.念のため第1・第2変化に関してのみここで確認する.

 形容詞は「良い」の場合,bonus, bona, bonum (bon-us, -a, -um)と単数・主格の形を,男性形,女性形,中性形の順番に並べて並べるのが辞書登録の形である..これと同じように表記すると第1・第2変化形容詞「粗野な,荒々しい,残酷な」は次のようになる.格変化とともに書く.

asper, aspera, asperum(asp-er, -era, -erum)

(女性形,中性形によって,第1・第2変化であること,語中の-e-が残るタイプであることが分かる)

(男性形)

単数:主格:asper(スペル)
    呼格:asper(スペル)
    属格:asperiスペリー)
    与格:asperoスペロー)
    対格:asperum(スペルム)
    奪格:asperoスペロー)

複数:主格:asperiスペリー)
    呼格:asperiスペリー)
    属格:asperorum(アスペールム)
    与格:asperis(スペリース)
    対格:asperos(スペロース)
    奪格:asperis(スペリース)

(女性形)

単数:主格:aspera(スペラ)
    呼格:aspera(スペラ)
    属格:asperae(スペラエ)
    与格:asperae(スペラエ)
    対格:asperam(アスペラム)
    奪格:asperaスペラー)
複数:主格:asperae(スペラエ)
    呼格:asperae(アスペラエ)
    属格:asperarum(アスペールム)
    与格:asperis(スペリース)
    対格:asperas(スペラース)
    奪格:asperis(スペリース)

(中性形)

単数:主格:asperum(スペルム
    呼格:asperum(スペルム
    属格:asperiスペリー)
    与格:asperoスペロー)
    対格:asperum(スペルム
    奪格:asperoスペロー)
複数:主格:aspera(スペラ
    呼格:aspera(スペラ
    属格:asperorum(アスペールム)
    与格:asperis(スペリース)
    対格:aspera(スペラ
    奪格:asperis(スペリース)

    男  性    女   性    中    性
単数 複数 単数 複数 単数 複数
主格 asper asperi aspera asperae asperum aspera
呼格 asper asperi aspera asperae asperum aspera
属格 asperi asperorum asperae asperarum asperi asperorum
与格 aspero asperis asperae asperis aspero asperis
対格 asperum asperos asperam asperas asperum aspera
奪格 aspero asperis aspera asperis aspero asperis

 これを見れば,単数の主格と呼格以外はすべて「良い」の変化と同じであることがわかる.だから,単数の主格を男性形,女性形,中性形と三つ並べて覚え,第1・第2変化であることを確認すれば,特にあらためて覚える必要はないのです.

 念のため,-e-が落ちる場合を見てみましょう.第1・第2変化形容詞「私たちの」です.

noster, nostra, nostrum (nost-er, -ra, -rum)

(男性形)
単数:主格:noster(ステル)
    呼格:noster(ステル)
    属格:nostriストリー)
    与格:nostroストロー)
    対格:nostrum(ストルム)
    奪格:nostroストロー)
複数:主格:nostriストリー)
    呼格:nostriストリー)
    属格:nostrorum(ノストールム)
    与格:nostris(ストリース)
    対格:nostros(ストロース)
    奪格:nostris(ストリース)
(女性形)
単数:主格:nostra(ストラ)
    呼格:nostra(ストラ)
    属格:nostrae(ストラエ)
    与格:nostrae(ストラエ)
    対格:nostram(ストラム)
    奪格:nostraストラー)
複数:主格:nostrae(ストラエ)
    呼格:nostrae(ストラエ)
    属格:nostrarum(ノストールム)
    与格:nostris(ストリース)
    対格:nostras(ノストース)
    奪格:nostris(ストリース)
(中性形)
単数:主格:nostrum(ストルム
    呼格:nostrum(ストルム
    属格:nostriストリー)
    与格:nostroストロー)
    対格:nostrum(ストルム
    奪格:nostroストロー)
複数:主格:nostra(ストラ
    呼格:nostra(ストラ
    属格:nostrorum(ノストールム)
    与格:nostris(ストリース)
    対格:nostra(ストラ
    奪格:nostris(ストリース)

    男  性     女  性     中  性
単数 複数 単数 複数 単数 複数
主格 noster nostri nostra nostrae nostrum nostra
呼格 noster nostri nostra nostrae nostrum nostra
属格 nostri nostrorum nostrae nostrarum nostri nostrorum
与格 nostro nostris nostrae nostris nostro nostris
対格 nostrum nostros nostram nostras nostrum nostra
奪格 nostro nostris nostra nostris nostro nostris


 このタイプに関しては,男性形の単数・主格で-us,呼格で-eが省略され,その他の変化で語中の-e-が落ちることに気をつければ,やはり「良い」と同じであることがわかります.したがって,このタイプも単数・主格を男性形,女性形,中性形と三つ並べて,第1・第2変化形容詞であり,女性形と中性形で-e-が落ちていることを確認すれば,特に覚える必要はありません.

 すでに「私の」という所有形容詞

meus, mea, meum

を学びましたが,「あなたの」は

tuus, tua, tuum

私たちの」は今見たように

noster, nostra, nostrum

あなた方の」は

vester, vestra, vestrum

で,これらはすべて第1・第2変化形容詞です.

 「彼の」,「彼女の」,「彼らの」,「彼女らの」などは代名詞の属格を使いますので,代名詞を学ぶ際に言及します.

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5.前回「練習」の解答と今回の「練習」

前回「練習」の解答

1.第1変化・女性名詞「テーブル」mensa, mensaeを格変化させなさい.

   単数       複数   
 主格  mensa mensae
 呼格 mensa mensae
 属格 mensae mensarum
 与格 mensae mensis
 対格 mensam mensas
 奪格 mensa mensis

2.第1変化・女性名詞「星」stella, stellaeを格変化させなさい

   単数       複数   
 主格  stella stellae
 呼格 stella stellae
 属格 stelllae stellarum
 与格 stellae stellis
 対格 stellam stellas
 奪格 stella stellis

3.第1活用動詞exulto, exultare, exultavi, exultatum「喜ぶ(跳びはねる)」を直説法・能動相・現在で活用させなさい

   単数       複数   
 1人称  exulto exultamus
 2人称 exultas exultatis
 3人称 exultat exultant

練習

1.第2変化・男性名詞「狼」lupus, lupiを変化させなさい.

  単数     複数  
主格 lupus
呼格
属格 lupi
与格
対格
奪格

2.第2変化・男性名詞「庭」hortus, hortiを変化させなさい.

  単数     複数  
主格 hortus
呼格
属格 horti
与格
対格
奪格

3.第3変化・男性名詞「場所」locus, lociを変化させなさい

  単数     複数  
主格 locus
呼格
属格 loci
与格
対格
奪格

※「場所」は複数では中性形になることが多いが,ここではそれは考えず,普通の第2変化・男性型の変化と考えることにする.

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