『アエネイス』講読
(第1巻102-107行)

テクスト
 Talia iactanti stridens Aquilone procella
velum adversa ferit, fluctusque ad sidera tollit;
franguntur remi; tum prora avertit et undis
dat latus; insequitur cumulo praeruptus aquae mons.  105
hi summo in fluctupendent; his unda dehiscens
terram inter fluctus aperit; furit aestus harenis
                               (102-107行)


語彙
102行
103行
104行
105行
106行
107行

(語彙)

102行 (テクストへ
 talia:第3変化形容詞tal-is, -e「このような」の中性・複数・対格.「このようなこと」
 iactanti:第1活用動詞iact-o, -are, -avi, -atum「投げる,放つ,語る」の現在分詞・男性・単数・奪格.明示されていない「彼=アエネアス」とともに絶対奪格を形成し,「アエネアスが以上のことを言った時」
 stridens:第3活用第1形動詞(第2活用も存在)strido, stiridere, stirdi, -「きしる,音をたてる」の現在分詞・女性・単数・主格で,「嵐」を修飾
 Aquilone:第3変化・男性名詞Aquilo, Aquilonis, m.「北風」の単数・奪格
 procella:第1変化・女性名詞procell-a, -ae, f.「嵐」の単数・主格

103行 (テクストへ

 velum:第2変化・中性名詞vel-um, -i, n.「帆」の単数・対格
 adversa:第1・第2変化形容詞advers-us, -a, -um「逆の,逆風の」の女性・単数・主格.「嵐」を修飾
 ferit:第4活用動詞ferio, ferire, -, -(完了系と目的分詞形なし)「打つ」の直説法・能動相・現在・3人称・単数.主語は「嵐」
 fluctusque:第4変化・男性名詞fluct-us, -us. m.「波」の複数・対格+等位接続詞-que「〜と,そして」
 ad:対格支配の前置詞「〜へと」
 sidera:第3変化・中性名詞sidus, sideris, n.「星,(複数で)星々=天」の複数・対格
 tollit:第3活用第1形動詞tollo, tollere, sustuli, sublatum「起き上がらせる,立ち上がらせる,高める」の直説法・能動相・現在・3人称・単数

104行 (テクストへ

 franguntur:第3活用第1形動詞frango, frangere, fregi, fractum「壊す,揺るがす,折る」の直説法・受動相・現在・3人称・複数.主語は「櫂」.「折られる」=「折れる」(他動詞の受動形は自動詞の能動の意味になる)
 remi:第2変化・男性名詞rem-us, -i, m.「櫂」の複数・主格
 tum:副詞「次に,それから,その時」
 prora:第1変化・女性名詞pror-a, -ae. f.「船首」の単数・主格
 avertit:第3活用第1形動詞averto, avertere, aversi, aversum「向きを変える,向きが変わる,転倒する」(他動詞も自動詞もあるが,ここでは自動詞)
 et:等位接続詞「〜と,そして」
 undis:第2変化・女性名詞und-a, -ae, f.「波」の複数・与格

105行 (テクストへ

 dat:不規則動詞do, dare, dedi, datum「与える」の直説法・能動相・現在・3人称・単数.主語は「船首」
 latus:第3変化・中性名詞latus, lateris, n.「脇腹,側面」の単数・対格.船首が波に向かっていれば,まだそれを突き抜けることも可能だが,船体の側面を波に打たれれば転覆を余儀なくされることを指している
 insequitur:第3活用第1形の形式受動相動詞insequor, insequi, insecutus est「付き従う,追いかける,追求する」の直説法・受動相(意味は能動)・現在・3人称・単数.主語は「(波が作る)山」
 cumulo:第2変化・男性名詞cumul-us, -i, m.「堆積,積み重ね,塊」の単数・奪格.「様態の奪格」で「塊となって」の意
 praeruptus:第3活用第1形動詞praerumpo, praerumpere, praerupi, praeruptum「前部を切り取る,引きちぎる,中断する」の完了分詞から作られた第1・第2変化形容詞praerupt-us, -a, -um「険しい,切り立った,突然の」の男性・単数・主格.「山」を修飾
 aquae:第1変化・女性名詞aqu-a, -ae, f.「水」の単数・属格
 mons:第3変化・男性名詞mons, montis, f.「山」の単数・主格

106行 (テクストへ

 hi:指示代名詞hic, haec, hoc「これ,この」の男性・複数・主格.ここでは同じ行のhis(男性・複数・与格)と連動して,「ある者たちは・・・だが,別の者たちにとっては・・・」という意味になる(全体を二つのグループに分けている)
 summo:第1・第2変化形容詞super-us, -a, -um「上の」の不規則な最上級summ-us, -a, -um「一番上の」の男性・単数・奪格.「波」を修飾しているが,ラテン語では「一番高い波」は「波の一番高いところ」の意味になる
 in:奪格支配の前置詞「〜において,〜で」
 fluctu:第4変化・男性名詞fluct-us, -us, m.「波」の単数・奪格
 pendent:第2活用pendeo, pendere, pependi, -「ぶら下がる,宙吊り状態になっている,中断状態になっている」(もちろん「ペンディング」の語源)の直説法・能動相・現在・3人称・複数
 his:指示代名詞hic, haec, hoc「これ,この」の男性・複数・与格.前述の通り,同行のhiと連動している
 unda:第1変化・女性名詞und-a, -ae, f.「波」の単数・主格
 dehiscens:第3活用・第1形動詞dehisco, dehiscere, -, -(完了系と目的分詞形なし)「口をあける,大きく裂ける」の現在分詞・女性・単数・主格.

107行 (テクストへ

 terram:第1変化・女性名詞terra-a, -ae, f.「大地」の単数・対格.ここでは「海底」を指す
 inter:対格支配の前置詞「〜の間で」
 fluctus:第4変化・男性名詞fluct-us, -us, m.「波」の複数・対格
 aperit:第4活用動詞aperio, aperire, aperui, apertum「開く,開示する,示す,見せる」の直説法・能動相・現在・3人称・単数.主語は前行のunda
 furit:第3活用第1形動詞furo, furere, -, -(完了系,目的分詞形なし)「(怒り)狂う,怒る,荒れ狂う」の直説法・能動相・現在・3人称・単数
 aestus:第4変化・男性名詞aest-us, -us, m.「熱,うねり,大波」の単数・主格
 harenis:第1変化・女性名詞haren-a, -ae, f.「砂」の複数・奪格 

(試訳)
 アエネアスがこのように言うと,北風で轟音をたてる嵐が
逆風となって帆を打ち,波を天までも運び上げた.
櫂は折れ,船首は向きを変えて,側面を
波に打たせた.塊となって落ちかかる山のような大波が襲う.
波の上に宙吊りとなる者たちもあり,別の者たちには大口を開ける波が
襲いかかって,波間に海底を見せた.うねる波が砂を孕んで荒れ狂っている.
                                        (102−107行)