『アエネイス』講読
(第1巻 (387-392行)

テクスト

 "Quisquis es, haud, credo, invisus caelestibus auras
vitalis carpis, Tyriam qui adveneris urbem.
perge modo, atque hinc te reginae ad limina perfer,
namque tibi reduces socios classemque relatam               390
nuntio, et in tutum versis Aquilonibus actam,
ni frustra augurium vani docuere parentes.
                           (387-392行)




語彙
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388行
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(語彙)

387行 (テクストへ) 

 Quisquis:不定関係代名詞代名詞quisquis, quidquid (quicquid)「誰であれ皆,何であれ全部,〜するものは皆,全て」の男性・単数・主格
 es:不規則動詞sum, esse, fui, (futurus)「〜がある,〜である」の直説法・能動相・現在・2人称・単数
 haud:否定の副詞「〜ない,全く〜ない」.invisusを修飾
 credo:第3活用第1形動詞credo, credere, credidi, creditum「信じる,思う」の直説法・能動相・現在・1人称・単数.挿入的に「私が思うに」
 invisus:第1・第2変化形容詞invis-us, -a, -um「嫌われている,疎まれている」の男性・単数・主格
 caelestibus:第3変化形容詞caelest-is, -e「天の」の男性・複数・与格.名詞化して「天の神々に」
 auras:第1変化・女性名詞aur-a, -ae, f.「空気,呼気,大気,(複数で)上層の大気,天」の複数・対格

388行 (テクストへ

 vitalis:第3変化形容詞vital-is, -e「命の,命に関わる,生きている」の女性・複数・対格.前行のaurasを修飾
 carpis:第3活用第1形動詞carpo, carpere, carpsi, carptum「摘む,収穫する,集める,食する,楽しむ,利用する」の直説法・能動相・現在・2人称・単数.「命の息を摘む」は,「生きて呼吸する」,「生きる」の意と思われる
 Tyriam:第1・第2変化形容詞Tyri-us, -a, -um「(フェニキアの都市)テュロスの,(フェニキア人の都市)カルタゴの」の女性・単数・対格.行末のurbemを修飾
 qui:関係代名詞qui, quae, quodの男性・単数・主格.先行詞は「あなた(=アエネアス)」
 adveneris:第4活用動詞advenio, advenire, adveni, adventum「到着する,到達する」の接続法・能動相・完了・2人称・単数.「理由の接続法」で,理由を表す従属文が関係代名詞で導かれている.この場合「理由」は物語の登場人物である女神ウェヌスの主観を表している.
 urbem.:第3変化・女性名詞urbs, urbis, f.「町,都市」の単数・対格

389行 (テクストへ

 perge:第3活用第1形動詞pergo, pergere, perrexi, perrectum「続ける,行く,完遂する」の命令法・能動相・現在・2人称・単数
 modo:副詞「ただ〜のみ」
 atque:接続詞「〜と,そして」
 hinc:副詞「ここから」
 te:2人称・単数の人称代名詞tu「あなた,お前」の対格.ここでは再帰的で「おまえ自身を」
 reginae:第1変化・女性名詞regin-a, -ae, f.「女王」の単数・属格
 ad:対格支配の前置詞「〜へと」
 limina:第3変化・中性名詞limen (limes), liminis, n.「境,敷居,入口,家,屋敷,館,王宮」の複数・対格
 perfer:不規則動詞perfero, perferre, pertuli, perlatum「運ぶ,もたらす,実行する」の命令法・能動相・現在・2人称・単数

390行 (テクストへ

 namque:理由の接続詞「というのも,なぜなら〜だから」
 tibi:2人称・単数の人称代名詞tu「あなた,お前」の与格
 reduces:第3変化形容詞redux, reducis, adj.「帰る,戻る,帰還する」の男性・複数・対格.次のsociosに一致
 socios:第2変化・男性名詞soci-us, -i, m.「仲間」の複数・対格
 classemque:第3変化・女性名詞class-is, -is, f.「艦隊,船団」の単数・対格+後接の接続詞-que「〜と,そして」
 relatam:不規則動詞refero, referre, retuli, relatum「戻す,返す,帰らせる」の完了分詞・女性・単数・対格

391行 (テクストへ

 nuntio:第1活用動詞nunti-o, -are, -avi, -atum「知らせる,告げる,命ずる」の直説法・能動相・現在・1人称・単数
 et:接続詞「〜と,そして」
 in:対格支配の前置詞「〜へと」
 tutum:第1・第2変化形容詞tut-us, -a, -um「安全な」の中性・単数・対格.ここでは名詞化して,「安全な場所,避難所,港」
 versis:第3活用第1形動詞verto, vertere, verti, versumu「向きを変える,向ける,逆転させる,転倒させる」の完了分詞・男性・複数・奪格.Aquilonibusに一致
  Aquilonibus:第3変化・男性名詞Aquilo, Aquilonis, m.「北風(の神)」の複数・奪格.奪格の複数形は単数形よりも1音節増えるので,「韻律上の理由」(metri causaメトリー・カウサー)の可能性が考えられるが,数度の渡って吹く風など,複数形に実質的な意味を持たせることも可能だろう.直前の過去分詞と連動していわゆる「絶対奪格」で,「北風が向きを変えられて」という独立分詞構文になるが,これをウェヌスの立場から見ると,「(私が)北風の向きを変えて」となる可能性もあるが,北風の立場から考えて「北風の向きが変わって,変わったので」としておく
 actam:第3活用第1形動詞ago, agere, egi, actum「導く,駆り立てる」の完了分詞・女性・単数・対格.前行のclassemを修飾

392行 (テクストへ

 ni:接続詞「もし〜でなければ」
 frustra:副詞「空しく」
 augurium:第2変化・中性名詞auguri-um, -i, n.「鳥占,予兆」の単数・対格
 vani:第1・第2変化形容詞van-us, -a, -um「空しい,無駄な」の男性・複数・主格.parentesに一致
 docuere:第2活用動詞doceo, docere, docui, doctum「教える」の直説法・能動相・完了・3人称・複数のducerentの別形
 parentes:第3変化・男女共用名詞parens, parentis, mf.「親」の複数・主格.ここでは父親(男性)を含む両親の意味で使っているので,男性扱いになっている

(試訳)
 あなたが誰であれ,私が思うに,天の神々に疎まれながら,生きていることは
決してありません.フェニキア人の町カルタゴに着いているのですから.
ただ先に進み,ここから女王の館へとその身を運びなさい.
と言うのも,あなたの仲間たちはもどり,北風の向きが変わって,船団は
安全な港へと退避したことをお知らせしておきましょう.
両親が私に意味もなく無駄に鳥占の術を教えたのでなければ.
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