カエサル『ガリア戦記』(1.1.2)

(テクスト)

 (1.1.2.) Hi omnes lingua, institutis, legibus inter se differunt. Gallos ab Aquitanis Garumna flumen, a Belgis Matrona et Sequana dividit.

(読み)

 ー・ムネース・ングァー,インスティトゥーティース,ーギブス・ンテル・ー・ディッフェルント.ッロース・ブ・アクィーーニース・ルムナ・フーメン,ー・ルギース・マトーナ・ト・ークァナ・ディーウィディット.

(語彙)

(1.1.2.)(第1文)
 hi:指示代名詞hic haec hoc「これ,この」の男性・複数・主格.「この者たち」は「ベルガエ人,アクウィタニー人,ガリア人」を指す
 omnes:第3変化形容詞omn-is, -e「全ての」の男性・複数・主格.hiの同格で「これらの者たちは全て」
 lingua:第1変化・女性名詞lingu-a, -ae, f.「舌,言葉」の単数・奪格.「言葉の点で,言葉において」
 institutis:第2変化・中性名詞institut-um, -i, n.「習慣,制度」の複数・奪格.「習慣.制度という点で」
 legibus:第3変化・女性名詞lex, legis, f.「法律」の複数・奪格.先行する二つの奪格と同じ意味.接続詞なにで三つ並べてあるのはasyndeton(アシュンデトン=接続詞省略語法)で何らかの強調を意味するが,ここは深く考える必要はない
 inter:対格支配の前置詞「〜の間で」
 se:再帰代名詞(主動詞の主語と同じ者を指す)の複数(単複同形)・対格.inter seで「互いに,相互に」
 differunt:第3活用第1形に準ずる不規則動詞differo, differre, distuli, dilatum「異なる,違う」(これの現在分詞から英語のdifferentができたのは言うまでもない)の直説法・能動相・現在・3人称・複数

(1.1.2.)(第2文)
 Gallos:複数で用いられる第2変化・男性名詞Gall-i, -orum, m.pl.「ガリア人」の複数・対格
 ab:奪格支配の前置詞「〜から」
 Aquitanis:複数で用いられる第2変化・男性名詞Aquitan-i, -orum, m.pl.「アクィーターニー人」の複数・奪格
 Garumna:第2変化・女性名詞Garmun-a, -ae, f.「ガルムナ河」(現在のガロンヌ河.北から南へと流れ,地中海に注ぐ)の単数・主格
 flumen:第3変化・中性名詞flumen fluminis, n.「河,川」の中性・単数・主格.直前の「ガルムナ」(女性・単数)を同格的に説明し「ガルムナという川→ガルムナ河」
 a:奪格支配の前置詞「〜から」.上のabと同じだが,子音の前ではaを使う
 Belgis:複数で使われる第1変化・男性名詞Belg-ae, -arum, m.pl.「ベルガエ族」の複数・奪格
 Matrona:第1変化・女性名詞Matron-a, -ae, f.「マトロナ(マトローナ)河」(セーヌ河の支流)の単数・主格.flumen「河」という同格で説明する語が省略されている
 et:接続詞「〜と,そして」
 Sequana:第1変化・女性名詞Sequan-a, -ae, f.「セクァナ(セークァナ)河」(現在のセーヌ河)
 dividit:第3活用・第1形動詞divido, dividere, divisi, divisum「分ける,分断する」の直説法・能動相・現在・3人称・単数.主語が三つあるのに,単数なのはそれぞれの河がそれぞれ「分断している」ということだろう

(試訳)

(1.1.2)これらの者たちは皆,言語,制度,法律において相互に異なっている.ガリア人をアクィタニ人からガルムナ河が,ベルガエ人からマトロナ河とセクァナ河が隔てている.