『ガリア戦記』(1.2.3)

(テクスト)

(1.2.3) Id hoc ficilius eis persuasit, quod undique loci natura Helvetii continetur: una ex parte flumine Rheno latissimmo atque altissimo, qui agrum Helvetiorum a Germanis dividit; altera ex parte monte Iura altissimo, qui est inter Sequanos et Helvetios; tertia lacu Lemanno et flumine Rhodano, qui provinciam nostram ab Helvetiis dividit.

(読み)

ド・ーク・ファリウス・イース・ペルスーシト,クド・ウンディクェ・キー・ナートゥーラー・ヘルウェーティイー・コンティートゥル.ーナー・クス・ルテ・フーミネ・ーノー・ラーティッシモース・トクェ・アルティッシモー,クー・グルム・ヘルウェーティールム・ー・ゲルーニース・ディーウィディト.ルテラー・クス・ルテ・ンテ・ラー・アルティッシモー,クー・スト・ンテル・ークァノース・ト・ヘルウェーティオース.ルティアー・クー・マンノー・ト・フーミネ・ダノー・,クー・プローウィンキアム・ストラム・ブ・ヘルウェーティオース・ディーウィディト.

(語彙)

(1.2.3)(コロン,セミコロンで文を区切る)

第1文

 id:指示代名詞is, ea, id「それ,その」の中性・単数・対格.前の文で述べられた,オリゲトリクスの提案を指している
 hoc:指示代名詞hic, haec, hoc「これ,この」の中性・単数・奪格.ここでは,理由を示す接続詞quod以下の文と連動して,「〜なので,(その理由で)一層」という意味
 facilius:第3変化形容詞facil-is, -e「簡単な,容易な」の比較級・中性・単数・対格が,副詞の比較級になるので「より容易に,一層容易に」
 eis:指示代名詞is, ea, id「それ,その」の男性・複数・与格.ヘルウェティイー族を指し,与格は説得の相手であることを示す
 persuasit:第2活用動詞persuadeo, persuadere, persuasi, persuasum「説得する」の直説法・能動相・完了・3人称・単数.主語はオルゲトリクス
 quod:理由の接続詞「〜なので」
 undique:副詞「四方八方から,あらゆる方向から」
 loci:第2変化・男性名詞(複数形は中性になることもある)loc-us, -i, m.「場所」の単数・属格
 natura:第1変化・女性名詞natur-a, -ae, f.「性質,自然」の単数・奪格
 Helvetii:複数で使われる第2変化・男性名詞(元来は形容詞)Helveti-i, -orum, m.pl.「ヘルウェティイー族(ヘルウェーティー族)」の主格
 continentur:第2活用動詞contineo, continere, continui, contentum「囲む」の直説法・受動相・3人称・複数

第2文

 una:代名詞型変化の数形容詞un-us,-a, -um「一つの」の女性・単数・奪格
 ex:奪格支配の前置詞「〜から(中→外が基本)」
 parte:第3変化・女性名詞pars, partis, f.「部分,地方」の単数・奪格
 flumine:第3変化・中性名詞flumen, fluminis, n.「川,河」の単数・奪格
 Rheno:第2変化・男性名詞Rhen-us, -i, m.「レーヌス河」(現在のライン河)単数・奪格.「レーヌス」と「河」と性を事にする名詞が同格並置されて「ライン河」
 latissimo:第1・第2変化形容詞lat-us, -a, -um「広い」の最上級・中性・単数・奪格.「河」を修飾.男性形と考えれば(同形)「レーヌス」を修飾.また最上級は「絶対最上級」であれば,「一番〜」よりも「きわめて〜」という意味になり,「相対最上級」(一番〜)と「絶対最上級」(きわめて〜)は形の上では区別がつかないので,文脈に拠る
  et:接続詞「〜と,そして」
 altissimo:第1・第2変化形容詞alt-us, -a, -um「高い,深い」の最上級・中性(または男性)・奪格.上と同様に,絶対最上級と考える
 qui:関係代名詞qui, quae, quodの男性・単数・主格.先行詞は「レーヌス河」
 agrum:第2変化・男性名詞ager, agri, m.「畑,土地」の単数・対格
 Helvetium:第1・第2変化形容詞Helveti-us, -a, -um「ヘルウェティイー族の」の男性・単数・対格
 a:奪格支配の前置詞「〜から」
 Germanis:複数で使われる第2変化・男性名詞(元来は形容詞)German-i, -orum, m.pl.「ゲルマン人」の属格
 dividit:第3活用第1形動詞divido, dividere, divisi, divisum「分ける,分割する,分離する」の直説法・能動相・現在・3人称・単数

第3文

 altera:代名詞型の変化をする第1・第2変化形容詞alter, altera, alterum「他の,別の,二番目の,二つ目の」の女性・単数・奪格
 ex:奪格支配の前置詞「〜から(中→外が基本)」
 parte:第3変化・女性名詞pars, partis, f.「部分,地方」の単数・奪格
 monte:第3変化・男性名詞mons, montis, m.「山」の単数・奪格
 Iura:第2変化・女性名詞Iur-a, -ae, f.「ユラ(山脈,山塊)」(現在のジュラ山脈で,ジュラ紀,白亜紀とか言うときの「ジュラ」はこれがもとになっている)の単数・奪格.男性形の名詞と女性形の固有名詞という風に性の異なる同格名詞を並置して「ユラ山,ユラ山塊」を意味する
 altissimo:第1・第2変化形容詞alt-us, -a, -um「高い,深い」の最上級・男性・奪格.「山」を修飾.「一番高い山」というより,絶対最上級で「きわめて高い山」という意味
 qui:関係代名詞qui, quae, quodの男性・単数・主格.先行詞は「山」
 est:不規則動詞sum, esse, fui, futurus「〜がある,〜である」(英語のbe動詞)の直説法・能動相・現在・3人称・単数
 inter:対格支配の前置詞「〜の間で,に」
 Sequanos:複数で使われる第2変化・男性名詞(元来は形容詞)Sequan-i, -orum m.pl.「セクァニー族(セークァニー族)」の対格
 et:接続詞「〜と,そして」
 Helvetios:複数で使われる第2変化・男性名詞(元来は形容詞)Helveti-i, -orum, m.pl.「ヘルウェティイー族(ヘルウェーティー族)」の対格

第4文

 tertia:第1・第2変化形容詞terti-us, -a, -um「三番目の」女性・単数・奪格.ex parteが省略されていて「三番目の部分からは」→「三番目の側には」(國原訳)
 lacu:第4変化・男性名詞lac-us, -us, m.「湖」の単数・奪格
 Lemanno:第1・第2変化形容詞Lemann-us, -a, -um「レマンヌス湖の,ゲネウァ(ゲネーウァ:ジュネーヴ)湖の」の男性・単数・奪格.名詞「湖」を伴わない時は第2変化・男性名詞で「レマンヌス湖」(現在のレマン湖)
 et:接続詞「〜と,そして」
 flumine:第3変化・中性名詞flumen, fluminis, n.「川,河」の単数・奪格
 Rhodano:第2変化・男性名詞Rhodan-us, -i, m.「ロダヌス河」(現在のローヌ河)単数・奪格.「ロダヌス」と「河」と性を事にする名詞が同格並置されて「ローヌ河」
 qui:関係代名詞qui, quae, quodの男性・単数・主格.先行詞は動詞が単数(qui自体は男性・主格なら単・複同形)なので「ロダヌス河」と考えても良いが,ここでは「レマン湖」と「ローヌ河」をひとまとめにして,単数で受けていると考える
 provinciam:第1変化・女性名詞provinci-a, -ae, f.「属州」(ローマの直轄領で,総督が派遣されて直接の支配を受ける地方)の単数・対格.多くの属州の中で,ここではナルボー(現在のナルボンヌ)を首邑ととするガリア・ナルボネンシスを指す.ここに属州があったことから南フランスをプロヴァンス(←プロウィンキア)と言う
 nostram:第1・第2変化の所有形容詞noster, nostra, nostrum「私たちの」の女性・単数・対格
 ab:基本的に「分離」を意味する奪格支配の前置詞「〜から」
 Helvetiis:複数で使われる第2変化・男性名詞(元来は形容詞)Helveti-i, -orum, m.pl.「ヘルウェティイー族(ヘルウェーティー族)」の奪格
 dividit:第3活用第1形動詞divido, dividere, divisi, divisum「分ける,分割する,分離する」の直説法・能動相・現在・3人称・単数

(試訳)

 彼がこのことを部族の者たちに説得するのは,下記の理由があるので一層容易だった.ヘルウェティイー族は位置の性質上(地勢上),諸方から囲まれていたからである.一つの側では,きわめて広く深いライン河によって(囲まれていた).その河はヘルウェティイー族の土地をゲルマン人から分けている.二つ目の側では,ユラ山塊によって(囲まれていた).この山塊はセクァニー族とヘルウェティイー族の間にある.三番目の側ではレマン湖とローヌ河によって(囲まれていた).これらはわれらの属州をヘルウェティイー族から分けている.