フィレンツェだより
2007年12月26日



 




「聖ベネディクトの死」
スピネッロ・アレティーノ
サン・ミニアート・アル・モンテ教会聖具室



§クリスマス・シーズンの楽しみ - 第4弾

クリスマスの翌日になったが,店などはまだ閉まっているところが多い.しかし教会は普通に開いているだろうと思って,大分前からこの日にサン・ミニアート・アル・モンテ教会に行くことを予定していた.


 ミケランジェロ広場までは,寓居の近くのバス停から12番の路線バスに乗り,ペトラルカ大通りからローマ門(ポルタ・ロマーナ),ガリレオ・ガリレイ大通りを経由して行く手もあるが,幸い天気も良いので,運動不足を避けるためにテコテコ歩いて行くことにした.

 いつもどおり,プラート通り,ボルゴ・オンニサンティを通ってゴルドーニ広場まで出て,その後はいつものヴィーニャ・ヌオーヴァ通りではなく,川に近いパリオーネ通りを選び,サンタ・トリニタ教会の脇を通って,テルメ通り,ポル・サンタ・マリーア通りに出て,ヴェッキオ橋を渡った.

写真:
ウフィッツィ美術館の行列が
川沿いに延びている


 ヴェッキオ橋の店は今日も全て閉まっていたが,人ごみは昨日の比ではなかった.橋から見渡すと,クリスマス休暇のせいか,ウフィッツィ美術館にはかなりの行列ができていた.


今ぞ知る近道
 以前ミケランジェロ広場へは,サン・ニッコロ門からつづら折の道を歩いて登っていたが,今はもう少し要領よく辿り着くことができる.

 ヴェッキオ橋を渡ってからアルノ川沿いに左に曲がって,バルディ通り,サン・ニッコロ通りを過ぎて,城門をくぐると,目の前に長い石畳の坂道が見える.これがミケランジェロ広場,サン・サルヴァトーレ・アル・モンテ教会,サン・ミニアート・アル・モンテ教会のある丘に向かう参道のような道,サン・サルヴェトーレ・アル・モンテ通りだ.

写真:
長い石畳の坂道を
ゆっくり登ってゆく


 坂道を登りきった先にはサン・サルヴェトーレ・アル・モンテ教会があるが,今日はサン・ミニアート・アル・モンテ教会で,まだ確認していないアレッソ(アレッシオ)・バルドヴィネッティのフレスコ画「受胎告知」を見るという第一の目的があったので,ガリレイ大通りを右に曲がって,先にサン・ミニアート教会に向かった.


サン・ミニアート・アル・モンテ教会
 久しぶりに丘の上から見るフィレンツェの街は,冬の午後の柔らかな光を浴びて美しかった.いくつもの家族やカップルが,ゆるやかな長い坂を上って丘の上の教会に向かう光景は,まるで日本の初詣を見るようだ.観光客の姿も多く,坂道も教会もいつもに増して賑やかだった.ミケランジェロ広場周辺の飲食店も商売繁盛のようだった.

 教会前の階段を登りきると,ファサード前の広場にいた多くの人達と一緒になって,眼下に広がる街の景色にしばし心を遊ばせた.それから暗い堂内へと身を滑り込ませる.真っ直ぐ,バルドヴィネッティのフレスコ画のあるポルトガル人枢機卿の礼拝堂に向かったが,堂内があまりに暗かったので,これは無理かもしれないと思った.

 案の定,礼拝堂は暗くて,ようやく絵の存在が確認できる以上のことは望むべくもない.少し失望したが気を取り直し,階段を登って,地下祭室の上部にある後陣に行き,半蒼穹型天井のモザイクとヤコポ・デル・カゼンティーノの祭壇画「聖ミニアスと彼の物語」を暗い中,目を凝らして見た.

 そして,今日も階上にある聖具室へと向かった.スピネッロ・アレティーノの連作フレスコ画「聖ベネディクトの生涯」に会うためだ.ここには1ユーロの喜捨で明かりがつく,おなじみの仕組みがある.今日は拝観者が多かったので,私たちも喜捨を投じたが,他にも喜捨する人がいたので随分長い時間,スピネッロ・アレティーノの傑作を鑑賞することができた.



 聖具室を出ると,後陣の半蒼穹型天井のモザイクに照明が当たっていた.ここにも喜捨で明りがつく仕組みがあることは知らなかった.ふと階下を見ると,ポルトガル人枢機卿の礼拝堂にも明かりがついているではないか.私たちは気がつかなかったが,聖具室だけでなくあちこちに1ユーロの喜捨で明かりがつく仕組みがあったのだ.もちろん礼拝堂に急行した.

 バルドヴィネッティの「受胎告知」をようやく肉眼で見ることができた.前回絵葉書を買って,初めてその存在を知った作品の実物である.

写真:
「受胎告知」
アレッソ・バルドヴィネッティ


 彼の作品は,フレスコ画ではサンティッシマ・アヌンツィアータ教会の奉納物の開廊にある「イエスの誕生」,板絵ではサンタンブロージョ教会にある「聖母子と聖人たち,天使たち」,その他にもアカデミア美術館で1点,ウフィッツィ美術館で「受胎告知」を含む2点の板絵を見ているが,今まで見た板絵にはそれぞれ不満があって,フレスコ画の「イエスの誕生」のような作品になかなかお目にかからなかった.しかし,ようやくそれに次ぐ佳品に出会うことができ,今日の「登山」の所期の目的は達成できた.

 他にもマリオット・ディ・ナルド,パオーロ・スキアーヴォなど,注目すべきフレスコ画はいくつもあるが,今日は堂内が暗いので,十分な鑑賞はあきらめた.この教会は夏に訪れるのが一番だと思う.

 それでも喜捨で明りのつく仕組みのおかげで,サン・ジョヴァンニ・ヴァルダルノの美術館の傑作「大天使ラファエルとトビアス」を描いたジョヴァンニ・(ダ・)ピアモンテの作品を新たに確認することができた.私たちが出会った,彼の2作目の作品は,リュネット・フレスコ画「ピエタのキリスト」で,スピネッロの連作フレスコがある聖具室にある.

写真:
「ピエタのキリスト」
ジョヴァンニ・(ダ・)ピアモンテ


 フランス語版ウィキペディアに拠れば,ピアモンテはピエロ・デッラ・フランチェスカの「聖十字架の物語」で助手を務めたらしい.

 聖具室には,ほかにルッカの巨匠マッテーオ・チヴィターリの彩色テラコッタ像「女性像」と,ベネデット・ブリオーニに帰せられる彩釉テラコッタ像「聖ジョヴァンニ・グァルベルト」,「聖ミニアス」があり,これらも今回はじっくり鑑賞した.シエナ派作家の彩釉テラコッタ像「聖ミニアス」もなかなかの作品だと思う.

 この教会のテンピエット(小神殿)型タベルナコロの中央祭壇にある祭壇画,アーニョロ・ガッディ「聖ミニアスと聖ジョヴァンニ・グァルベルト,及びキリストの生涯」は何度見てもすばらしい.じっくりとそれを再確認し,床模様や説教壇の大理石彫刻なども鑑賞して,サン・ミニアート教会を辞した.


サン・サルヴァトーレ・アル・モンテ教会
 少し街側に下がった所にあるサン・サルヴァトーレ・アル・モンテ教会も,これで4度目の拝観になる.クリスマスの翌日ということもあってか,たくさんの人が参拝に訪れていて,いつもは閑散としている堂内が賑わいをみせていた.

 祭壇の前には立派なプレゼピオも飾られていて,たった一人いた修道士さんも信者に声をかけられて,挨拶を交わしていた.

写真:
祭壇の前のプレゼピオに
見入る参拝者たち



クリスマス・シーズンは25日終了ではない
 来た時と同じサン・サルヴァトーレ・アル・モンテ通りの坂道を降り,サン・ニッコロ通りを歩き始めた時には,もう5時を回っていた.しかし,常々拝観の機会を伺っているサン・ニッコロ・オルトラルノ教会,バルディ通りのサンタ・ルチーア・デーイ・マニョーリ教会は今日も開いていない.

 アルノ川沿いのルンガルノ・トッリジャーニに出ると,川向こうにウフィッツィ美術館が見えた.まだ閉館時間ではないので,行列は途絶えていない.

写真:
川向こうのウフィッツィの行列


 人混みを縫うようにして,再びヴェッキオ橋を渡る.ポル・サンタ・マリーア通りはすごい人出だ.こんなに店が閉まっているのに,ショーウインドを覗きこんだりしながら楽しそうに歩いている.あちこちから来た人たちが,こうやってクリスマス休暇を楽しんでいるのだろうか.

写真:
街の雰囲気を楽しむ人達
ポル・サンタ・マリーア通り


 カリマラ通り,レプッブリカ広場,ストロッツィ通り,ヴィーニャ・ヌオーヴァ通りだけではなく,普段はあまり人通りのないボルゴ・オンニサンティも今日はなかなかの賑わいだった.オンニサンティ教会の前を通ったとき,昨日と同じように鐘が鳴るのが聞えた.

 今日で,無事,滞在10カ月目に入った.





夕暮れのフィレンツェ
サン・サルヴァトーレ・アル・モンテ通りから