フィレンツェだより
2007年5月15日


 




ボーボリ庭園
レモン温室の庭



§文化週間 第4弾 −ピッティ宮殿−

今日は,先日パラティーナ美術館で見落としたと思われる作品と,ボーボリ庭園のまだ見ていない2つの「洞窟」などを見るために再びピッティ宮殿に行った.


 ボーボリ庭園内の「レモン温室」で,「バビロニアからローマまでの古代庭園」という特別展をやっているのも魅力的だったが,まず,パラティーナ美術館の見学からスタートした.

 先日見落としたと思ったルーベンスの「三美神」のある「プッティの間」は閉室中であることを確認した.「サトゥルヌスの間」のラファエッロ「エゼキエルの幻視」は,現在ローマ出張中だった.それでもまた「椅子の聖母」をじっくり見ることができたし,見たのに忘れていたボッティチェルリの「聖母子」(やはり幼児の洗礼者ヨハネが良い)と,ルーベンスの「パイエーケース人の島のオデュッセウス」を思い出すことができた.

 また,作品としての良さまでは分らなかったが,カラヴァッジョ作と言われている「フラ・マルカントニオ・マルテッリの肖像」を確認した.「プロメテウスの間」にあるはずの「若い女性の肖像」(通称「美しきシモネッタ」)は見当たらず,何の説明もないように思えたのは,大変残念だった.


レモン温室
 パラティーナ美術館から中庭に出て,ジャンボローニャ作の十字架上のキリスト像があると言われる「パラティーナ礼拝堂」には現在入れないことを確認し,銀器博物館を再訪し,それからボーボリ庭園に向った.

 アーティーチョークの噴水やオベリスクを横目に,鳥を狙っている猫を目撃したり,吹きつける風で目に埃が入るのに苦しんだりしながら,ようやくレモン温室に辿り着いた.

写真:
レモン温室
門柱の2体の彫刻は
ローマ時代のもの


 古代庭園に関する展示は,バビロニアの空中庭園などの水遣りのための装置の解説や,ギリシア・ローマで植物栽培に少しでも関係した文学者と哲学者の古代彫像(ホメロス,プラトン,アリストテレス,エピクロス,テオプラストス),関係する神話を題材にした壺絵,彫刻,浮き彫りなど,私にとっては興味深いものばかりだった.

 ローマの庭園で栽培されていたであろう植物も,プリニウスの『博物誌』やコルメラの『農業論』を典拠にして展示されていた.それらを解説したカタログは魅力的だったが,イタリア語版のみで,値段は35ユーロ,手が出なかった.

右の写真は, 展示会のシンボル レルナのヒュドラ(水蛇)像でオリジナルは会場内に展示されている.


 会場のレモン温室の庭にも花が咲き乱れていて,大変良かった.雰囲気が伝わると思うので,トップの写真を見て欲しい.


「アンナレーナの洞窟」
 レモン温室に行く前に,未見の「アンナレーナの洞窟」(左下の写真)に寄った.天井の模様は洞窟の作者ジュゼッペ・カチャッリによるもので,海神ポセイドンの宮廷をイメージしたものとのことである.




彫像はミケランジェロ・ナッケリーニ作
「アダムとエヴァ」




衣装博物館
 もう一つ未見の「奥方の小洞窟」を見るために,もう一度坂道を登ったが,途中,今まで気づかなかった衣装博物館のあるメリディアーナ(日時計)の小宮殿を見つけて,急遽見学することにした.

写真:
メリディアーナの小宮殿


 古いものでは,16世紀のコジモ1世と大公妃エレオノーラ,美少年で知られた第7子ドン・ガルツィアの衣装が展示されている.このトスカーナ大公一家には,ドン・ガルツィア夭折の数日前に兄ジョヴァンニが死に,5日後に母のエレオノーラが死ぬという悲劇の物語がある.

 それ以後のものとしては華やかな宮廷衣装や,上流階級の女性の夜会服や普段着,花嫁衣裳などの展示や,シャネルやグッチ,イッセイ・ミヤケ,ヨージ・ヤマモトに至る衣装や装飾品の展示が目を引いた.

 一方,建物自体の室内装飾もなかなかのもので,天井画や壁画など,それを手がけた私たちの知らない芸術家の実力を思わされた.


近代美術館,再び
 衣裳博物館を下から上に見ていくと,建物の構造上,パラティーナ美術館の上階にある近代美術館に入ってしまった.見始めたらおもしろかったので,そのまま一昨日に引き続き鑑賞してしまった.

 一昨日は見逃してしまった,ロッシーニの肖像画や,ヴェルディの胸像が見られて良かった.ヴィクトル・ユゴーの胸像も見ることができた.作品の多いジョヴァンニ・ファットーリという人が偉大な画家であるということは認識できたし,アントニオ・フォンタネージの風景画は私好みだった.

 近代美術館に展示された作品の水準の高い作品が多く,再訪,三訪に値する美術館に思えた.特に風景画と肖像画は良いように思える.



 ボーボリ庭園には円形劇場など見るべきものが多い.下の写真のオベリスクは,もとはルクソールから運ばれたエジプト・オリジナルで,ローマのヴィラ・メディチにあったのをここに移したもので,その前にある花崗岩の浴槽は,ローマ時代の有名なカラカラ帝の浴場から移されたものだそうだ.

 「奥方の小洞窟」は結局時間切れで見られなかった.ともかく見るものが多くて,とても2回や,3回では全てを見尽くすことはできない.ピッティ宮殿まことにおそるべし,である.





ボーボリ庭園の円形劇場
中央にオベリスクと浴槽