フィレンツェだより
2007年5月25日


 




サン・ガエターノ教会
コンサートの後



§サン・ガエターノ教会のコンサート

今日は早めに夕食を済ませて,トルナブォーニ通りのサン・ガエターノ教会に行った.7時からここで無料コンサートがあることになっていた.


 教会での演奏会だし,オルガン曲もあるかと思ったが,アカペラの宗教曲ばかりだった.合唱はアメリカ(スターティ・ウニーティ),ケンタッキー州ウィルモアのアズベリー・カレッジのコレギウム・ムジクムという団体で,指揮は同大学で音楽理論その他の科目で教鞭をとっているヴィッキー・ベルという人だった.

 曲目はデュリュフレ,ジョン・タヴナーなどの20世紀の曲,黒人霊歌も含む幅広いもので,私の好きなウィリアム・バード,トマス・タリス,パレストリーナなど16世紀の宗教音楽,時代は違うがハインリッヒ・シュッツ,メンデルスゾーンのドイツ語によるプロテスタント音楽他,垂涎のラインナップだった.

 イギリスのカトリック音楽,国教会の英語による聖歌,宗教改革と反宗教改革,30年戦争,ユダヤ教からの改宗,黒人霊歌と,おぼろげながらメッセージが感じられそうな気がしないでもないプログラムだったが,音楽とカトリック教会の堂内という場を堪能することに専念することにした.

写真:
コンサートのチラシ
色々な教会で,同様の告知
チラシを見かける


 パレストリーナの「詩篇42」は私の好きな曲で,これが一番良かった.「鹿が泉の水を慕う如く,わが魂はあなたを恋い慕う」,この歌をラテン語で口ずさむことは,今でも私のささやかな快楽の一つだ.最後の「神よ」(デウス)という一語がなければ,恋愛詩かと思ってしまう.

 同じパレストリーナでも最後に歌った「教皇マルチェルスのミサ曲」の「キリエ」と「アニュス・デイ」は少し疲れが出たようで,もう少し練習も必要なように思えたが,何と言っても曲が良いし,音響がまた素晴らしく,「この世の罪を取り除く,神の子羊よ,我らを憐れみ給え」という一節に,思わず自分もミゼレーレ・ノービースと唱えてしまいそうだった.

 アメリカのアマチュア団体だからというわけではないが,黒人霊歌「スティール・アウェイ」が素晴らしかった.飽きてきたのか,途中から私語をしていたカップルもこの曲のときだけはおとなしくしてくれた.



 修復がなったサン・ガエターノ教会は,今後は祈りの場として常に門戸が開かれていくであろうが,それでも中央の大扉が開くことは稀かも知れない.というわけで,扉が大きく開かれている写真を外から撮ってみた.

写真:
バロック式の大伽藍
サン・ガエターノ教会の
中央大扉


 祭壇の奥に大きな丸いステンド・グラスがあり,ラテン語で「いとも聖なるイエスのみ心よ,あなたの王国がやって来ますように」(コル・イエースー・サケルティッシムム,アドウェニアト・レグヌム・トゥウム)と書いてあるように見えた.「み心」は「心臓」かも知れないが,間違っていたら容赦して欲しい.

 コンサート終了後,扉のところで団員の女性のひとりが休んでいるのを見かけた妻が「素敵な歌声で感銘を受けました.ありがとう」と話かけたらしい.相手の方も喜んで応答してくれたので,調子に乗って私も「私はパレストリーナが好きです」と言った.彼女も「自分もとても好きだ」と応じくれた.喜捨の箱に貧者の一灯を献じて帰ってきた.



 教会の中は大変涼しかったが,外は夕方の6時半になっても35度あって,今日も暑い一日だった.フィオレンティーナのユニフォームを模したTシャツなどはまだ買っていないので,日本から持ってきたTシャツを着ている.

 下の写真のTシャツは,ラテン語読書会に新しく参加してくれた人が,ギリシア土産として下さったものだ.宮城の勉強会はイングレッソ・リーベロ(入場無料)なので手ぶらで来てもらいたいのだが,折角なのでいただいた.

写真:
イタリアで袖を通した
ギリシャ土産のTシャツ


 竪琴を持つホメロスの絵と,「アンドラ・モイ・エンネペ,ムーサ」(かの人を語れ,ムーサよ)で始まる『オデュッセイア』冒頭の詩句が書かれている.

 日本から持ってきて,ガエターノ教会へ向かうフィレンツェの街角でデビューとなった.昨日の古本屋に来ていけば,老主人が喜んでくれたかも知れない.

 お返しはウェルギリウスかダンテの叙事詩の一節をプリントしたTシャツだろうか.まだ発見するにいたっていないが,あったとしても,ウェルギリウスがダンテを案内している絵柄は避けたいところだ.



 コンサートでもらったプログラムに,「ゴスペル音楽と黒人霊歌のコンサート」のお知らせのチラシが入っていた.アトランタ・キャソリック・インスピレイショナル・クワイアーという団体によるものらしく,イングレッソ・リーベロ(入場無料)と記されている.

 音楽にももちろん興味があるが,会場がヴェッキオ橋のたもとにあるサント・ステファノ教会とあるのが目をひいた.この教会ではよくコンサートが開かれるらしいが,その時でなければ中には入れないと聞いている.絶対に行こうと一瞬色めき立ったが,その日のその時間帯は私たちは,ゴルドーニ劇場でバロック・オペラ「ダフネ」を見ている.何事も全てはうまくはいかない.次のチャンスを待とう.





『竪琴を持つホメロス』とともに
サン・ガエターノ教会で