・東京地判平成11年1月28日判時1670号75頁  「FRED PERRY」商標並行輸入事件:第一審  原告らは「FRED PERRY」なる標章が付された商品をシンガポールから輸入して日本国内 で販売したところ、被告が、原告商品は偽造品である旨を広告した。これに対して、原告 は、原告商品がシンガポールにおける被許諾者が製造した真正商品であるとして、被告に よる広告が不正競争防止法2条1項11号(虚偽事実の告知流布)に該当するとして差止 等を求めた(甲事件)。これに対して、被告は、原告商品は被許諾者が商標使用許諾契約 に違反して製造されたものであるから真正商品ではなく、被告の商標権を侵害し、かつ、 不正競争防止法2条1項1号及び2号に該当するとして、差止等を請求した(乙・丙事件)。  判決は、被許諾者が使用許諾契約所定の製造場所の制限に違反したという債務不履行が あったことを認定した上で、「被許諾者において許諾契約に違反する行為があった場合で も、許諾契約が解除されない限り、商標権者から許諾を受けた者が製造販売した商品であ るという点に変わりはないから、当該商品の出所が商標権者に由来していることを示すと いう意味において、出所表示機能等が害されることはな」く、「右のような契約条項違反 の有無は、いわゆる真正商品の並行輸入として商標権侵害の実質的違法性を欠くものかど うかの判断に影響しない」として、甲事件の請求を一部認容し、乙・丙事件の請求を棄却 した。 (控訴審:東京高判平成12年4月19日) ■判決文 2 商標法は、「商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持 を図り、もって産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とする」 ものであり(同法一条)、商標の本質が、当該商標を付された商品の出所が特定の営業主 体であることを示す出所表示機能及びこれに伴う品質保証機能(以下「出所表示機能等」 という。)にあることからすれば、形式的には商標権侵害に当たると認められる行為であ っても、出所表示機能等を害さない場合には、実質的に商標権侵害の違法性を有さず、商 標権者は商標権に基づいて差止めや廃棄、損害賠償を請求することができないと解するの が相当である。  そして、我が国の登録商標と同一又は類似の標章を付した商品が輸入された場合であっ ても、それがいわゆる真正商品の並行輸入である場合、すなわち、当該標章が輸出元国に おける商標権者又は商標権者から契約等によって使用を許諾された者(以下「被許諾者」 という。)等によって適法に付されたものであり、我が国の商標権者と輸出元国における 商標権者が同一人であるか又は法律的若しくは経済的に見て一体といえる関係にあって実 質的に同一人であると認められ、商品の品質が実質的に同一であるといえるときは、我が 国の登録商標の出所表示機能等が害されることがないから、商標権侵害としての実質的違 法性を欠くというべきである。 3 また、不正競争防止法は、「事業者間の公正な競争及びこれに関する国際約束の的確 な実施を確保するため、不正競争の防止及び不正競争に係る損害賠償に関する措置等を講 じ、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする」ものであり(同法一条)、 同法二条一項一号及び二号に定める不正競争行為は、周知又は著名な商品等表示について、 他人の業務上の信用にただ乗りする行為を禁止して、周知又は著名標章の持つ出所表示機 能等につき登録商標に対するものと同趣旨の法的保護を与えたものであるから、商標権侵 害としての実質的な違法性を有しない真正商品の並行輸入は、不正競争行為ということも できず、同法上の違法性を有しないと解するのが相当である。 4 これを本件についてみると、前記第二、一の争いのない事実及び右一において認定し た事実によれば、以下のとおり、原告らの行為はいわゆる真正商品の並行輸入に当たり、 商標権侵害及び不正競争防止法違反としての実質的違法性を欠くものというべきである。