・東京高判平成11年3月24日判時1683号138頁  「ユベントス」事件。  原告(ナショナル商事株式会社)は、昭和58年に登録出願した「JUVENTUS」 「ユベントス」の商標権を有し、平成7年には存続期間の更新登録をしていたところ、被 告(株式会社日本スポーツビジョン)が請求した無効審判に対して、原審決は、「JUV ENTUS」または「ユベントス」の名称が、イタリアのプロサッカーチームである「ユ ベントス・チーム」のチーム名の略称であり、この略称が、わが国においても本件各商標 の存続期間の更新登録時に周知・著名であり、本件各商標はこれと類似するから、これら の商標をその指定商品に使用すると、その商品がユベントス・チームまたはそのチームと 関係のある者の業務に係るものと、出所について混同を生じるおそれがあるとしたうえ、 このような商標を商標権として登録しておくことは、公正な競業秩序を乱し、国際信義に 反するものであり、商標制度の趣旨に則しないから、本件各商標が商標法4条1項7号に 該当し、その各更新登録を同法48条の規定により無効とした。  本件判決は、本件各商標の存続期間の更新登録がなされた平成7年においては、「JU VENTUS」「ユベントス」といった名称がユベントス・チームのチーム名の略称であ り、サッカーファンをはじめとするスポーツ愛好者のあいだで周知・著名であったとの審 決の認定が誤りとはいえないが、本件各商標の登録出願時である昭和58年1月当時は、 ユベントス・チームの存在及びチーム名の略称が周知・著名であったとは認められないと したうえで、商標法4条1項7号(公序良俗を害する商標)については、商標の登録出願 時における不正な意図の有無を問うことなく当該商標が商標法4条1項7号に該当し、当 該更新登録が無効であるとすることは誤りであると判示して、前審決を取り消した。 ■判 決 一 取消事由1(周知・著名性の判断の誤り)について  「…そうすると、各審決が、『JUVENTUS』又は『ユベントス』なる名称が、ユ ベントス・チームのチーム名の略称であり、我が国においても、本件第一、第二商標の存 続期間の更新登録時(平成七年)において、サッカーファンを初めとするスポーツ愛好者 の間で周知・著名であったと認定したことが、それ自体誤りであるということはできない。  しかしながら、本件第一、第二商標の登録出願時である昭和58年1月当時については、 Jリーグ創設の8年前であって、プロサッカー競技の愛好者もさほどの数ではなかったも のと考えられるし、…かかる事実関係に基づいては、我が国において、ユベントス・チー ムの存在並びにそのチーム名の略称が『JUVENTUS』及び『ユベントス』であるこ とが周知・著名であったものと認めることはできないというべきである。」 二 取消事由2(商標法4条1項7号の適用の誤り)について  「(二)ところで、我が国においてその名称又は略称をもって著名な外国の団体と無関 係の者が、その承諾を得ずに当該団体の名称又は略称からなる商標又はこれらに類似した 商標の設定登録を受けることは、それが商標法4条1項8号、15号等によって商標登録 を受けることができない場合に当たらないとしても、当該団体の名声を僭用して不正な利 益を得るために使用する目的、その他不正な意図をもってなされたものと認められる限り、 商取引の秩序を乱すものであり、ひいては国際信義に反するものとして、公序良俗を害す る行為というべきであるから、同項7号によって該商標の登録を受けることができないも のと解すべきであるが、その登録出願の際には、当該団体もその略称も我が国において著 名ではなく、それ故、登録出願が前示のような不正な意図を伴うものではなかった場合に は、その登録出願後に、当該団体及びその略称が我が国において著名となったとしても、 そのこと故をもって直ちに該商標に係る商標権を保有することが公序良俗を害するものに なるとは解し難く、したがって、商標の登録出願時における係る不正な意図の有無を問う ことなく、存続期間の更新登録の当時において、該商標が我が国において著名な外国の団 体の著名な略称からなり、あるいはこれと類似するものであったことを理由として、当該 商標が商標法4条1項7号に該当し、当該存続期間の更新登録が無効であるものと解する ことは、誤りというべきである。本件に適用されるものではないが、平成8年法律第68 号による改正後の商標法4条1項19号、同条3項、46条1項5号の各規定の趣旨及び 相互関係からもそのように解すべきことが窺われる。  しかるところ、前示のとおり、原告が本件第一、第二商標の登録出願をした昭和58年 1月当時は、我が国においてユベントス・チームの存在及びそのチーム名の略称が『JU VENTUS』及び『ユベントス』であることが周知・著名であったものと認めることは できず、また、少なくとも当時はプロサッカーの愛好者は男性が多かったものと解される (…)ところ、原告は、本件第一、第二商標の登録出願後、本件第一商標については、存 続期間の更新登録の出願の頃までこれを婦人用ハンドバッグに、本件第二商標については、 現在に至るまでこれを婦人用衣料に、それぞれ使用してきたのであって、かかる事実に照 らせば、原告が本件第一、第二商標を採択した理由が何であれ、ユベントス・チームの名 声の僭用その他同チームに関連する不正な意図をもって、その登録出願をしたものではな いことが認められる。  そうであれば、本件第一、第二商標がいずれも商標法4条1項7号に該当し、その各存 続期間の更新登録は、同法48条の規定によって無効とされるべきものであるとした各審 決の判断は誤りであるものといわざるを得ない。」 裁判長裁判官 田中康久    裁判官 石原直樹    裁判官 清水 節