・東京高判平成11年6月15日判時1697号96頁  「スミターマル」特許事件:控訴審。  被控訴人(原告・住友化学工業株式会社)は、潜熱蓄熱式電機床暖房装置等に用いる蓄 熱材の製造方法の特許発明の特許権者であるところ、控訴人(被告・ミサト株式会社)は、 蓄熱材であるイ号物件を製造し、これを組み込んだ潜熱蓄熱式電機床暖房装置「ヒートバ ンクシステム」を販売した。原審判決は、特許権侵害を認め、平成10年改正前の特許法 102条1項(改正後102条2項)にもとづいて、控訴人が侵害行為により得た利益の 額を損害額として1億1600万円あまりを認容した。なお、被控訴人は、イ号物件と競 合する蓄熱材「スミターマル」を組み込んだ潜熱蓄熱式電機床暖房システム「スミターマ ルシステム」を販売していたが、スミターマルは別の発明の実施品であり、被控訴人は本 件特許発明を実施していなかった。  本件控訴審は、被控訴人は、当該特許発明を実施していなかったから現行特許法102 条2項の適用はないとしながら、現行特許法102条1項にもとづき2億3490万円の 損害賠償請求を認容した。また、102条1項において被控訴人が販売できないとする事 情があった部分については通常実施料相当額として1630万円の損害賠償を認めた。そ の結果、弁護士費用750万円をあわせて2億5870万円の支払いを命じた。 (第一審:東京地判平成9年9月17日) ■評釈等 辰巳直彦・判例評論501号41頁(2000年) ■判決文 二 控訴人の被った損害について 1 主位的請求について  特許権者が、特許発明を実施していない場合には、特許法102条2項は適用されない と解すべきであるところ、被控訴人においてその逸失利益の賠償を請求する期間中に製造 販売していた物が第二特許発明の実施品ではないことは、被控訴人も認めるところである から、被控訴人の主位的主張に係る逸失利益の主張は理由がない。 《中 略》 2 予備的主張一について 《中 略》 (二)証拠…によれば、被控訴人は、平成五年一二月ころから平成七年七月ころには、イ 号物件と競合する「スミターマル」を組み込んだ潜熱蓄熱式電機床暖房システムである 「スミターマルシステム」を販売し、全国各地で控訴人の「ヒートバンクシステム」と競 合して受注競争をしており、右スミターマルシステムは、控訴人の第二特許発明の侵害行 為がなければ販売することができた物であること及び被控訴人は、右スミターマルシステ ムについて、現実の販売実績に加えて、五万六四一七平方メートル以上の実施の能力を有 していたことが認められる。  もっとも、控訴人は、被控訴人の主張する逸失利益は、第二特許発明の実施による利益 の喪失ではなく、別発明の実施による利益の喪失であり、第二特許発明の侵害との相当因 果関係は否定される旨主張する。しかし、スミターマルシステムがヒートバンクシステム と競合し、受注競争をしている以上、スミターマルが第二特許発明の実施品ではないとし ても、そのことによって直ちにその販売機会の喪失が第二特許発明の侵害と相当因果関係 がないということはできない。 (三)証拠…によれば、スミターマルシステムには、乾式の「ルナセラー」とモルタル埋 め込み指揮の「ルナホット」の二種類があるところ、両者の一平方メートルあたりの売上 額から、それを達成するために増加すると想定される費用を一平方メートル当たりに割り 付けて控除した額の平均は、一平方メートル当たり一万一五六六円であることが認められ る。したがって、右がスミターマルシステムの一平方メートルあたりの利益の額と解され る。  もっとも、控訴人は、ヒートバンクシステムは、モルタル埋め込み式のルナホットに対 応するものであるから、平均単位数量当たりの利益額は、ルナホットの額を用いるべきで ある旨主張する。しかし、「ルナセラー」も「ルナホット」も、同じ潜熱蓄熱式電機床暖 房システムの顧客層が、乾式とモルタル埋め込み式で競合しないと認めるに足りる証拠は ないから、控訴人の主張は、採用することができない。 (四)証拠…によれば、スミターマルは、スミターマルシステムを構成する一要素に過ぎ ないことが認められるから、スミターマルシステム全体に占めるスミターマル及びイ号物 件の寄与度を考慮すべきであるが、潜熱蓄熱式電機床暖房という性質上、蓄熱材が機構上 も商品価値の構成上も必要不可欠な重要な要素であることは明らかであるから、スミター マルシステム全体に占めるスミターマルの寄与率は、少なくとも六〇パーセントと見るの が相当である。 (五)証拠…によれば、平成五年一二月ころから平成七年七月ころには、潜熱蓄熱式電機 床暖房システムの市場占有率は、被控訴人が三五パーセント、控訴人が三五パーセント、 その他の企業が三〇パーセントであったこと、被控訴人のスミターマルシステムは、他の 企業の製品とも競合していたことが認められ、右事実によれば、控訴人の譲渡数量である 五万六四一七平方メートルのうちの七五分の三〇に相当する数量、すなわち、二万二五六 七平方メートル(一平方メートル未満切り上げ)については、控訴人の第二特許権の侵害 行為がなくとも、他の企業が受注し、被控訴人は販売することができないとする事情があ ったものと認められる。 (六)そうすると、被控訴人は、特許法一〇二条一項により、次の式による二億三四九〇 万円を被控訴人が受けた損害の額として、その賠償を請求することができる。 3 右被控訴人は販売することができないとする事情があった数量についての予備的主張 二について 《以下略》