・東京地決平成11年6月23日判時1684号121頁  色画用紙見本帳事件:仮処分。  色画用紙の製造販売業者である債権者(リンテック株式会社)が、債権者の作成した見 本帳は、色彩および色名を素材とし、その選択に創作性のある編集著作物に該当し(配列 に創作性があると主張するものではない。)、債権者がこれについての著作権および著作 者人格権を有するところ、同じく色画用紙の製造販売業者である債務者(大王製紙株式会 社)の作成した見本帳は、いずれもその全55の色彩および色名のうち、色名において債 権者見本帳の全52色と一致し(3色について変更を加えている。)、色彩において債権 者見本帳の全52色中の51色と一致する(4色について変更を加えている。)ものであ るから、債権者見本帳の作成は、債権者の著作権(複製権)および著作者人格権(同一性 保持権、氏名表示権)を侵害する行為にあたるとして、債務者に対し、債務者見本帳の作 成の差止等を命じる旨の仮処分を求めた。決定は、債権者見本帳が色彩および色名を素材 とする編集著作物であることを前提とする債権者の主張は失当であるとして、本件申立て を却下した。 ■判 決 「第三 当裁判所の判断  一 著作権法12条1項は、編集物でその素材の選択又は配列に創作性のあるものを著 作物(編集著作物)として保護する旨を規定するが、これは、素材の選択・配列という知 的創作活動の成果である具体的表現を保護するものであり、素材及びこれを選択・配列し た結果である実在の編集物を離れて、抽象的な選択・配列方法を保護するものではない。 当該編集物が何を素材としたものであるのかについては、編集物事態が素材の選択・配列 の結果としてでき上がったものである以上、当該編集物の用途、当該編集物における実際 の表現形式等を総合して判断すべきである。そして、当該編集物は、その素材を知的創作 性をもって選択・配列したと認められる場合に著作物として保護され、そこで取り扱われ た素材について、当該編集著作物におけるのと実質的に同一性を有するような選択、配列 によって編集物が作成された場合には、当該編集著作物についての著作権侵害が成立する が、取り扱われた素材が異なる場合には、前記のとおり、抽象的な選択・配列方法ではな く具体的に表現されたものが保護の対象である以上、著作権侵害、著作者人格権侵害の問 題は生じないというべきである。」  「四 本件においては、まず、債権者見本帳及び債務者見本帳がそれぞれ何を素材とし たものであるかについて争いがあるが、前記認定の事実によれば、債権者見本帳は、債権 者の取扱商品の見本にほかならず、その素材は、債権者の取扱商品である色画用紙につい ての色、材質、用途、サイズ、包装状態等の商品情報であって、純粋に色彩および色名を 素材としたものではない。また、債務者見本帳は、債務者の取扱商品の見本であり、その 素材は、債務者の取扱商品である色画用紙についての商品情報であって、債権者見本帳同 様、色彩及び色名ではないというべきである。  たしかに、債権者見本帳及び債務者見本帳には、いずれも色彩及び色名について表現さ れた部分があるが、各見本帳の用途やその余の記載に照らせば、それは債権者及び債務者 の個々の取扱商品についての説明事項の一つにすぎず、たとえ債権者の主張するように、 経時的には、まず色彩の選択があり、その後その色彩の原紙を作り、原紙から取扱商品を 製作すると同時に見本帳を製作するものであったとしても、債権者見本帳及び債務者見本 帳が色彩及び色名を素材とする編集物であると認めることはできない。  したがって、債権者見本帳が色彩及び色名を素材とする編集著作物であることを前提と する債権者の主張は失当であって、債務者見本帳が債権者見本帳についての著作権および 著作者人格権を侵害するものであるということはできない。  また、仮に債権者見本帳が、その素材たる債権者の商品についての情報の選択に創作性 を有し、その点において編集著作物に該当するとしても、前記のとおり、債務者見本帳は、 債務者の商品についての情報を素材とするものであって、債権者見本帳とは取り扱われた 素材が異なるから、右同様、債務者見本帳が債権者見本帳についての著作権及び著作者人 格権を侵害するものであるということはできない。  債権者は、色画用紙においてはどの色彩を備えているかが商品価値を左右し、それゆえ に自ら企業努力を傾けて市場性、品質に秀でた色彩及び色名を選択したことを強調し、債 務者がこれを不当にそのまま踏襲しようとしていると主張するが、債権者の右主張は、結 局、債権者及び債務者それぞれの取扱商品の品揃えの同一性又は類似性を問題視するもの にすぎず、著作権ないし著作者人格権の侵害が問題となるものではない。  五 以上によれば、本件申立ては、、いずれもその余の点について判断するまでもなく 理由がない。  よって、主文のとおり決定する。」 (裁判官:中吉徹郎)