・東京地判平成11年7月12日  「アール・ジー・ビー・アドベンチャー」事件。  原告(トニー・ウエイマン・クー)は、中国(香港)国籍を有するデザイナーであるが、 平成五年七月一五日観光ビザで来日して以降、数回に渡り来日し、被告の下において、デ ザイン画作成等の業務に従事した。他方、被告(エーシーシープロダクション製作スタジ オ)は、アニメーション等の企画、撮影等を業とする株式会社である。  原告は、被告のために本件図画を創作した。すなわち、本件図画は、原告が、株式会社 セガ・エンタープライゼスのプレゼンテーション用ゲームソフト「ソニック・ザ・ヘッジ ホッグ」のサブキャラクターとして、あるいは、七〇ミリ・シージー・ステイション・シ ミュレーション・ライド・フィルム「アール・ジー・ビー・アドベンチャー」に用いるキ ャラクターとして創作されたものである。被告の前二者に係る企画は採用されなかったが、 被告のアール・ジー・ビーに係る企画が採用されたため、本件図画はすべて、アール・ジ ー・ビー用として使用されることになったため、被告は、本件図画を使用したアール・ジ ー・ビーを製作し、これを米国ショウスキャン社のシミュレーション・シアター・システ ムに用いるなどして、配給した。日本では、東京都世田谷区にあるテーマパーク「ナムコ・ ワンダーエッグ2」におけるアトラクションとして上映されたが、原告の氏名は同作品に おいて、本件図画の著作者として表示されていない。  本件は、原告が被告に対し、本件図画に係る著作権(複製権、翻案権)および著作者人 格権に基づいて、本件図画を使用したアニメーション作品の頒布、頒布のための広告およ び展示の差止めおよび損害賠償の支払を請求したが、その著作権が被告に帰属するものと 認められたため、原告の請求が棄却された事例。 ・雇用契約の成否等  「2 右認定した事実を基礎に検討すると、以下のとおり、原告と被告との間に、平成五 年七月一五日ころ、雇用契約が締結されたと解することができる。すなわち、@被告の代 表者である菅谷は、原告と契約を締結するに当たって、あらかじめ勤務時間、給与等の諸 条件を説明し、原告もこれを了解しているが、その合意の内容は、雇用契約と解するのが 合理的であること、A被告から原告に対しては、原告がデザインを作成した出来高と関係 なく、給与等の名目で毎月定額が支払われており、給与支払明細書が同時に交付され、ま た、その後、雇用保険料及び所得税の源泉徴収がされているが、このような措置に対して、 原告は一切異議を述べたことはないことに照らすと、原告が支給を受けた金員の性質につ いて、請負等の業務に対する対価と解する余地は全くないこと、B被告から原告に対し支 給された金額の多寡については、原告に対して賄い付きの下宿を提供していたこと、被告 が原告の日本式のアニメーションに関する技術習得の希望に沿って協力していた事情に照 らすと、給与として必ずしも低額とはいえないこと、C作業の状況をみると、就業に必要 な作業場所、道具についてはすべて被告が用意していること、被告は、原告に対し、デザ イン作成について、個別的具体的な指示をし、その指示に従って、原告が作業をしている こと等の事情を総合的に考慮すると、原告と被告との間に締結された契約は、雇用契約で あると解するのが相当である。 以上によれば、本件図画は原、被告間の雇用関係に基づいて作成されたというべきである から、本件図画は法人等の業務に従事する者が職務上作成したものというべきである。 そして、前記認定の事実に照らし、本件図画の作成は法人である被告の発意に基づくもの であり、かつ、本件図画は被告の法人名義の下に公表することが予定されているものであ るといえる(なお、被告の就業規則中には、著作物の作成者に著作権を留保する旨の別段 の定めはなく、かえってその著作権を被告に帰属させる趣旨の定めがあることは前記認定 のとおりである。)。  そうすると、本件図画は、被告に著作権が帰属することになるから、原告に著作権が帰 属することを前提とする本件請求は、その余の点を判断するまでもなく、理由がない。」